アキラからの通信にカイザは眉を顰める。
「ブリンガーが……?」
『ああ。対ホロウ六課が会場に到着したけど、すでにブリンガーの姿は無かった……!』
「……! 朱鳶さん、タクミ、今の聞いた? ひとまず、ホロウから出よう!」
「はい!」
そうしてデッドエンドホロウから抜け出した四人。カイザは雅を支えながら、二人にこう言った。
「朱鳶さん、雅さんをお願いします! 俺と姉ちゃんはブリンガーを追います!」
「タクミくん、大丈夫なんですか? 貴方も怪我をしているんでしょう?」
「そうだよ、ブリンガーは私に任せて、タクミは朱鳶さんと一緒に医療拠点に行って治療を受けて!」
「……俺はまだ大丈夫だ。それに、んな悠長な事は言ってられねぇ。治療なら後からゆっくり受ける!」
「でも……──!」
リンはタクミを止めようとし、少しの間考え込む。そして──
「……うん、分かった。それじゃ一緒に行くよ。でも、絶対無茶はしないでね? 少しでも危険と思ったらすぐに言って!」
「ああ。分かってる」
「それじゃあ朱鳶さん、雅さんをおねが────」
「!!」
「リンちゃん? リンちゃん! どうしたんですか!?」
突如リンが同期していたイアスが動きを止め、その場へ倒れ伏せた。
「……まずい。さっきの刀の暴走で、イアスの内部モジュールか何かがダメージを受けたんだ……!」
カイザは動かなくなったイアスを抱きかかえ、朱鳶の方を見る。
「イアスは俺が連れていきます。朱鳶さんは早く医療拠点に!」
「……っ、分かりました! 無茶だけはしないでくださいね!」
「分かってます!」
そうして朱鳶は近くの医療拠点に、カイザは変身を解除し演説会場へと向かった。
そして数分もしないうちに会場へ到着したタクミ。
しかし、そこには既にブリンガーの姿は無かった。会場に停められている車は、部下によって破壊されたのか盛大に燃えている。
「……ブリンガーはどこに──」
「タクミくん!」
突然、後ろから女性の声が聞こえる。振り返ってみると、対ホロウ六課の三人がこちらの元へ向かっていた。
タクミはその三人の中で、一人だけ見覚えのある人物がいた。
「……! 蒼角!」
「タクミ、久しぶり!」
「……タクミくん、そのボンプは? プロキシさんはどうしたのですか?」
「さっき色々あって、H.D.Dの接続が切れた。でも姉ちゃん達は大丈夫だ。それよりも、ブリンガーが逃げたんだ! 早く追わないと!」
「……っ、それなら、すぐにポート・エルピスに行きましょう! 彼はそこへ逃走した可能性が高いです!」
「……? なんでポート・エルピスに?」
「先程ここへ向かう途中に、パールマンが情報を明かしました」
ポート・エルピスにはホロウに呑み込まれた貨物輸送用の古い埠頭がある。
現在白祇重工にいるパールマン曰く、黒幕達はヴィジョンの名義で様々な物資やエーテル物品を運び込んでいたらしい。
「……! なら姉ちゃん達に伝えないと!」
「大丈夫です。出発前に、白祇重工のクレタ社長にプロキシさんが連絡出来るよう通信の周波数を伝えておきました。もうすぐ向こうから連絡が来るはずです────」
ちょうどその時、通信機から音が鳴った。
『柳さん、聞こえる?』
「もしもし、プロキシさんですか? 私達は演説会場にいます! タクミくんとも合流しました!」
『そっか……良かった────うわっ!? ちょ、クレタ、落ち着いて……!!』
「……? どうしましたか、プロキシさん?」
『あ、ううんなんでもないよ! それで柳さん、そっちの状況は?』
柳はリンに状況を説明する。
どうやら白祇重工の方では、パールマン達がヴィジョンとブリンガーが癒着していたという動かぬ証拠を発見したらしい。
そして白祇重工はその証拠を監察官を介して、ブリンガーへと突きつけた。
出頭を命じられ、なりふり構わなくなったブリンガーはポート・エルピスへと逃走したとの事だ。
『──おっけー、分かった! ポート・エルピスだね! すぐに向かうよ!』
「ありがとうございます、プロキシさん。それでは先に港で待っています」
そう言って柳は通信を切り、皆の方へと向き直る。
「我々もポート・エルピスへ向かいましょう! 今度こそブリンガーを逃がしはしません!」
「ほら、タクミくん! 車に乗って!」
「あ、はい!」
そうして四人は車へと乗り、ポート・エルピスへと向かっていった。
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「……アイツ、マジで心配かけさせやがって……」
「あはは……」
ビデオ屋にて。
柳達から状況を伝えられ、改めてタクミの無事を確認できたリン達は安堵のため息をこぼしていた。
青衣は顎に手を置き考える。
「それにしても……ポート・エルピスか。罪人共が姿をくらますにはうってつけの場所であるな」
「うーん……どうしたらブリンガーの位置を把握できるかな……?」
「それについては心配無用だ、店長どの。治安局には、かの地の事情に通じた者が控えておる故、あの大物を釣り上げる策があるやもしれぬ」
「そっか……それなら、位置の特定は青衣さん達に任せるね!」
「よし。あたしもベンに連絡して、こっちの状況を伝える! ブリンガーの野郎の好きにはさせるかってんだ!」
「ありがとう二人とも。僕たちもH.D.Dの接続の修理が終わり次第、港の方に向かうよ」
青衣とクレタはビデオ屋を後にする。アキラとリンも、出発の準備をする事にした。
そしてH.D.Dの修理が完了した後、アキラはソファにぐったりと座り込んだ。
「お兄ちゃん、準備はもう終わった? 早くタクミのところに行かなきゃ!」
「そんなに急かさなくてももう終わってるよ。早くポート・エルピスに行こうか」
「うん!」
そうして二人は車に乗り、ポート・エルピスへと向かって行った。
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一方その頃。
新エリー都のとある河川にて。ひとつの影が這い出る。
川から出てきたのは、先程カイザによって落とされたサイガだった。
サイガはベルトからサイガフォンを取り外し、通話終了ボタンを押して変身解除をする。
そして青白い光の中から、
驚異的な防水性能を誇る強化スーツを纏っていたからか、少年の服は全く濡れた様子はない。
「…………はぁ」
少年はその場に座り込み、すっかり暗くなった空を見て深く溜息を吐いた。