「5万ディニーっ!!」
「お客さん店内で大声を出すのはお控え頂けると……」
「いや私店長だから!」
店に入るなり謎に具体的な金額を叫ぶ店長がどこにいるというのだろう。
店番をしながらリンの帰りを待っていたタクミは、抽選会帰りの彼女を冷ややかな目で見る。
「姉ちゃん、ディニーが欲しい気持ちは分かるけどさ、そうやって口に出すのはちょっとお行儀が……」
「いやいや、実際に5万ディニー当たったんだって! ほら見て、特賞だよ特賞!」
「……ホントだ」
抽選券を見ると、確かに『特賞』と書かれている。
ただそう考えると特賞で5万ディニーは少し安いと思えてしまう。当たっただけそれを言うのは野暮というものではあるのだが。
「ヒューゴさんが抽選券をくれてね、それが当たっちゃったんだ〜」
「じゃあこれ実質ヒューゴさんが当てたって事か? ならさすがに何割か分けた方がいいんじゃねぇか?」
「うーん、確かにそうかも──あ」
「?」
「ヒューゴさんの連絡先、聞いてなかった……」
「あー……」
ならば今度会った時に聞くしかないだろう。ひとまずこの話は置いておく事にする。
と、その時。
「おや、リン。帰ってたんだね」
「ただいま、お兄ちゃん!」
階段からスマホを持ったアキラが降りてきた。そのスマホを二人に見せる。
「二人とも、たった今ニュースがあったよ。例のブリンガーの件について、調査結果が出たらしい」
「!」
どうやら監察官曰く、今回の件は全てブリンガーがやった、という事になったらしい。
しかし、出てきたのはブリンガーの名前のみ。彼が深く関わっていたであろう組織『讃頌会』の名前がニュースに出てくる事はなかった。
「……雅さんの刀を狙ってたってヤツの情報はなかったな」
「まだ監査真っ只中なんだろうね。治安局としてはまだ公にすべきではないと考えているのかもしれない」
讃頌会とブリンガーは深く関わっている。
つまりブリンガーとグルだったサイガの変身者も、讃頌会と関わっているという可能性が高い。
だからと言って、讃頌会に関する情報を無理に探ろうとするのはリスクが高すぎる。
向こうから情報が出ない限り、いくら思案を巡らせても仕方がない……のだが、タクミはこのニュースの事が寝るまで頭から離れなかった。
───────────────────────
そして次の日の朝。
着替えて一階へ降りると、アキラとリンが誰かと話していた。
その顔は、タクミもよく知る人物二人。
「ふぁあ……あ、おはよタクミ」
「おはようございます、タクミ様」
「ライカンさん? エレン?」
朝早くからライカンとエレンが店へと訪れていた。ビデオを借りに来た、という訳ではなさそうだ。
何が大事な話でもしているのだろうか。
「えーと……邪魔しない方がいいか?」
「いえ、滅相もございません。どうか貴方様にも、今からお話する事をお聞きいただきたく存じます」
「話?」
「ライカンさん達ヴィクトリア家政が使えてる『ご主人様』についてなんだって」
「左様でございます。私共が現在お仕えしているのは、メイフラワー家の現当主──そして、新エリー都の市長閣下であらせられるお方でございます」
ヴィクトリア家政が仕えている人物について、今の今まで知らなかったが、それほどまでの大物だとは思わなかった。
「……その市長さんがどうしたんだ?」
「実は本日参ったのは、市長閣下のご意向によるものです。お三方と是非ともお話がしたい、と……」
「え!?」
リンが思わず声を上げる。タクミとアキラも声にこそ出さなかったが、驚きの表情を顔に浮かべている。
だが理由はなんとなく理解できる。アキラ達はこれまでサクリファイスが関わる事件に幾度となく関わっているのだから。
「ご安心を。市長閣下にはいかなる悪意の類もございません。パエトーンであらせられるお二人にいかなる責任を問うこともございません」
「そうそう。別に神様と話すって訳でもないんだしさ。無理に改まらなくてもいいよ」
「うーん、そこまで言うなら……分かった、話してみよう」
「感謝いたします」
そうしてライカンは音声通話の準備を済ませ、マイクをオンにする。
「市長閣下、お三方をお連れいたしました」
『ありがとう、ライカン君──さて、親愛なる子供たちよ……君達と言葉を交わせて嬉しい限りだ。ヘーリオス研究所は、暖かな場所だった』
「!」
音声通話のため、顔は映らない。
『ヘーリオス研究所』という単語が聞こえたリン達は少なからず警戒心を露わにするが、少なくとも声色から敵意は感じられなかった。
「私達の事を……知ってるんですか?」
『警戒しなくていい。私は決して、君達に危害を加える事は無い、安心して欲しい。今回連絡を取るに至ったのは、君達二人の目についてだ』
アキラとリンの目に埋め込まれているインプラント。
イアスと感覚同期をする際に必須となるもので、パエトーンとして活動するうえで無くてはならないものだ。
しかしH.D.Dシステムを使用するうえで、そのインプラントはいくつかの問題を引き起こしていた。
その一つがエーテル適性が大幅に抑制されてしまうという問題。
タクミと違い、アキラとリンは生身では長時間ホロウで活動する事が出来ない。その原因がこのインプラントにあった。
『──しかし、私はカローレ君が遺したデータを発見した。そのサンプルを元に研究を行わせ……そしてついに、H.D.Dシステムのアップグレードプランが完成したのだ』
「アップグレード?」
『ああ。H.D.Dシステム動作時の消費エネルギーを抑える事で、君達のエーテル適性を大幅に向上──正確には、本来の適性まで回復させることが出来る』
「……!」
つまり、アップグレードをする事でイアスと感覚同期をせずとも、自分の体でホロウに入る事が出来るという事だ。
市長の言葉にタクミは、僅かに眉をひそめた。
関係ないけどニトロフューエルってエナドリなのか酒なのか……
一応本作ではエナドリって事にしてます