「トリガーさん、アンビー、今日は色々とありがとうな」
「いえ、罪なき市民を守るのは兵士として当然の務めですから」
ラーメンが出来上がるのを待っている間、トリガーとアンビーと話をすることにした。
「……まさか11号の好物が激辛ラーメンだったなんて……タクミは知ってたの?」
「まあ、11号とはそこまで短い付き合いでもないからな。好物くらいはわかる」
「……いつの間に、そんなに仲良くなってたんだ」
「確かに、11号が話す事と言えば軍関係以外ではいつも六分街の事ばかりでしたね」
「よほどここが気に入ったんだろうな」
「あと、タクミくんの事も」
「え」
「実は11号からよく貴方の事を聞いていたんです。……まさかこんな形で再会できるとは」
トリガー曰く、11号が激辛ラーメンの話をする時はだいたいタクミの名前も出てくるらしい。
「……よほど11号に気に入られたのね、タクミ」
「どういう感情なんだよその顔は」
「トリガー……その、聞きたい事があるのだけど」
「? なんですか?」
「その……11号は私の事について、何か話してた?」
「……いえ、貴女について言及した事は一度も。少なくとも私と話をしている時は、ですけど……」
トリガーがタクミの方を向く。タクミも今までの彼女との会話を思い出してみるが……
「……俺も、11号がアンビーの話をしてるのは聞いた事がないな」
「……そう」
「……」
タクミはアンビーの反応で彼女と11号の関係に疑問を抱く。
かつて同じシルバー小隊だった二人が今、お互いの事をどう思っているのか。
「……かつて、11号には憧れの存在がいたと聞きました」
そんなタクミの考えを汲み取ってか、トリガーが話し始める。
「ですがその人は、とある日を境に彼女の元から突然姿を消したそうです。軍では、このような脱走は『裏切り』と見なされます」
「……」
11号はアンビーの事を『裏切り者』だと考えているのだろうか。とは言え、真相は本人に聞かなければ分からない。
「…………なあ、アンビー。答えたくなかったら答えなくても良いんだけどさ」
「?」
「11号が軍にいた事は知ってたのか?」
「ええ。軍を離れたあと、ニコに11号の近況を探ってもらったの。そこで、彼女がオボルス小隊にいることを知ったわ」
「……つまり、会おうと思えば会えたって事だよな? アンビーは11号に会いたいって思わなかったのか?」
「思わなかったわ」
キッパリと、そう言い放った。
「……別に11号の事が嫌いなわけじゃない。嫌いじゃないからこそ、会うべきではないの。居場所を見つけた彼女に……私という『過去』は必要ない」
「……」
「……11号が私の事をどう思おうと、彼女の自由。彼女には、貴方やプロキシ先生のような友人、トリガーのような戦友がいれば十分だから」
「……アンビー」
「……明日、私はあのホロウに戻ってツイッギーと決着をつける。そして──シルバー小隊の技術を完全に消し去る」
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この後、テイクアウトした激辛ラーメンを持ち帰り11号に食べさせた。
記憶を失ってもなお、彼女は激辛を顔色ひとつ変えずに完食してみせた。
もう夜も遅いので、彼女を工房のソファで引き続き寝かせておくことにした。
そして夜九時頃、タクミの部屋。
タクミは、デルタギアのアタッシュケースの中身を確認していた。
明日の『とある用事』のための準備だ。
ファイズギアは現在、乾に預けているため手元にない。
そんな時、部屋にアンビーが入ってきた。
「あ……ごめんなさい、邪魔しちゃって」
「いや、別にいいけどよ……どうしたんだ」
「その、どうしても聞きたい事があって」
「……聞きたい事?」
「ツイッギーが言ってた……オルフェノクの事についてなんだけど」
「!……そういやまだ説明してなかったな」
乾から聞いた『オルフェノク』の存在。
その事は誰にも話さなかったが……アンビーがツイッギーからその名前を聞いた以上、彼女には説明しなければならない。
