執事喫茶①
「執事喫茶?」
「そ」
六分街のビデオ屋、Random Playの前。
掃除をしていたタクミの元に、エレンがやってきた。何やら、頼み事があるらしい。
「今度文化祭があるだけどさ……うちのクラス、執事喫茶をやる事になったんだよね。でも病気でホールに一人欠員が出ちゃって」
「それで……代わりに俺に出てもらいたいって事か?」
「うん。一日目だけで良いからさ」
エレンは代わりになる知り合いは居ないかと友人に聞かれた時、タクミの事が頭に浮かび『いる』と一つ返事で答えたらしい。
何故タクミのことが浮かんだのかはさておき、確かに他クラスの男子で補う訳にもいかない。
割と暇な時間が多いタクミに頼むのは合理的ではあるのだが……
「執事ってどうやればいいのか分かってないんだけど」
「そんなん他の男子だって同じだし、大丈夫でしょ。なんとなくで良いからさ」
「んーそうは言ってもなぁ……」
タクミの普段の性格や口調は、執事のそれとは程遠い。
故にタクミはフィーリングで執事を演じ切らなければならない。
万が一その執事喫茶で失態を晒してしまえば、せっかく紹介してくれたエレンの顔に泥を塗ってしまうかもしれない。
「……そんなに心配ならさ、ボスに教われば?」
「ライカンさんに? 良いのか?」
「ボスの事だし、多分断ったりしないよ。多分」
「──なるほど。執事の礼儀作法、でございますか」
「ああ」
タクミの話を聞いたライカンは、顎に手を添えしばらく考える。
「……エレン、文化祭は何日後に?」
「三日後」
「ふむ……三日もあれば十分ですね。それではタクミ様、私で良ければお教え致します」
「本当か? ありがとう」
「滅相もございません。このライカンにお任せ下さい」
それから三日、ライカンから執事に相応しい喋り方、身だしなみ、マナーなど……様々な事を教わる事となった。
しかし、ライカンにはヴィクトリア家政の業務があるため少ない時間ではあった。
それでも分かりやすく、簡易的に教えてくれたため、タクミはなんとかその知識を吸収しきることが出来た。
───────────────────────
そして迎えた文化祭当日。タクミはエレンと共に学校へ向かった。
執事服はヴィクトリア家政から借りたもの。サイズはほぼピッタリである。
「じゃあ着替えて来る」
「ん」
更衣室に移動するタクミ。廊下ですれ違う生徒からは好奇の目で見られる。
当然と言えば当然だろう。タクミはこの学校の生徒では無い。
エレン曰く担任の許可は取っているらしいので問題はないが、それでもアウェーな感じは拭えない。
更衣室に移動し、執事服に着替える。
前に執事服を試着した際、リナがやたらとタクミを写真に撮っていたが……
(あの写真、広まってねーだろうな……)
知らない人に執事服姿を見られるのは別に構わないが、顔見知りに見られるのはなんというか……気恥ずかしい。
故に執事喫茶のヘルプをやる事は身内であるアキラとリンにすら言っていない。
ノックノックなどで自分の写真が広まっていない事を祈りつつ、着替えを終えたタクミは更衣室を出てエレン達の元へ向かう。
「着替えたぞ」
「お、君がエレンの言ってた助っ……人……」
タクミを見てルビーは言葉を詰まらせる。凛とモナも同様、タクミの姿を見て目を丸くしていた。
まさか変に見えるのだろうか。
執事服の着方はライカンから一通り教わっている。何もおかしい所は無いはずだ。
「……」
「……あの、どうしたんすか? まさか似合ってなかったとか?」
「え!? あいや、ソンナコトナイヨ!!」
「とっても似合ってるよ! エレンちょっと話があるんだけど良いかな!?」
「は? ちょ──」
エレンを強引に連れていくルビー達。
タクミに声が聞こえない程度の距離でエレンに詰め寄る。
「エレン、あの子とどんな関係なの!? あんな上物と知り合いなんて聞いてないんですけど!」
「ルビー落ち着いて。あと上物って言い方やめな?」
凛に諌められるルビーに、エレンは溜息を吐きながら答える。
「……昨日言ったじゃん。バイトの同僚だって。別にそれだけだから」
「ホント〜!?」
「ホントだっての。てかなんでそんな気にすんの?」
「へっ!? あーいや……その──」
───────────────────────
そうして文化祭が始まり、エレン達のクラスにも様々な客が訪れる。
「人多いな……」
「他校からの生徒もいるからね。ほら、タクミも早く注文取ってきて」
「あ、ああ」
ライカンから教わった『執事に相応しい言葉遣い』を頭の中でおさらいし、接客に臨む。
「ご注文をお伺いいたします、お嬢様」
「あー、えっと……この『ふわふわパンケーキ』を──」
「……ん?」
「……え?」
テーブルにつき、メニュー表を持っている客と目が合う。その客は……タクミにとって酷く見覚えがある顔だ。
というか、シーザーだった。