ツイッギー
薄暗く、冷たい部屋の中。
頭部にズキリとした痛みを感じ、タクミはゆっくりと目を開けた。
「……?」
知らない天井。知らない壁。
そして──
「……!? なんだこれ……」
意識がはっきりとし、ようやく気づく。
タクミは手術台らしきものに横になっている。さらに腰や手足には抑制帯が巻かれており、身動きが出来ない状態だったのだ。
(…………まさか、俺)
ホロウ災害の類ではない。
自分は拉致されてしまったのだという事実に気付いたタクミは、気絶する前の出来事を思い出し、如何にしてこうなったのかを必死に探る。
(今日は……そうだ、一人で映画を見に行こうとして──…………駄目だ、思い出せねぇ)
恐らくだが誰かに気絶させられ、どこかに誘拐されたのだろう。
しかしここが何処なのかはもちろん、気絶してどれくらいの時間が経ったのかが分からない。
今頃アキラ達は何をしているのだろうか。助けに来ているのか、それともまだタクミが拉致された事に気づいていないのか。
当然スマホは手元には無い。とりあえず自分に出来ることは無いかと考えを巡らせていると──
「……っ!」
突然、椅子以外何も無かった部屋の扉が開く。光が差し込み、その眩しさでタクミは目を細める。
「あら、目が覚めたのね。おはよ」
ドアを開けたであろう聞き慣れない女性の声が聞こえた。やがて光に目が慣れ、タクミは女性の姿を目にする。
「……………………え?」
タクミはその女性の顔を見て、唖然とする。
白い髪に左目の黒い眼帯。そして謎の白いボロボロの制服。
いくつか相違点はある。しかし、彼女の顔は──どこをどう見てもタクミの友人、アンビーそのものだったのだ。
似ているという次元ではない。アンビー本人では無い事は確信しているが、それでも言葉が出なかった。
「……」
「どうしたの? 私を見るなりそんな顔して──ああ、そっか。貴方、この顔を見るのは初めてじゃなかったわね」
「……アンタが、俺を攫ったのか? なんで俺をさらったんだ? アンタは一体──」
「はいはい、落ち着いてボク。慌てなくても、ゆっくり説明してあげるから、ね?」
諭すようにそう言った白髪の少女は近くに置かれていた椅子に腰掛ける。
「……あ、そうだ。その前に貴方の事、たっくんて呼んでもいいかしら?」
名乗ってもいないのにこちらの名前を知っている。タクミは警戒心をより露わにする。
「…………」
「……沈黙は肯定と受け取るわね。それじゃあたっくん……私の顔を見てこう思ってるでしょ? 『アンビーに双子の姉妹がいたのか』って」
「……違うのかよ」
「『姉妹』って所は合ってるわ。でも、ただの姉妹じゃない」
「私達は──クローンなの。同じ素体を元に作られた、ね」
タクミは彼女の言葉に驚きを隠せない。アンビーはあまり自分を語ろうとする人間ではない。
それはタクミもそうなのでお互い様ではあるが、まさかこのような事実があったとは思わなかった。
「昔防衛軍にね……『シルバー小隊』って部隊があったの。アンビー隊長と……あなたのもう一人の友達の11号は、クローンの兵士としてその部隊に配属されていた」
「!! アンビーと、11号が……」
元防衛軍医のアンという人物の主導のもと、作られた10人以上のクローンで構成された部隊。
彼女らの力は凄まじいものであり、隊長であったアンビーはその中でも一際高い実力を持っていたという。
しかし……そのクローンは一人作るだけでも途方もない程のコストがかかる。
技術不足による難航も起因し、クローンの制作は中止。軍の派閥争いの影響で、シルバー小隊は『一人』を除いて廃棄をすることにした。
その廃棄の仕方は──確実に失敗する任務に赴かせ、戦死させるというもの。
その任務で唯一生存し、帰還した『複製体0号』アンビーは、訓練の時に負傷し、作戦に出られなかった11号を抹殺するよう命じられる。
しかしアンビーはこれを拒否。自らの命を断つ形で11号の廃棄を防ぎ、アンビーは──0号は廃棄され、シルバー小隊は壊滅したのだった。
「…………」
「……ふふ、ひどい顔してるわよ。たっくんには刺激が強すぎたかしら?」
彼女の話を聞いたタクミが感じた感情────それは驚愕。
想像を絶する境遇を辿ったアンビーや11号への同情や哀れみの気持ちは当然ある。
しかし……しかしそれ以上に、タクミは彼女らシルバー小隊をゴミのように扱った者たちの腐り切った人間性が分からなかった。
ここまで人間は残酷になれるのか、と。
「シルバー小隊の詳細は……こんな感じ。でもね、今の話には裏があるの」
作戦に赴き廃棄されたシルバー小隊。しかしその中に一人、ひっそりと生き延びていた者がいた。
その少女は侵蝕により四肢を失い、闇市で売りさばかれながらも必死に生き延び、その先で元防衛軍医でである闇医者に拾われたのだ。
彼女は麻酔がほとんど効かない体質であるが故、施術には耐え難い苦痛を強いられた。
「それでも私は──ツイッギーは、必死に生き延びた。どんなに痛くても……苦しくてもね」
「……!」
シルバー小隊のもう一人の生き残りである目の前の少女、ツイッギーは自身の機械の義手を撫でながらそう言った。
「今でも、ハッキリと覚えてる。姉妹たちと一緒に過ごしたあの場所、あの日々、あの期待の眼差し……」
「……」
「あの闇医者が手に入れた資料と私の記憶……その二つのお陰で私は──シルバー小隊の技術を再現する事ができた」
「……お前、まさか」
「そうよ。私の目的は、シルバー小隊をこの手で復活させる事。その為に今日まで生きてきたんだから」
聞く限り、シルバー小隊の技術は復活させてはならないほどに罪深い技術だと感じる。
それに彼女の話を聞いてタクミは違和感を感じていた。
「……お前の目的は分かった。けど、なんでそれで俺を攫うことになるんだ? それに、そんな大事な事を初対面の俺にベラベラと喋っていいのかよ」
「うん? 別に良いわよ。だって貴方とは、これから長〜い付き合いになるんだから」
「は?」
ツイッギーの言っている意味が分からない。彼女は構わずに話を続ける。
「今の私は手足のない欠陥品……そして、そんな私が作った姉妹も、また欠陥品。だから、貴方の力がいるの」
「──オルフェノクの力が」
ツイッギーはタクミの頬に手を添え、そう言った。