「…………あー、クソ」
青空を見上げながら、タクミは悪態をつく。
今日の新エリー都は快晴。誰もが絶好のお出かけ日和だと感じるだろう。
…………ホロウ災害に巻き込まれてさえいなければ、の話だが。
時は一時間前を遡る。
ブリンガーの件で、何故ファイズドライバーの位置が傭兵たち……そしてサイガに割れていたのか。
それを調べる為に乾は、しばらくベルトを預けて欲しいとタクミに言った。
そしてファイズギアを渡す代わりに、タクミは乾からデルタギアを預かった。
タクミはデルタギアには適合している。しばらくの間、もしもの時はデルタに変身して戦うことになるだろう。
デルタギアを乾から預かり、六分街へと帰る途中、タクミは不幸にもホロウ災害に巻き込まれてしまった。
しかしアタッシュケースを肌身離さず持っていたおかげで、デルタギアが彼の手元を離れることはなかった。これに関しては不幸中の幸いと言えるだろう。
しかし、もう一つの不幸が彼を襲う。
タクミは災害に巻き込まれた際に、足を捻挫してしまったのだ。
ホロウでエーテリアスに襲われても、デルタに変身して戦えば問題ない──そう思っていたが、これでは戦う所かまともに動くことすら出来ない。
(せめて……安全な場所を探さないとな……)
ホロウで寝腐るのはエーテリアスに『食べてください』と言っているようなもの。
とりあえず立ち上がるために、なにか掴まれるものを探していると──
「よいしょっと」
「っ、え?」
後ろから誰かがタクミの腕を掴む。それを支えに立ち上がったタクミは何事かと横を向くと──
「やっほ、奇遇だねタクミ」
「悠真!」
なんと肩を貸してくれたのはホロウ六課の悠真だった。
悠真はタクミの左腕を自身の肩へと回し、歩き出す。そのおかげで、エーテリアスに見つかる前に安全な場所へ行くことが出来た。
「助かったぜ悠真……助けに来てくれたんだよな?」
「うーん、そうだって言いたいんだけどねぇ……実は僕もホロウ災害に巻き込まれたクチなんだ。君と会えたのは偶然ってわけ」
肩をすくめながら悠真はそう言う。よく見ると彼は私服姿で、いつもの武器も持っていなかった。
「今日は非番でさ。それでコーヒーでも買いに行こうかと出掛けた矢先に、ね。おかげで折角の休みがパーだよ」
「んーそうか……じゃあ救助が来るまで待つしかないか」
「まあ幸いホロウ災害が起きた場所はルミナスクエアの近くだし、大人しく待っとけば──」
ドゴォン!!
悠真の声を遮るように、何かの破壊音がホロウに鳴り響く。
音がした方を向けば、壁の破壊によって巻き起こった砂埃の中から、タナトスが姿を現した。
「……! エーテリアス……!」
「しかも上級か……大人しく待ってるなんて悠長なことは言ってられないな──よしタクミ、ちょっと失礼……!」
「うぉっ!?」
悠真はタクミを背負い、タナトスから逃げる。障害物を軽やかに避け、飛び越えながらひたすら走る。
まだ発生したばかりのホロウだからか、幸い空間転移が起こることは無く、二人は物陰へと避難することができた。
壁に寄りかかり、座り込む二人。
「よし、ここまで来たらひとまず安心かな──ゲホッゲホッ……!」
「? 悠真、大丈夫か?」
「……っ、ああうん、大丈夫だよ。久しぶりに全力で走ったからね……少しむせちゃってさ」
「……そうか」
悠真の言葉に何かが引っかかるタクミだったが、深くは聞かない事にする。
悠真は物陰からひっそりと顔を出す。タナトスは辺りを見回し、こちらを探している様子だった。
「……アイツ、執念深いね。見失いはしたけど、まだ僕らを探してるみたいだ」
「……このままじゃ見つかるのも時間の問題、か」
タクミは手元のデルタギアが入ったアタッシュケースを見つめる。
悠真は今武器を持っていない。丸腰で上級エーテリアスの相手をするのは、いくら悠真と言えど苦戦を強いられるだろう。
ここは自分がやるしかない。
意を決したタクミはアタッシュケースからデルタドライバーを取り出し──
「はーいストップ」
悠真に手で止められてしまった。
「今タクミは動けないんだからさ、無理はしちゃダメだよ。ここはおにーさんに任せな」
「任せなって……武器もないのにどうやって──」
「武器? あるじゃん、
そう言って悠真は、タクミが持っているデルタドライバーを指差した。
