勇者の孫は勇者になりたかった   作:犬吠崎独歩

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第三話 Fighting Gold

「てめェよくもッ、騙しやがったなッ!!」

 

「人聞きが悪いわね、貴族で軍人だったのは本当よ?」

 

「過去形じゃねぇか!! それを騙したッつーんだよ!! このォ、犯罪者がァ!!」

 

 ヴィオラの恐らく魔法──で吹っ飛ばされた俺と彼女は屋根から屋根へと飛び移り、全力疾走していた。行き先?知らねえよそんなの。多分地獄だと思うな、俺は。

 

 地上では衛兵がうじゃうじゃ追っかけて来てる。進むも地獄、退くも地獄だ。

 

「はいはい悪かったわよ。……でもいいの? 私に騙されなかったら、あのまま奴隷兵として野垂れ死ぬのを待つだけだったと思うけど?」

 

「ぐっ……それはそうだけどよ」

 

 ハイここで俺から説明します!

 俺達奴隷兵は一回なっちまったら死ぬまで奴隷兵なんだ!這い上がるチャンス?無いです。普通の奴隷とは違って自分を買い戻すコトはできないよ。だって俺みたいなクズの命を少しでも有効活用するための制度だもの。くたばれ帝国。

 ちなみに脱走は死罪。くたばれヴィオラ。

 

「フフッ、そうよねぇ? わかったらとにかく走んなさい。街の外に馬車を待たせてあるからそれで脱出よ」

 

「脱出ゥ? どこへ? 帝国のどこに逃げても一緒だろ」

 

「……なーいしょ♡」

 

「クソォァ!! ムカつく!!」

 

 可愛さ余って憎さ百倍とはコイツのためにある言葉だと思う。

 

「さ、そろそろ降りるわよ。風魔法は使えるかしら?」

 

「使えましぇん!」

 

「チッ、しょーがないわねぇ。────跳ぶわよ! 掴まんなさい!!」

 

 屋根の切れ目からヴィオラが跳んだので、それに続いて俺も跳んで両腕でヴィオラの腰をキャッチする。尻に顔を突っ込む形になったがこれは不可抗力だ。いいね?

 ……あーやわらけ。ここが桃源郷かな? やっぱ身体は最高だなコイツ。

 

「ちょ、おま、下僕!! お尻に顔擦り付けてんじゃねぇわよ!!」

 

「うっせぇ! お前今んとこ身体しかいいトコねェんだからいいだろこんぐらい!!」

 

「~~~~ッ! 後で殺す!!」

 

 自由落下していく身体をヴィオラの魔法によって地面に激突する前に少し浮かすと、俺たちは無事に着地することができた。

 

「ふぅ、堪能したぜ」

 

「覚えてなさいよあんた……チッ、はいこれ」

 

 初めてヴィオラの顔が歪む。ざまぁみやがれクソ女。

 

 が、切り替えが早いようでまた胸の谷間に手を突っ込み、今度は何やら一振りの剣を取り出して俺に渡してきた。……収納魔法かな?

 

「なんだよこれ」

 

 その剣は太めの刃が紫色に輝き、何やら蠍と山羊の意匠の入った……芸術品のような長剣だった。

 

「武器よ武器。これから街門突破するんだから持ってなさい。……行くわよ」

 

「お、おう」

 

 状況に流されるまま、俺は駆け出すヴィオラの後を追いかけるのであった。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 程なくして、街門の前にたどり着いた俺たちだったが、案の定そこは衛兵によって固められていた。

 

「どうすんだよこれ」

 

「突破するって言ってんじゃない」

 

 話になんねぇな。

 

「いたぞ!! 包囲しろ!!」

 

 追いついてきた憲兵と門の衛兵に俺たちは取り囲まれた。

 

「おい、何か策はねェのかよ元軍人様。囲まれちまったぞ」

 

 絶体絶命の状況、打開するにはもうヴィオラに何か考えがあるかを祈るしかない。

 

「それとも魔法で何とかしてくれんのか」

 

「あー、駄目ね。爆破魔法は私たちまで巻き込むから、直接戦闘しかないわ。気張んなさいよ」

 

「そうかよ」

 

 ……ダメだな。期待した俺がバカだった。

 あまりに自信満々なもんだから、きっと何か秘策があるもんだと思ってたがとんだ期待外れ。誇大妄想の口だけ野郎だったみたいだ。

 

 ────こんな奴と心中なんてしてやるものかよ。

 

 そう思った時、俺たちを囲む兵士の一人が言った。

 

「大人しくお縄につけ! ……そうだそこの奴隷兵! その女を渡せば貴様の脱走は許してやってもいいぞ!」

 

 そうか、そうか。俺は生き残れるんだな。

 

 それに対しヴィオラはあくまでも勝気な様子で言い返した。

 

「ハッ、私が大人しくするわけないじゃないの。さぁ押し通るわよ下僕────」

 

