「11号、ここがルミナスクエアですよ」
「……随分、人が多いのね」
見渡す限り人、人、人。いつの日も賑やかで、過疎という言葉を知らない街、ルミナスクエア。
この街に、トリガーと11号は訪れていた。
「新エリー都でも大きめの街ですからね。どこか行きたい場所はありますか?」
「行きたい場所……そう言われても、どこに何があるのかが分からないわ」
「うーん……それもそうですよね。とは言え私も頻繁にここに来る訳では無いので──そうだ、タクミくんに行き先を決めてもらうのはどうでしょう?」
「えっ俺?」
彼女達の付き添いで来たタクミは素っ頓狂な声を上げる。
……本来は部外者であるはずのタクミが、何故付き添いをする事になったのか。
簡単に言えば、11号の記憶を取り戻す助けになるかもしれないからだ。
オボルス小隊のメンバー程では無いが、タクミも11号とはほぼ毎日会っている。と言うのも彼女が毎日六分街に現れるからだ。
一緒に激辛ラーメンを食べたり、一緒に野良猫を愛でたり──そんな交流を続けてきたタクミだからこそ、11号と一緒にお出掛けをすれば、何かも思い出せるかもしれない。
そうトリガーは考えたのだ。
「……11号、今腹は減ってるか?」
「え? ええ、少し……」
「それなら、近くにあるラーメン屋に行こうぜ」
「らーめん?」
「昨日の夜食ったやつだよ。お前は三度の飯よりも激辛ラーメンが好きな奴だったんだ」
それを聞いて、11号は考え込む。
「……確かに、アレはとても美味しかった。毎日食べたくなるような、病みつきになる美味しさだったわ」
「なら行き先はそこで決まりですね。早速行きましょうか、二人とも」
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錦鯉にて、タクミと11号は黒鉢赤辛鳥白湯ラーメン、トリガーは白鉢かぼちゃラーメンを注文した。
「……あれ、タクミくんも激辛ラーメンが好きなんですか?」
「そうっすよ。少なくともメニューの中じゃ一番好きですから」
タクミはスープに念入りに息を吹きかけながらそう答える。
「……匂いだけでも辛さが伝わりますね。このお店のラーメンは好きですが、激辛ラーメンだけは食べられそうにはありません……」
「新エリー都でも指折りの辛さっすからね。軽い気持ちで食べると後悔するかも」
タクミはスープに念入りに息を吹きかけながらそう答える。
「……あの、タクミくん? もうスープは冷めたんじゃないですか?」
「こういうのは油断したらダメなんすよ。念入りに冷ましてようやく──あっつッッ」
「ご馳走様でした」
「11号、もう食べたんですか? 早いですね……私はまだ半分も食べていないのに」
タクミに至っては、未だスープの熱さに苦戦している始末である。
11号はバツが悪そうに目を背ける。
「なんだか、食べれば食べるほどもっと食べたくなるような感覚がして……ごめんなさい、はしたなかったかしら?」
「そんな事はないですよ。記憶を失くしても、11号の激辛好きが相変わらずで何よりです」
「だあっちッッ」
「タクミくん?」
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お次は映画館、グラビティシアター。
「次は『映画』というものを観に行きましょう」
「えい、が?」
「一、二時間の映像を大きなスクリーンに写して、それを大勢の人と一緒に観るんです。店長さんにオススメの映画を教えていただいたので、それを一緒に観ましょう」
無理に記憶を呼び起こすような真似はしない。トリガー曰く、大事なのは『楽しむ』事だ。
「ちなみに何を観るんですか?」
「最近公開されたホラー映画です」
「…………」
「……タクミ? どうかしたの?」
「なるほど……タクミくんはホラー映画が苦手……と」
「ななな何も言ってないんですけど」
「『ホラー映画』という単語を聞いた瞬間、タクミくんの心音が跳ね上がりましたから」
「ぐ……」
トリガーの耳ざとさをナメていた。声はおろか表情にすら出していないのに見破られるとは思わなかった。
いや、もしかしたら自分のリアクションが分かりやすいだけなのか……と不安になるタクミ。
「タクミくんは私が出会った方の中でも特段分かりやすい人ですから」
「追撃入れるのやめてください」
「……」
「……? 11号、どうかしましたか?」
「……このポスターに書かれてある生き物は……?」
11号は先程から見つめていた映画のポスターを指差す。
「ああ……これは『猫』って生き物だ。新エリー都の人間が愛する癒しの生き物なんだ」
「そうなのね……とても可愛いわ」
「11号はこれが観たいんですか?」
どうやら子猫が主人公の映画らしい。11号は興味深そうにポスターを見ている。
「ホラー映画よりもそっちが観たいんだな? よし、なら早速行こうぜ」
「……それタクミくんがホラー映画を観たくないだけでは──」
「行くぜーーーーーーーーー!!」
「どうでしたか? 11号」
「なんというか……とても可愛い映画だったわ。面白いかどうかは──ちょっと分からなかったけど」
確かにアレは猫の可愛さを堪能するための映画で、ストーリー自体に面白みはなかったかもしれない。
この後は、ゲームセンターでスネークデュエルで遊んだり、ティーミルクを飲んだり、路地裏で猫を可愛がったり──
ちょっと遊びすぎじゃないか?と言われそうなぐらいには遊び、時間はあっという間に過ぎていった。
そして夕日が照らす川沿いの公園にて。
「楽しかったですか、11号?」
「ええ。貴方たちのお陰で、今日はすごく楽しめたわ。ありがとう──ただ、この体はのんびりする事に慣れていないみたい」
「だろうな……猫を背中に乗せて腕立て伏せし始めた時はビビったぞ」
願わくば、この体験が11号の記憶回復の手助けになればいいと、タクミは切に願う。
そんな時。
「……ん?」
「タクミくん、どうしました?」
「いや、なんか足音が……」
「え?……あ、本当ですね。誰かがこちらに向かってきているようです。よく気がつきましたね」
タクミの言った通り、公園に誰かがやってくる。階段を上り、姿を現したのは──
「……見つけた」
「あ、アンビーでしたか。申し訳ありません……11号の事、勝手に連れ出してしまって」
「……」
「……アンビー?」
アンビーは返事もせずに一直線に──タクミの元へ歩いて行く。
そして──
「……」
「……にゃにしゅるんだ、あんびー」
あろう事かタクミの両頬をむぎゅっ、と両手で掴んできた。