「──そうだったのね。ありがとう、トリガー」
「お礼なんてとんでもありません」
トリガーはアンビーに今日の事について話した。
ちなみに内緒だったにも関わらずアンビーにここが分かった理由は、どうやらニコの手回しがあったかららしい。
『ルミナスクエアに女性二人と男性一人が一緒に居る』と情報を知ったアンビーは、そこへ直行。
そしてタクミ達を見つけた、という訳だ。
ずっとタクミの頬をこねくり回していたアンビーも、トリガーから訳を聞いてようやくその手を離した。
ただ何故アンビーが不機嫌だったのか、タクミには分からなかった。
「ご安心ください、アンビー。11号は私の戦友です。どんな時も、決して見捨てるつもりはありません……なので、貴女は貴女のやるべき事に専念してください」
「トリガー……ありがとう、大丈夫よ。私が……必ずツイッギーの野望を打ち砕く──だから、その時まで
そう言ってアンビーが取り出したのは……少し大きなぬいぐるみ。
「……! この人形、可愛いわ……」
「これ、アンビーの人形か? よく出来てるな」
「…………そうだけど、どうして分かったの?」
「え? いや、うん……まあ、結構似てたから──いででででで!!!なっ、何怒ってんだよアンビー!! ちょ、頬をこねくり回すな──と、トリガーさん!! 助けて!!」
「タクミくん!」
「トリガーさん!!」
「私にも触らせていただけませんか?」
「トリガーさあああああああん!!!」
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「ただいま……」
「あ、おかえりタクミ──あれ、タクミなんかほっぺた赤くない?」
「気のせい……」
あの後、アンビーとトリガーの魔の手から命からがら逃れたタクミは酷く疲れきっていた。
とは言え、まだ休むことはできない。今夜、まだやらなければならない事があるからだ。
部屋に戻り、最後の準備をする。
「タクミ」
「!」
「準備は出来た?」
「ああ、いつでもホロウに行けるぜ。アンビーの方も、もう大丈夫か?」
「私は大丈夫。ただ、行く前に少しだけ時間をくれる? やらなきゃいけない事があるから」
「やらなきゃいけない事?」
「ええ──11号と、話をしなきゃいけない」
「……! 分かった、それじゃあ俺は待っとくよ」
「ありがとう」
そう言ってアンビーは部屋を出て行き、11号がいる工房へと向かって行った。
恐らく彼女は11号と二人だけで話をしたいのだろう。
ならば自分の介入は不要と考えたタクミは、部屋でベッドに寝転がり──
「…………」
──待機しようと思ったが、このビデオ屋は床が薄く、下にいる彼女達の会話が図らずも聞こえてしまう可能性が高い。
ならば部屋ではなく外で待とうと、タクミは階段を駆け下りる。
アンビーにノックノックで『BOX GALAXYで待ってる』とメッセージを送っておき、外に出る。
すっかり日が暮れ、満月が顔を出した六分街。
BOX GALAXY名物?の『ボンプのアレな彫像』の近くにあるベンチに座り、アンビーを待つ。
「はぁ……」
夜特有の、弱くも冷たいそよ風が吹く。そんな中、タクミはツイッギーが言っていたことを思い出す。
「……オルフェノク、か」
あの時は余裕が無かったのも相まって、自身はオルフェノクではないと、そう断言していたが──今となっては否定する方が難しくなっていた。
他の誰にも変身できないファイズに変身できる事、時々見る悪夢の事、そして……思い出したくもない『あの日々』の事。
考えれば考えるほど、自分が人間であるということを信じられなくなっていく。
乾は『死んでいないのならばオルフェノクではない』と言っていたが、果たして自分が死んでいないと言い切れるのだろうか。
もしかしたらタクミは、自分でも気づかないうちに死んでしまっているのかもしれない。
……だと言うのに、タクミは内心酷く穏やかだった。
(……怖くないのか、俺)
タクミは無意識に自身にそう問いかける。
考えてみれば、オルフェノクは理性を失う化け物という訳ではない。
オルフェノクの力は、『ファイズ』と同じく大事な人を守る為の力になりうるはずだ。
エーテリアスを容易くねじ伏せるパワー。
銃弾、侵蝕をものともしない肉体。
『人類の進化形態』は名ばかりではない。もし、タクミがそのオルフェノクだとするのなら
タクミがオルフェノクだとして、人間でないとして、それでも大切な誰かを守れるのなら
それはそれで、悪くないのかもしれない。
「────タクミ?」
「……ん?」
声をかけられ、顔を上げる。
いつの間にかリンが顔を覗かせていた。後ろにはアキラとアンビーもいる。
「こんな時間にどうしたの? いつまでもここにいたら風邪引いちゃうよ?」
「あ、ああ……ごめん。ちょっと夜風に当たりたくなってさ」
てっきりアンビー一人で来ると思っていた。冷や汗をかきながらなんとか誤魔化そうとする。
「……ふーん?」
「…………」
「……ふふ」
「?」
「いやー、タクミもまだまだだねぇ。お姉ちゃんを誤魔化そうなんて百年早いんだから!」
「リン……それはアンビーに教えて貰ったからだろう? 確かにタクミは嘘をつくのは苦手だけども」
「……え?」
タクミは目を丸くし、アンビーの方を見る。アンビーは目を逸らし、バツが悪そうな顔をしていた。
「タクミ……ごめんなさい。アキラ先生とリン先生相手には、誤魔化せなかった」
「アンビーの件については、一緒に行く事にしたんだ。君と同じく彼女が巻き込まれている事については、僕達も知る権利があるからね」
「そうそう! タクミが一緒に戦うんなら、私達だって一緒に戦うからね!」
「……」
アキラとリンがアンビーに協力する事。
それは二人もシルバー小隊の事について知ることになるという事だ。
今までアンビーの事を考え、タクミ自身の問題──即ちオルフェノクの事については二人に言わないでいたが……
こうなった以上、黙っておくのは賢い選択とは言えないだろう。
「……兄ちゃん、姉ちゃん」
「どうしたんだい?」
「アンビーの件が終わったら、俺からも話さなきゃなんない事がある」
「……」
「……どうしたんだ、姉ちゃん」
「……ねえタクミ、もしかして今死亡フラグ建てた?」
「違うが?」
「映画で『この戦いが終わったら』云々は、死亡率が99.9%に跳ね上がるのがお約束」
「やめろよ、ここに来て急に不安にさせんな!」
そういえば連載開始からちょうど半年みたいです
ありがとう!!