「悪いな」

 

 俺はせめてもの謝罪を添えて、ヴィオラの腕をひねってから足を払い、地面に押し倒してその白磁のごとき首筋に先ほどの剣を当て拘束した。

 

「痛ッ……!? あんた何をッ……!?」

 

 ヴィオラの顔が痛みと怒りで歪んでいる。

 いい気味だ。

 

「こちとらお前と一蓮托生なんてゴメンなんでな。憲兵に引き渡させてもらう」

 

「馬鹿じゃないの!? あいつらの言うこと信じてるワケ!?」

 

「お前よりはな。マシだ、だいぶだいぶマシだ。俺は少しでも生き残りたい、どんな手を使ってもな。────だから今まで生き残ってこれた」

 

 そうだ。俺はどんな手を使っても生き延びてきた。

 

 奴隷兵の仲間を見殺しにした、時には盾に使った。

 

 強い奴、偉い奴の靴を舐めた。

 

 とにかく死にたくなかった。だってそうだろ、死んじまったら全部お終いだ。

 なりたかったものにだって────あれ、俺は、

 

 

 ────何になりたかったんだっけ?

 

 

「あ、そ」

 

 ヴィオラは冷めたような顔をして、俺から視線を外した。

 

「でもいいの? あいつらあんたの名前なんて微塵も覚えちゃいないわよ」

 

「……それがどうしたッつうんだよ」

 

「ただ生き延びるだけなら誰だってできるわ。そこから特別になろうとすんなら、多少のリスクを冒してでも危険な賭けに出るべきじゃないのかしら」

 

「さっきから何をごちゃごちゃ言って────」

 

「なりたかったんでしょう? 勇者に」

 

「────ッ!!」

 

 そうだ。俺は────俺は、勇者になりたかったんだ。

 

 なんで今まで忘れてたんだろう。

 

 ……いや違う。目を逸らしてたんだ。

 家出してから冒険者になって、挫折して、奴隷兵に成り果てて。

 二度と叶わない夢に相対するのが辛かったから。

 

「……ね、チャンスっていうのはそうそう何度も降りてこないのよ」

 

「……ああ」

 

「降りて来たんなら、掴みなさいよ。……ま、好きにしなさい。こうなったのは私の落ち度だから、是非もないわね」

 

 そう言うと、ヴィオラは観念したように目を閉じた。

 

 ────俺は、どうするべきなんだろう。

 ふいに、昔じいちゃんがよく聞かせてくれた詩を思い出す。

 

 二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めてた。一人は泥、一人は星を見た。

 

 ────俺はどっちなんだろうな。

 

 すると、憲兵の一人がこちらへ駆け寄ってきた。

 

「おお! よくやったぞ奴隷兵!! さぁ、その女をこちらへ渡すんだ」

 

 あぁそうだ、前から聞きたかったことがあるんだ。

 

「あの、憲兵さん」

 

「なんだ?」

 

「俺の名前、言ってみてくださいよ」

 

「……何を言ってる? 奴隷兵の名前なんぞ一々把握してるわけがないだろう」

 

「はは、そうっスよね」

 

 そうだ。奴隷兵の名前など、誰も覚えちゃいない。

 明日をも知れない夜露のような命。命というには余りに無価値な、死ぬためだけの夢より儚い何か。

 

 そんなのは嫌だ。俺は俺だ。

 奴隷兵なんて名前じゃない。俺の名前はレオンハルト。────レオンハルト・ノットガイルだ。

 

 ならば、どうする。選ぶべき道は二つに分かたれた。

 さぁ、お前はどうするんだ。レオンハルト・ノットガイル。

 

 ────そんなの決まってる。俺は……

 

「おい何してる! さっさとその女を”ッ」

 

 星を見ていたい。

 

 業を煮やして近づいてきた憲兵の首が飛び、血を撒き散らしながら宙を舞って地面に落ちた。

 下手人は……もちろん俺だ。

 

「きっ、貴様ァ!? 一体何の真似だ!? 自分が何をしているかわかっているのか!!?」

 

 囲みの中からそんな声が聞こえる。知らねぇよ、そんなの。

 俺はヴィオラの拘束を解き、彼女の手をとって共に立ち上がる。

 

「……悪かった。」

 

 ヴィオラは一瞬呆気にとられたような顔をしていたが、すぐに普段の不敵な顔で笑った。

 

「ま、今回は許したげるわ。────行くわよ、下僕」

 

「下僕じゃねえ。名前で呼べよ」

 

「は? 面倒くさいわねあんた」

 

「長かったらレオンでいい」

 

「しょーがないわねぇ。……じゃ、行くわよ。レオン」

 

「あいよ」

 

 俺たちは並んで歩き出す。そして少しずつその歩調を速め、兵士の侍る街門へと走り出した。

 