タクミはアンビーに『オルフェノク』について知っている限りを説明した。
生態、姿、戦い方……あくまで乾から教えてもらった情報ではあるが、一通り話した。
それを聞いたアンビーは──
「……エーテリアスとは違う、ホロウの外でも生きることが出来る怪物──そんなの、本当に新エリー都に存在するの?」
「俺だって信じてなかったよ。昨日まではな」
オルフェノクの力を求めるツイッギー。彼女は元からその存在を認知していた訳では無い。
ツイッギーにオルフェノクの存在を教えたのは──
『"彼"から聞いたわ。オルフェノクは人類の進化形態なんだって』
ツイッギーが時折口にしていた、『彼』なる人物。
その男が、ツイッギーにオルフェノクの存在を吹き込んだのだろう。
生息どころか名前すら知られていなかったその存在を、ツイッギーともあろう者が簡単に信じるだろうか。
「──でもツイッギーは、その存在を信じて疑わなかった」
「ああ。って事は実際に見たんだろうな……オルフェノクの姿を」
その男がオルフェノクなのか、それとも男にオルフェノクの仲間がいるのかは分からない。
それよりも、アンビーは気になる事があった。
この疑問は、どうしても無視できなかった。
「……タクミ」
「なんだ」
「貴方は……オルフェノク、なの?」
「……さあな。そいつは俺が一番知りたい」
タクミ自身、自分がオルフェノクではないと否定しきれない部分がある。
というのも本来、原則オルフェノクにしか変身できないファイズ。それに、タクミは変身できて『しまっている』。
タクミ以外は変身できない。誰一人としてだ。
「……明日、ツイッギーに会いにあのホロウに行く。アイツにオルフェノクの存在を吹き込んだのは誰なのか──聞かなきゃならない」
「!! 本気なの……?」
「仕方ないだろ。今んとこアイツに聞くしか方法はないんだからよ」
ツイッギーを通じて謎の男とコンタクトを取ることがができれば、自身がオルフェノクなのかどうかが分かる……かもしれない。
確証はないが、やらないよりはマシだろう。
「……ツイッギーが素直に話してくれるとは思わないわ」
「だろうな。そん時はちょっと乱暴に問い質すしかないな」
「……すごく危険な戦いになるかも」
「ま、確かに一人じゃ危険かもな」
タクミはアタッシュケースを閉じたあと、わざとらしく咳払いをする。
「……まあ、それでだ、アンビー。一つ提案……っつーか頼みがあるんだけどよ」
「頼み?」
「単刀直入に言う──俺も一緒にあのホロウに行かせて欲しい」
「!」
「俺達は目的は違えどどっちもツイッギーに用がある。おまけに俺は不本意とは言え、シルバー小隊の事を色々と知っちまったんだ。それならさ、いっその事お互いに背中を預けた方が良いと思ったんだ」
「……背中を、預ける」
「まあその、無理にとは言わない。お前の邪魔をするつもりはないし、手出しすんなって言われたらしないからさ」
『こちらから介入はしない』と言いつつ、やはりタクミは彼女を放っておく事ができなかった。
アンビーはタクミの言葉を聞いて、しばらく考え込む。そして──
「……ハッピーエンドで終わる映画では、主人公は信頼できる仲間に背中を預けて戦うのがお約束」
「!」
「分かった。貴方がそこまで言うのなら……一緒に行きましょう」
「アンビー……ありが──」
「ただし、一つだけ約束して欲しい。もし自分の身が危うくなったら迷わず撤退を選んで。ツイッギーが復活させたシルバー小隊の技術の力は未知数。変身してても、貴方が負傷を受けないという保証は無いから」
「もちろん分かってる……けど、それはアンビーも同じだからな?」
「うん、約束。指切りしましょう」
「え? いや、そこまでしなくても」
「指切り」
「はい」
こうして共同戦線を張ることにした二人。
明日、来たる決戦に向け各々で準備を進めていくのだった。
そして翌日の朝。
「タクミくん、11号と三人でお出かけしませんか?」
「えっ」
トリガーからの急なお誘いに、タクミは思わず間抜けな声が出た。