あの後、迫り来る追っ手を撒き続け、ようやく新エリー都へと帰り着いたリン達。
バレエツインズに突入するため、ビデオ屋で準備を進めていた。
「……リン、体は大丈夫かい?」
「うん。タクミが守ってくれたから、怪我はしなかったよ。ただ……」
「……」
リンは表情を曇らせる。無理もない。バレエツインズの時と同じく、自分の弟が再び命の危機に陥っているのだ。
アキラも内心、穏やかでは無い。しかしここは兄として、妹を安心させなければならない。
アキラはリンの両肩に優しく手を置く。
「リン」
「……?」
「大丈夫だ。タクミは必ず生きてる。僕達の手で、必ず助け出そう」
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」
アキラとリンがそんな会話をしている最中、突如Fairyがモニターに警告を表示させる。
「警、告……ビデ……屋に……接近す……反……アリ」
「……Fairy? 急に何を言い出すんだ?」
「け───こ、く…………!」
「Fairy? どうしたの? 様子が変だよ?」
突如起きた異変にたじろぐ二人。アキラは防犯カメラを確認し──表情を歪めた。
「リン、大変だ……店の前に、治安官がいる……!」
「え!?」
『ごめんください! 六分街のパトロール担当の治安巡査の者です! すみませんが、ドアを開けて頂けませんか?』
ドアの向こうから治安官の声が聞こえる。
「……治安官は僕が対応するから、リンはFairyの方を頼む」
「うん……!」
そしてアキラは静かに工房のドアを開け、治安官との会話を始めた。
リンは息を殺してそのやり取りを見守る。1階、2階とビデオ屋の色々な場所を捜索される。
そして治安官の一人が、工房のドアを指差した。
「……失礼ですが、こちらの部屋は?」
「そこはただの物置です。私物や古いビデオなんかを置いてるんで」
「念の為、開けてみても?」
「こんな所まで見せる必要があるんですか……?」
「そうは言っても、選挙期間中のありふれた決まりでして。ご了承ください」
「……! 待って──」
治安官はアキラの制止を無視し、工房のドアを開けようとする。
「待たれよ」
「!」
すると、聞き覚えのある声が入口から聞こえてくる。そこに立っていたのは、朱鳶と青衣だった。
「……新たな指令です。街頭パトロールに人手が要ります。六分街の臨検は、我々特捜班に任せてください」
「……了解しました。それでは失礼いたします」
工房を調べようとしていた治安官は店を後にし、代わりに朱鳶と青衣がこの場に残った。
「……既に申請は承認された。一帯の保安検査は我らの管轄となった故、ひとまず安心するが良い」
「ありがとうございます、先輩。さて、店長さんの番ですよ……状況を説明してください」
「……その前に、どうして二人がうちに来たのか聞いてもいいかな?」
「良かろう」
青衣は理由を説明する。簡単に言えば、Fairyが彼女に救難信号を送ったのだ。
一大事だと察した二人は急いでこの場に駆けつけた、との事。
「……そうなんだ。ありがとう、二人とも」
「お礼を言うなら、状況を説明してからですよ。何があったのか、詳しく聞かせてください」
「……そ、それは……」
「どうしたんですか? 何か言えない訳でも?」
「そ、そうなの。色々と事情があって」
「……事情というのは、お二人がプロキシである事と何か関係してるんですか?」
「!?」
「……やはり、図星でしたか」
思わず面食らったリンに、朱鳶はそんな反応をする。青衣も既に知っていたのか、動揺することはなかった。
「ど……どうしてそれを」
「それについては我から説明をしよう。実は、一週間ほど前から店長どのの正体を悟っておった」
しかし、と青衣は説明を続ける。
「何も最初からそう決めつけていた訳では無い。あくまで最初は疑念を抱くのみであった。だが、ある日を境にその疑念は確信に変わった」
「ある日?」
「うむ。前に六分街にて、我の身体が充電切れになりかけていた時があった」
「なりかけていたふり、でしょう? 先輩」
「……コホン。それで、我は近くを通りかかったタクミに助けを求めた。『急いで治安局に連れて行って欲しい』とな。その時にタクミは、どうしたと思う?」
「……普通に連れて行ったんじゃ?」
「タクミくんは、ファイズに変身して青衣先輩を治安局まで連れて行ったんです」
「!!」
驚愕するアキラとリンを他所に、青衣は言葉を続ける。
「タクミにはろくに事情の説明もしなかった故、我は近くの者に助けを求めるのかと思った。しかしタクミは迷うことも無くファイズへ変身し、我をものの十数秒で治安局まで連れて行ったのだ」
「……そんな事が」
「タクミがファイズである……と来れば、その家族である店長ど達も只者ではないのだろうと……そう思ったのだ」
「私は先週、先輩からその事を伝えられました。最初それを聞いた時は、正直ショックでした。私達を……騙していたんだって」
「……っ」
「でも、考えをまとめてるうちに思ったんです。もしかしたら店長さん達は、のっぴきならない事情でそうせざるを得なくなってしまったんじゃないかって。店長さん達の人柄は、私もよく知ってますから」
「……」
「……ただ、それでもやっぱり嫌なんです。親しい人に隠し事をされるのは……」
朱鳶はリンの肩に手を起き、じっと見つめる。
「……店長さん、一つ約束をしてください。確かに、私は法や規則を重んじる治安官ではありますが……それ以前に、貴方の友達なんです」
「……!」
「私の事を友達と思ってくれているなら……隠し事なんてしないでください。私だって貴方に隠し事はしません。だから、信用してください」
「……朱鳶さん」
リンは朱鳶の言葉を聞いて、少しの間俯いた。しかしその後に顔を上げ、朱鳶の眼を見つめる。
「ごめん朱鳶さん、私が間違ってた。私、もう絶対嘘はつかない! もし騙すような事があったら、お兄ちゃんの運気がだだ下がりしても良い!」
「リン?」
「ふふっ……ありがとうございます、リンちゃん」
二人の会話を聞いていた青衣は辺りを見回す。
「……して、店長どの。先程からタクミの姿が見えぬが、出かけておるのか?」
「!」
「……朱鳶さん、青衣。落ち着いて聞いてくれ、実は──」
『タクミは、連れ去られた。我々を襲った武装集団によってな』
「?」
「え……? この声って……」
工房のスピーカーから声が聞こえる。アキラやリン、そして朱鳶にとっても聞き覚えのある声だった。
『久しいな、朱鳶』
「雅……?」
原作よりも早めに仲直りした世界線