ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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トリガー秘話の少し後のお話です


番外編⑥
「トリガー」と少年


 

 

 

 

 

とある日の昼前。トリガーは六分街にいた。

 

()()()()と出会ってからというもの、彼女はこの街に訪れる機会が増えた、ような気がする。

 

トリガーの手には今日来た目的である六分街の『141』限定のあんパンが入ったビニール袋が提げられていた。

 

あんパンを買った後は、久しぶりに兄妹の営むビデオ屋に足を運ぼうと、そう考えていた時だった。

 

 

 

「……?」

 

 

トリガーの耳に誰かの話し声が聞こえた。路地裏の方からだった。

 

聞こえるのは幼い子供の楽しげな声。それ以外の人の声は聞こえてこない。

 

 

(……まさか、一人で遊んでいるのでしょうか)

 

 

いくら静かな六分街と言えど、治安官の目が届きにくい路地裏で一人で遊ぶのは、誘拐等の犯罪被害にあうリスクが高いと言える。

 

不審者が現れるその前に、トリガーは声の元へと行ってみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地裏の方へ行くと、一人の少年がいた。そして彼のすぐ傍から猫の鳴き声がする。

 

どうやらこの少年は猫と遊んでいたようだ。

 

トリガーは声をかけるべく彼の元へ歩いていく。その足音に気付いたのか、しゃがんでいた少年がトリガーの方を向く。

 

 

「っ……!!」

 

 

少年の心音が跳ね上がる音。トリガーはそれを聞いてハッとする。

 

よくよく考えれば、彼から見れば不審者なのは自分トリガーの方ではないか。

 

それもそうだろう。目を覆うバイザーにミリタリーチックなスーツ。六分街ではまずお目にかかれないであろう稀有な格好だ。

 

慌ててトリガーは弁明する。

 

 

「あ……えっと、大丈夫ですよ。私は怪しい者ではありませんから」

 

「……」

 

「その……近くで貴方の声が聞こえたから来てみたんです。ほら、こんな所で一人で遊ぶのは危ないでしょう?」

 

「…………うん」

 

 

その少年はトリガーの言葉を聞いて、警戒心を解く。ひとまず防犯ブザーを鳴らされるという事態は回避したようだ。

 

 

「お友達を待ってるんですか?」

 

「……ううん。一人で遊んでた」

 

 

少年は立ち上がりながらそう答える。

 

背丈はトリガーよりもずっと小さい。恐らく彼は小学生なのだろう。

 

 

「にゃぁ〜ん」

 

「!」

 

 

先程子供が一緒に遊んでいた猫がトリガーの足元に体を擦り付けてきた。

 

トリガーはしゃがんで猫を撫でる。

 

 

「……かわいい猫ちゃんですね。名前はなんて言うんですか?」

 

「アシュラ三世」

 

「随分仰々しい名前ですね……貴方が名前を付けたんですか?」

 

「僕じゃないよ。近所に住んでるおばあちゃんがつけた」

 

「ユニークなおばあさまですね……」

 

 

トリガーはお腹を見せている猫をよしよしと撫でながら相槌を打つ。

 

 

「にゃあ〜ん」

 

「にゃあ〜〜〜♪」

 

「? もう一匹猫がいるんですか?」

 

「え? 一匹だけだよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

どう聴いても違う猫の鳴き声が聞こえた。

 

確かに感じる猫の気配は一匹だけ。まさか今の鳴き声は少年の声から出されたものなのだろうか。

 

 

(……さすがにないですよね)

 

 

少年が猫のシリオンなら有り得るかもしれないが、恐らく空耳だろうと考えた。

 

そして会話をしていく中で、トリガーは彼からある『気配』を感じた。

 

固く、無機質然としているが、とても暖かい。幼き少年が纏うにしては異様な気配だった。

 

 

「……お家の人は今どうしてるんですか?」

 

「……お兄ちゃんもお姉ちゃんも、今お仕事中なの。家の前の掃除が終わって、暇だから遊んでた」

 

 

少年は寂しそうにそう答える。その声色から、トリガーは兄弟仲が悪いのだろうか、と邪推してしまう。

 

 

「お兄さんとお姉さんは何のお仕事をされていらっしゃるんですか?」

 

「……ビデオ屋」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ん?????