「……!! まさか悠真、お前」
「タクミ、前に教えてくれたよね。デルタはファイズと違って『誰でも』変身できるって」
「……確かに出来るけどよ、デルタギアにはデメリットが……」
そう、デルタギアには適合しなかった人間の精神を狂暴化させてしまう副作用を持つ『デモンズスレート』が内蔵されている。
悠真が適合していなかった場合、彼の精神は『デモンズスレート』によって汚染されてしまう。
「分かってるよ。でもやらなきゃここで二人とも死ぬかもしれない……僕はともかく、アンタはここで死んでいい人間じゃない」
「!」
悠真はデルタドライバーを腰に装着し、物陰から出る。そして、先程から二人を探していたタナトスはその視界に悠真をとらえる。
「グゥゥウウウ……!」
「ま、安心してよ。僕だってこんなとこで死ぬつもりは無いからね」
「悠真……」
悠真はデルタフォンを手に持ち、トリガーを引く。
「変身」
[Standing by]
音声でキーコードを入力し、待機音が鳴り響く。彼はデルタフォンを右腰のデルタムーバーにセットする。
[Complete]
その瞬間、悠真の体は青白い光に包まれ──デルタへと変身した。
それを見たタナトスは、腕の刀を構え姿を消す。
どこへ行ったのかと思うのも束の間、タナトスはデルタの目の前に姿を現し、攻撃をしかけた。
「おっ、と」
デルタはその奇襲を見切り、軽々と攻撃を交わしお返しに蹴りを入れる。
ひるんだタナトスにデルタは次々と追撃をかましていく。
「弓なしでも……っ、案外なんとかなるね……! ハァッ!!」
「グゥオオオオ!!」
ファイズよりも威力の高い攻撃をくらい、壁に吹き飛ばされるタナトス。
そろそろ頃合いかと睨んだデルタは、デルタフォンを腰から取り外し、ミッションメモリーを取り付ける。
[Ready]
「…………えーっと、タクミ。必殺技ってどうやるんだっけ?」
「『チェック』だ! 『チェック』!」
「おっけー。チェック!」
[Exceed Charge]
デルタはデルタムーバーを立ち上がるタナトスに向け、銃口から銀色のポインティングマーカーを射出。
瞬間移動で逃げることも適わず、タナトスは動きを封じられる。
「ふっ!!」
マーカーが当たった事を確認したデルタは高く飛び上がり────
「はぁぁあっ!!!」
タナトスに向け『ルシファーズハンマー』をお見舞いした。
渾身のキックを食らったタナトスは『Δ』のマークを浮かべ、呻き声を上げながら消滅した。
「ふぅ……とりあえずはこれで一安心かな──あ」
何かを思い出したデルタは自分の身体を見る。どこにも異常はない。具合が悪い訳でもない。
「……悠真? なんともないのか?」
「……多分。もしかしたら僕、デルタギアに適合してたのかも──」
「そうか……なら良かった」
タクミが胸を撫で下ろしていると、後ろの方から声が聞こえる。
「柳さん、こっちだよ!」
「! あの声は……」
こちらに向かって来ているのは、イアスに同期したリンと柳だった。
「姉ちゃん……!」
「それに月城さんまで! ナイスタイミングですね!」
「見つけた! タクミ……と、あれ?」
「……その声……まさか浅羽隊員ですか?」
「ご名答〜」
デルタフォンを取り外し、変身を解除する。すると見慣れた悠真の姿が青白い光から現れた。
「あ、てか僕よりタクミの事をお願いしますよ。彼、足ぐねっちゃってますから」
「え!? タクミ大丈夫!? 他に怪我は……」
「大丈夫だ。悠真のおかげで怪我はしなかったからな……」
今度は柳の肩を借り、歩き出す。歩く途中でなぜ柳とリンが一緒だったのかを聞いた。
ホロウ災害警報について聞いた際、タクミと連絡が取れなかったリンは早速救助へ向かった。
その際、柳から『悠真と連絡が取れない』という旨の連絡を貰ったので、彼女と共にここへ来たのだそうだ。
雅と蒼角は他の被災者の救助に行っているため、ここにはいない。
「連絡が取れないと思ったら、悠真もホロウに巻き込まれちゃってたんだね……」
「私はてっきり非番なのを良い事に家でぐっすり眠っていたのかと」
「いやいや月城さん、いくら僕と言えど招集かかったらさすがに行きますからね!?」
「「「…………」」」
「……え、僕そんな信用ない?」
デルタに変身するゼンゼロキャラが書きたかった……