「何を……してるのよ……っ!!」
「……っ」
ツイッギーは慌ててマスクの少女──『A』から注射器を奪い返すが……既に遅かった。
彼女の体にはツイッギー同様、エーテル結晶が現れ始めている。
「『コレ』は欠陥品である貴女には耐えられない! どうしてこんな真似を──」
「……ナ……タ……」
「!!」
「アナ……タ……ヒトリ……サセナ……イ」
Aはエーテルに侵されるその腕でツイッギーを優しく抱きしめる。
彼女だけではない。ツイッギーの周りには、無数の『姉妹』がいた。
Aはそのか細い声を絞り出し、暖かな笑顔を見せる。
「ヒトリジャ……ナイ……ミン……ナデ……」
「──っ!! 私は…………っ」
「私ハ…………ッ!!」
「!!」
その瞬間、ツイッギー達は激しい光に包まれる。
そしてその光が鳴りを潜めた時には、既に彼女達の姿は無かった。
代わりに姿を現したのは、二体の巨大なエーテリアス──『パリクス』。
デルタとアンビーはすぐさま戦闘態勢に入る。
「……プロキシ先生は後ろに。タクミ、行きましょう」
「……っ、うん!」
「……」
デルタがベルトのデルタムーバーに手をかけた、その瞬間──
「っ!?」
「!! タクミ──!!」
パリクスの片割れが、高速でデルタ目掛けて襲いかかってきた。
反応こそしたものの、防御するまでには至らなかったデルタはその突進により大きく吹き飛ばされる。
アンビーは急いでデルタを追いかけようとしたが、もう一体のパリクスにそれを阻まれてしまう。
数十メートルは飛ばされ、地面を転がるデルタ。
すぐに起き上がるが、既にパリクスが眼前へと迫っていた。パリクスは腕のデルタの身の丈はあろう巨大な刃を振り下ろす。
「……っ、クソッ……!!」
身を捩らせ、ギリギリでそれを避ける。ようやく体勢を立て直したデルタはデルタムーバーを取り外し、音声入力をする。
「ファイア!」
[Burst Mode]
銃口を向け、引き金を引くがパリクスは瞬間移動を駆使し銃撃をことごとく回避する。
さらにその瞬間移動でデルタの死角へ現れ、刃やエーテルの斬撃波で奇襲を仕掛けていく。
近距離でも遠距離でも、一秒たりとも気を抜く事が出来ない。
だが、ここで焦ってはいけない。全神経を研ぎ澄ませ、次の奇襲に仕掛ける──
「そこだっ!!」
「ッ!!」
背後からワープと共に襲ってきたパリクスの刃を裏拳で弾き、ひるんだパリクスに更なる追撃を仕掛ける。
純粋なパワーはファイズより上であるデルタ。肉弾戦でもパリクスと渡り合えるだろう。
「フッ! ハァッ!!」
ワープで逃げる隙を与えず、絶え間なく攻撃していく。しかし、これで防戦一方となるほどパリクスは甘くない。
デルタの拳を防ぎ、反撃に出る。振りかぶられた腕の刃に気付いたデルタは咄嗟に後ろへ飛び退くが──
「……っ!? うおおおっ!!」
なんと飛び退いた先にはホロウの影響か、巨大な地割れが広がっており、その谷間は底の見えない程の深さとなっていた。
パリクスの動きを意識しすぎていた為、気づかなかったのだ。もしこのまま落ちていたら、どうなっていたか定かではない。
しかし、これに驚いている暇はない。パリクスに少しでも隙を見せてはならない。攻撃の猶予を与えてはならない。
案の定、パリクスは再び姿を消した。
非常に集中力を使う為、出来れば短期決着と行きたいが、そうは問屋が卸さないらしい。
再び一人となったこの空間。しかし、デルタは焦ることはしなかった。
と言うのもタナトス然り、このタイプのエーテリアスには一つだけ効果抜群の攻略法がある。
この攻略法には一つデメリットがあるが、デルタのスーツならば問題はないだろう。
棒立ちになり、全身に力を込める。そうしていつ来るか分からないパリクスの攻撃を待つ。
そして──
ブンッ!!
鼓膜を震わせる風切り音ともにパリクスの刃が襲ってきた。
デルタは死角からのそれを全く避けようともせずに、右肩でその攻撃を
「!!」
「……っ、へへ……!!」
攻撃をまともに食らった痛みで思わず顔を歪めるが、好機と言わんばかりにデルタはパリクスの腕を左手で掴み、右拳を握ってパリクスを何発も、何発も殴りつける。
パリクスはデルタから逃れる事も出来ずに、攻撃を食らってしまう。
そしてそのままデルタはパリクスを全力で殴り飛ばす。約3.5tのパンチをまともに食らったパリクスはサッカーボールのように勢い良く吹き飛ばされ、壁へと激突した。
満身創痍のパリクス。それを見たデルタは腰からデルタフォンを取り外し、ミッションメモリーを装填する。
[Ready]
「……チェック」
[Exceed Charge]
システム音声の後、青白いフォトンブラッドのエネルギーがデルタムーバーへと集束していく。
デルタは銃口をパリクスに向け、その引き金を──
「…………っ」
引くことができない。
震えて指が動かない。この期に及んで、何を恐れているのか。
デルタは『一瞬』、引き金を引くことを躊躇った。
その『一瞬』を、パリクスは見逃さなかった。
体勢を立て直し、すぐさま瞬間移動してデルタへと斬りかかる。
「ぐっ……、うわぁっ!」
防御をとる事もままならず、攻撃を受けて吹き飛ばされたデルタは変身解除へと追い込まれてしまう。
そのまま地面に倒れ伏せるタクミ。
あそこで引き金を引けていれば倒せていた。何を戸惑う事があったのか。
エーテリアスとなったツイッギーに今更情が湧いたのか。
それならばタクミが今まで倒してきたエーテリアスだって、ホロウに迷い込んだ哀れな人間の成れの果てと言える。
今になって聖人気取りかと、タクミは自嘲する。
「…………」
デルタドライバーは遠くに吹き飛ばされ、再変身は不可能。
パリクスは生身のタクミにとどめを刺すべく、彼の元へ高速で接近する。
そうして勢いそのままに、パリクスは腕の巨大な刃を振り下ろした。
タクミは大人しく目を閉じる。ホロウ内に鈍い音が響き渡った。
「グ…………ッ!?」
しかし、パリクスの刃は、タクミの体に届くことはなかった。
代わりにタクミの
タクミは右腕を引き抜く。パリクスの腹部には大きな穴が空いている。
(……? なん、だ? 今俺、なにしたんだ)
タクミは今しがた、自分自身がした行動を理解する事が出来なかった。
彼はパリクスの腹に風穴を空けようなどとは考えていなかった。
むしろ潔く死のうと考えていたぐらいだ。
(……今の、俺がやったのか?)
パリクスはよろめきながら、タクミを見る。
『…………ふ、ふっ』
「……?」
一瞬、笑い声が聞こえた気がした。
パリクスはこれ以上タクミに襲いかかる事はなかった。おぼつかない動きで、そのまま後ろへ下がったかと思えば──
「!!」
先程タクミが落ちかけた、地割れの中へと落ちていく。急いで追いかけるが、パリクスは既に底の闇の中へと消えてしまっていた。
「…………」
谷底へと消えたパリクスを見届けた後、タクミは自分の右腕を見る。
そこには血痕ひとつない、生まれた頃から付いている白い右腕があるだけだった。