 

 

 

 

「す……すみません、もう一度お願いします」

 

「え? ビデオ屋……」

 

 

トリガーは少年の言葉にバイザーを赤く光らせる。

 

そういえば、トリガーがかつて世話になった兄妹の片割れがこんな事を言っていた。

 

 

 

『そういえばうち、弟がいるんだよね。タクミって言うんだけど、もし会ったら仲良くしてあげてね!』

 

 

(……まさかこの子が、タクミくん?)

 

 

だとしたら彼の言う『お仕事』は、プロキシ業の事を言うのだろう。

 

兄妹──アキラとリンは、弟を巻き込まないため、仕事中は弟を遠ざける事にしているのだ。タクミには悪いが、二人の判断は正しいと言える。

 

しかし、だからと言ってタクミの寂しさが紛れる訳では無い。

 

どうしたものかと内心悩んでいると──突然タクミのお腹がぐう、と鳴った。

 

 

「……」

 

「……もしかして、お腹が空いたんですか?」

 

「……っ、うん……」

 

「ふふっ……もうすぐお昼ですもんね」

 

 

トリガーは持っていたビニール袋から──あんパンを二袋取り出し、うち一袋をタクミに差し出す。

 

 

「良かったら一緒にどうですか? 美味しいですよ」

 

「……良いの?」

 

「ええ。私もちょうど、お腹が空いていたところですし」

 

「……ありがとう、お姉さん」

 

 

トリガーとタクミは近くのベンチに座る。そしてあんパンの袋を開け、一緒に食べ始めた。

 

さすがは限定あんパン。限定の名に恥じない美味しさを持っている。

 

 

「美味しいですか?」

 

「うん。凄く美味しい」

 

「それなら何よりです」

 

 

人気のない路地裏のベンチ。日が差し込まないこの場所に心地のいい風が吹く。

 

そしてあっという間にあんパンを平らげた。

 

トリガーが。

 

 

「……もう食べたの?」

 

「あ……す、すいません。あんパンは私の大好物で……その、はしたない所を見せちゃいましたね」

 

「ううん、そんな事ないよ。僕だってラーメン食べる時すぐ食べ終わっちゃうから」

 

 

しばらくの間、路地裏からは二人の談笑の声が聞こえ続けた。

 

この日の記憶は、今でも少年の頭の片隅に残り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あれ? タクミくん、その猫どうしたんですか?」

 

「あ、トリガーさん」

 

 

六分街にて。タクミは店の前で猫と戯れていた。

 

 

「ルミナスクエアから六分街に帰る時にずっと着いてきてたんですよ。そんで仕方ねぇから相手してたとこなんです」

 

「なるほど……名前は付けてあげないんですか?」

 

「え? 飼うってことですか? いやぁでも、うちにはもうクロがいるしなぁ……」

 

 

タクミは猫を撫でながらそう答える。

 

 

「飼わなくても、名前をつけるくらいは良いんじゃないんですか? 六分街の野良猫にも名前があるんでしょう?」

 

「んー……そうだなぁ。名前って言ってもどう名付けるか……トリガーさんは何かいい案あります?」

 

「そうですね……『ハクタク』とかどうでしょう」

 

「それおおよそ猫に付ける名前じゃないでしょ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び猫が鳴き始める。

 

 

「にゃあ〜〜〜〜〜ん」

 

「ん? なんだ、腹減ってんのか? にゃあ〜〜〜〜ん

 

「……っ!?!?!?」

 

 

「ん? どうしたんだトリガーさん」

 

「え!? あ、いや、何でもありません……!」

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