『ぐわぁぁあああああああ!!!』
ファイズによる強化クリムゾンスマッシュをくらい、ブリンガーは断末魔と共に爆発した。
「…………」
それを見届けたファイズは、ようやく戦いが終わったと言わんばかりに立ち尽くしていた。
すると後ろからリンの声が聞こえる。
「皆、こっちだよ!」
ホロウ六課の三人とプロキシは、ブリンガーがけしかけたエーテリアスをなぎ倒しながら、ようやくここへとたどり着いた。
「タクミ!」
ファイズの姿を見つけたプロキシは短い足でとてとてと駆け寄る。
「無事で良かった──ってあれ? ブリンガーは?」
「え? あー……倒した」
「へ? 倒した? ……もしかしてさっき見えた赤い光ってタクミが出したヤツ?」
「……多分」
「タクミくん……その姿はどうしたんですか?」
「……えっと、これはさっき拾った────」
『ファイズぅぅう!!! 』
「!!」
声がした方を振り向く。そこには息を切らしながらも、しぶとく立ち上がるブリンガーの姿があった。
『この私を倒そうなど片腹痛いわ……!! この妖刀で葬り去ってくれる!!』
「……! させるか──くっ……!!」
ファイズは思わず膝を着いてしまう。
郊外でサイガと戦闘を繰り広げてから今まで、まだ半日程度しか経っていない。
それほど濃密な時間を過ごしたタクミは、度重なる戦闘により立っているのもやっとな状態だった。
「タクミ! 無理しないで!」
「プロキシの言う通りだ。無理はするな、タクミ」
「……分かりま──え?」
膝を着いていたファイズは上を見上げる。するといつの間にか、雅が横に立っていた。
「待たせたな……あとは任せろ」
『星見、雅ぃ……!!』
忌々しく彼女を睨むブリンガー。最早冷静さを失ってしまった彼は勢い任せに妖刀を雅へと叩き込む。
雅は、呼吸ひとつ乱さずに無尾を鞘から抜く。
そして────
「ハァッ!!」
青い狐火と共に、渾身の斬撃を放つ。
その斬撃はブリンガーを妖刀もろとも破壊し、これにて短くも長い戦いは決着が着いたのだった。
───────────────────────
ブリンガーを倒したその後。
雅がブリンガーにとどめを刺す所を見届けたタクミは、体力消耗&蓄積された戦闘のダメージにより即気絶。
そのままポンペイの時よろしく病院へ運び込まれる事となった。
そしてまたしても色々な人が病室へ訪れた。
見舞いに来たクレタに『病院の常連にはなるなよ』と釘を刺されたのは記憶に新しい。
そして現在。
「……」
「……」
「……猫又」
「……」
「……猫又ってば」
「……どうしたの?」
「いやあの……もうニコ達帰ったぞ? お前もそろそろ帰った方が──」
「いやだ」
即答。
猫又は現在、タクミがいるベッドの掛け布団に顔を埋めている。
そのせいでタクミは身動きが取れないでいた。ちなみにこの状況は二回目である。
心配をかけた自分も悪いとは思っているタクミだが、こうも引っ付かれると彼としては気恥ずかしいばかりだ。
「……怖かったんだぞ。ニコと一緒にタクミを探してる間、死んじゃってたらどうしようって……」
「……猫又」
ぐぅの音も出ない。もし自分が猫又の立場なら彼女と同じ気持ちになっていただろう。
ただそれはそれとして、いつまでもくっつかれては困る。誰かに見られでもしたらあらぬ誤解を受けるだろう。
「とにかく、タクミが無事で良かっ──」
『貴方が無事で良かったわ……!』
タクミは病室のテレビに目をやる。猫又との会話で気が付かなかったが、今テレビでは恋愛映画が放送されていた。
映っているのは、怪我をして入院した主人公の元にヒロインがお見舞いに来るシーン。
ヒロインは主人公が寝ているベッドの布団に顔をうずめ──
『私、怖かったの。貴方が死んでしまったらどうしようって』
『お願い、どこにも行かないで……!』
『貴方を愛してるの!!』
「……」
タクミがテレビの画面を見ていると、布団に顔をうずめていた猫又が突然バッと起き上がる。
「っ、猫又?」
「……!!」
猫又の顔は真っ赤だった。おまけに目は泳ぎまくっており、汗だくである。
「……猫又? お前マジでどうしたんだ?」
「にゃっ!?い……いや、あたしは大丈夫だぞ! ヘイジョーウンテンだから!!」
熱があるのではないかと勘繰ったタクミは猫又のおでこに手を当てようとする……のだが、猫又はそれを慌てて払い除ける。
「……猫又、熱があんなら無理はすんなよ?」
「だ、大丈夫だってば! タクミったら、そんなにあたしの事が心配なの?」
「当たり前だろ」
「……………………にゃ」
「ね、猫又!? なんかさっきよりも顔赤くなってるぞ!? ニコに連絡を──」
「その必要はないわ」
「おわああアンビー! いつの間に……」
猫又の後ろにはいつの間にかアンビーが立っていた。タクミには彼女が入ってくる様子が見えていたので驚きはしなかった。
「な……なんでここに?」
「……いつまで経っても帰って来ないから連れ帰りに来たの。早く持ち場に戻れってニコが」
「わ、分かった。えっとタクミ、それじゃああたしはもう帰るぞ! お大事に!!」
「あ、ちょ──」
猫又は顔を赤くしたまま、逃げるように病室を後にする。
「タクミ」
「?」
「猫又は別に熱があるわけじゃないわ。安心して」
「そ……そうか。なら良かった」
「でも、私は熱があるかもしれない」
「え?」
「だから、測ってくれる? 手で」
「手で?」
「手で」
「わ……分かった」
アンビーはタクミに顔を近づけ、タクミはアンビーの額に手を当てる。
手のひらにアンビーの体温が伝わる。熱くはない。
「えっと……特に何もないぞ。平熱だ」
「そう。ありがとう」
「……どういたしまして?」
「それじゃ帰るわ。お大事に、タクミ」
「あ、ああ」
アンビーはそのまま病室を出て行った。
「……??」
タクミは何故体温計を借りずにわざわざ手で測らせたのかが分からなかった。
しかし、いくら考えても仕方が無いのでひとまずその疑問は忘れる事にした。
タクミしか居なくなった病室には、テレビから流れるエンドロールの曲が聞こえるのみ。
そして、アンビーと入れ替わるように誰かが病室へ入って来た。
「あ」
「元気か、タクミ」
「こんにちは、タクミくん」
やって来たのは雅、朱鳶の二人だった。