「来るぞッ!! 何としても奴らを逃がしてはならん!!」

 

 突然の同僚の死に同様していた兵士たちだったが、隊長格であろう一人の号令によって平静を取り戻すと、一斉に俺たちへ迫りくる。

 

 剣十、槍二、盾なし、弓なし、魔術師なし。

 

 ────勝機、あり。

 

「ほらよ、返すぜ!」

 

 俺は走りながら拾った先ほどの兵士の首を向かい来る兵士の群れへ投げつけた。

 するとそれは残っていた血液を散らしながら先頭の兵士へと直撃。少しばかりの動揺が奴らに走り、足が止まる。

 

 ────は、止めたな。足を。

 

 俺は脚に力を込めて加速、そしてその勢いそのままに剣を振る。

 

 また一人首が飛ぶ。兵士どもが軽装で良かった。

 

 続けざまに首無しの死体を蹴って正面に飛ばして兵士の足を止め、側面から斬りかかる兵士のそれを避けてその隙間をすり抜け前進する。

 

 そういえばヴィオラはどうしているだろうか。ちらりと後ろを確認してみると……

 

「冗談だろ……」

 

 飛んでいた。空中を。いや()()()()()のか、足の裏で超小規模の爆破を繰り返して。

 

 最後に少し大きめの爆破が起こると、丁度俺の真横に彼女は着地した。

 

「見てたわよ。なかなかやるじゃない」

 

「お前足の裏どうなってんの??」

 

「細かいこと気にしてんじゃないわよ! さ、行くわよ!!」

 

「へいへい」

 

 後ろから追ってくる兵士を除けばあとは眼前の門を守る槍兵のみ。

 

「一人一殺でいいわね?」

 

「おうともさ」

 

 俺の返事を合図に二手に分かれて前進する。目標はお互いの目の前の槍兵だ。

 

 俺たちが寄ってくるのを見て、槍兵がその得物を構えて俺を串刺しにせんとする。

 

 その間合いまであと三歩、二歩……一歩!!

 

「死ねぇっ!!」

 

 間合いに入った瞬間に槍が飛んでくる。が、見える。

 俺だってそれなりの修羅場は潜ってきたんだ、これぐらい避けられなくて、どうするってんだよ!!

 

 ────穂先が顔を掠め、傷から血が垂れる。

 

 自然にヒュウッと口笛が出た。偉いぞ俺、よく避けた。

 そのまま槍が戻る前に相手の懐に入り込んで狙うは……つぶらなお目目だ。

 よう、俺の()()()()を、お前の穴にブチ込んでやるぜ。

 

「うおらァッッ!!」

 

 低くした姿勢から、真っ直ぐ相手の眼球目掛けて突くと剣を通して嫌な感触がする。ホール・イン・ワンだ。

 

「ぃぎゃああああああああああああッ!?」

 

 まだイかないのか?欲しがりちゃんめ、もっと奥までくれてやるよ。

 さらに力を込めて押し込むと、そいつは一際大きく喘いで息絶えた。

 

 ────さて、ヴィオラの方はと。

 

「【爆ぜよ(デトネィション)】ッ!!」

 

「うおぶッ」

 

 ……爆破魔法を手のひらに集約させて人間を爆ぜさせたのか。

 うわぁ止めて欲しいなァ……肉片と内臓飛び散りすぎ!! 子供に見せらんないよコレ。

 

「片づけたわね! じゃ破るわよ! 門!!」

 

「どうやって破るの? ……いややっぱいい、大体想像つくよ」

 

「もっちろんコレよ! 【爆ぜよ(デトネィション)】ッッッ!!」

 

 ヴィオラは両手を門に当てると爆破魔法を唱えた。衝撃と破片に備える……。

 が、衝撃は外にいくように調整したようだ。やはり天才か。

 

「そして逃げる前にィ────もう一丁【爆ぜよ(デトネィション)】ッ!!」

 

 ヴィオラは後ろを振り返ると、迫りくる残りの兵士たちの集団を爆破した。

 うわぁ、子供の頃爆竹で芋虫の塊吹っ飛ばしたコト思い出したわ。かわいそ。

 

「これでOK! さ、行くわよ!! レオン!」

 

「ちょッ、引っ張るなって! 引っ張るなら股間についてるもう一本にして!!」

 

「死ね!!」

 

 破壊された門を、ヴィオラに引っ張られながら駆け抜ける。

 

 これで名実ともに帝国のお尋ね者だが、心は晴れやかだった。重い荷物を降ろした時のような────そんな気分。

 

 せっかくだ、もう一度頑張ってみよう。今度こそ俺はなるんだ。何かに。

 

 そう決意を新たにしたところで、ふと引っ張られている方の手の甲が目に入る。

 

「……んん?」

 

 そこには、怪しく光る謎の紋章が刻まれていた。

 

「なんだ……コレ?」




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