蚩尤の名は、
年棒は金一千五百で、"仕事"を頼んだ場合は別途料金を支払う、ということに決まった。
蚩尤には
いや、どちらかといえば
幽連はこれを、深度で例えた。深く潜るほど強く、速くなるらしい。深度は十段階あり、俺の強さは深度四、広の強さが深度六に相当するようだ。
彼女には護衛と一緒に、稽古もつけてもらっている。とはいえ、仕事もあるので、日に一時間程度だが。
むしろ広の方がやる気を出している。毎日幽連にボコボコにされていた。仕事しろ。
手元に残したのは五人だった。残りの三人は兄上のところに送った。侍女という名目だが、護衛も兼ねている。
まあそれはそれとして、仕事と訓練という変わり映えのしない毎日を過ごしながら、各国の情報を集めていた。
最近起こった大きな事件は、秦の六大将軍の最後の一人、王騎が討たれたことだ。
討ったのは李牧で、この報に各国は沸いた。やはり秦は、どの国からも嫌われているらしい。
それからしばらく経ち、俺は兄上に呼び出された。
「江南に移れ」
と、いきなりそんなことを言われた。江南は長江河口の右岸で、かつて呉という国が根拠地としていた場所だ。
「あそこは土壌豊かで、穀物の収穫量も多い。それをさらに向上させろ。それに、あそこなら他国の間者も入り辛かろう」
そう言って、兄上は二ッと笑った。つられて俺も笑う。
「なるほど。かしこまりました」
農業改革の技術などは、俺が兄上に上げて、兄上からほかの県に伝えている。しかし表向きには、兄上が全ての県に指示を出している形になっている。
春申君という大きな存在があるため、俺はほとんど無名に近いのだ。どこまでいっても「春申君の弟」である。俺がそうあることを望んでいるので、兄上もそれを酌んでくれているのだ。
例えば農業系の知識や技術は、他国に盗まれても領土の広さの関係から、大した痛手にはならない。そもそも、南部の農業技術をそのまま北部に持っていっても、大抵は通用しない。
軍事力強化という意味では、
また北方遊牧民に鐙が伝わると、手が付けられなくなる恐れがある。
まあ、海が近いのは良いな。刺身が食える。川魚は寄生虫が怖いからな。川魚の
そんなわけで、俺は江南へと移住することになった。やはり直接指揮した方が、成果が上がるからな。兄上が送ってきた後任の人間に引き継ぎをする。ここを怠ると混乱するからしっかりしておかないとな。
主な部下は全員連れていくつもりだったが、神妙な顔をして李玄が暇乞いを申し出てきた。
理由は、こんな感じだ。
李玄には長らく子がいなかった。それでも離縁したり、妾を取ろうとしなかったのは、愛妻家だったからだろう。しかし、妻にとっては嬉しい反面、後ろめたさもある。この時代、子が産めないというのは、十分に離縁の理由になったからだ。もちろん、男に種がないというパターンもあるのだが。
ともかく、李玄が四十を超えた頃に、妻から妾を取ってくれと頼まれたらしい。それでも李玄は拒み続けていたが、最終的には折れて、妾を取ることになった。そして、子が産まれた。その子が一人前になったというのが、理由のひとつ。もうひとつは、この歳でさらに南に行くというのは辛い、というものだった。
たしかに江南の暑さは半端ないらしいからな。
「今まで、お世話になりました。余生を健やかにお過ごしください」
「もったいない、お言葉です。息子のことをよろしくおねがいいたします」
「ああ。一年ほど俺の側で学ばせて、それから兄上のところに送ろう」
「はい。よろしくおねがいいたします」
李玄が深く頭を下げた。老いて出来た子だから、よほど可愛いのだろう。武術も、自分では厳しくできないと思ったのか、広に任せていた。
ちなみに、俺にも妻子はいる。兄上に紹介された遠縁の女性だ。断る理由もないので快く迎えた。夫婦仲は良好で、娘も二人いる。跡継ぎが産めないことを気に病んでいるようだが、こればっかりはどうにもならないしなぁ。
修も妻子持ちだが、広は独り身だ。妓楼には行っているみたいだから、女に興味がないのではなく、家庭に興味がないのだろう。まあ、そういう生き方もいいさ。
こうして俺たちは、新天地で生活することになった。
いい機会だ。そろそろ決戦に向けて、色々と考えておいてもいいかもしれない。
ちょっと短め。主人公の強さは0.4幽連くらいですね。弱くはないけど、そんなに強くもないって感じです。
原作では狂人だの人格崩壊だの化け物だの言われていた幽連ですが、会話はまともに成立してたし、精神的に不安定だっただけなんじゃないかなぁと。