そして迎えたオークション当日。
招待状片手に会場へとやって来たアキラ達は、オークションが始まるまでの間、専用のVIPラウンジでしばらく待つこととなった。
「ここがVIPラウンジかぁ……なんかいかにもって感じだね……!」
「さすが招待制なだけあるね。一般市民の僕達じゃそうそう見れない景色だ」
「……ライカンさんはまだ来てねぇみたいだな」
「あ、ホントだ。もう少ししたら来るかな?」
ライカンが来るまでの間、折角なので飲み物でも取ってこようかと考えていた時だった。
「──どうか、お願いします……! あの品を、競り落とすのを手伝って頂けませんか!?」
同じ部屋から、女性の声が聞こえた。
声がした方を向いてみれば、シリオンの親子が誰かに向かってなにかを懇願している。
相手はソファに座っている謎の少女。
「もう他に方法が無いんです……夫の遺品を……どうか……!」
「…………虚言」
「?」
その少女は室内にも関わらず日傘を差しており──
「欺瞞」
紫色の縦ロールをしており、ゴシック調のカジュアルドレスを身にまとっている。
「背反」
その少女は親子には目もくれず、ソファから立ち上がり歩き出す。
「迷霧が立ち込め、真相は底知れぬ幻の中──」
「……!?」
そしてその真紅の眼は、アキラとリンを真っ直ぐに見据えていた。
「──見つけたのです。運命の人」
「運命の人……? え、私達のこと言ってる?」
紫髪の少女は日傘を閉じ、二人に近付く。当然ながら、三人とも彼女とは会ったことがない。
「えっと……運命の人って、なんの事かな? 最近のナンパってそんな大胆な言葉を使うの?」
「今言った言葉には、貴女が想像しうる以上の意味が込められているのです。とは言え、今のあなたには理解はできないでしょう──少なくとも今は」
「……」
「そ、そこの貴方……!」
「……? 俺?」
目の前の女性が何を言わんとしているのか。それを聞こうとする前に、蚊帳の外だったシリオンの女性が今度はタクミへと話しかけてきた。
「ど、どうか……私の話を聞いていただけませんか? 出来る限り、お礼はいたしますので……!」
「え、いやあの──」
「間もなくオークションが始まるのです。どうやってここへ紛れ込んだのか知らないですけれど……それ以上粘るなら警備員へと突き出しますよ? あなたの子どもも一緒に」
「…………っ」
「ママ……」
女性は表情を歪め、こちらを見つめたまま子供を連れてその場を離れた。
彼女らに冷ややかな視線を向けていた少女は、タクミの方を向き話しかける。
「……そこの貴方」
「あ、はい」
「ささやかな忠告をしてあげるのです。オークションという戦場では、安易な同情は命取りなのです」
「……あの人は何を頼むつもりだったんすか?」
「彼女曰く、オークションの中に彼女の夫の遺品があるようなのです。それを競り落として欲しい、とこちらに頼んできたのです。しかし──」
ビビアンは再び日傘を差し、少しうんざりしたような表情をする。
「あの手合いは大抵詐欺師だと相場が決まっているのです。仮にそうでないとしても、こちらが手を差し伸べる必要は全くないのです」
「えっと……失礼だけど、貴女は?」
「これは、申し遅れたのです。わたしの名前はビビアン。お見知り置き頂ければ嬉しいのです」
少女、ビビアンはそう言うと一礼し、再びソファに座り直した。
「プロキシ様」
「あ、ライカンさん」
部屋の隅の方に、いつの間にかライカンが来ていた。おそらく先程のやり取りも見ていたのだろう。
「……如何なさいましたか? 何やらトラブルに巻き込まれていたようですが……」
「ううん、大丈夫。それよりオークションっていつから始まるんだっけ?」
「間もなく開始されるかと。私達も会場へと移動いたしましょう」
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そうして始まったオークション第一部。
会場には見るからに高級そうな芸術品から、『本当にこれが数億ディニーするのか?』と疑いたくなるような珍品まで出揃っていた。
「当たり前だけど見たことないのばっかだな……」
「ただ、僕達が狙ってる例のものはないみたいだね」
「恐らく後半の第二部にて目的の品が並ぶ予定なのでしょう。プロキシ様、もし興味をひかれる品がございましたら、入札して頂いても構いません」
「え? いいの?」
「ええ。資金には余裕があるが故、ご主人様が負担してくださるとの事でした」
「そっか〜、じゃあお言葉に甘えて……でも、何を落札しよっかな……」
「ハナから落札する事前提かよ……」
アキラとリンは色々な品を見て、悩みに悩んでいる様子だった。そして。
「お兄ちゃん、このゴールドボンプの彫像とか良くない?」
「確かに、中々見ないユニークなデザインだ。タクミはどうだい?」
「お、いいんじゃねぇか?」
口ではこう言っているが、実は先程から興味を引くような品が見つかっていない。
故にほぼアキラとリンに任せている状況だ。
感性が子供すぎるのだろうか。ともかく、兄と姉のセンスを信じるしかない。
というわけで、ゴールドボンプの彫像を入札。幸運な事にライバルは一人もおらず、特に苦戦を強いられることも無く落札に成功した。
そんなわけで無事に終わったオークション第一部。
後半の第二部が始まるまでの間、再びVIPラウンジで待つ事になった。
部屋には先程出会ったビビアンと、もう一人意外な人物がいた。
「なあ、姉ちゃん。アイツ確か……」
「うん? ──あ、あの人……確かハルトマン、だったっけ」
白い服に赤いサングラス……見間違えるはずもない。彼も落札したい品があるのか、オークションに足を運んでいた。
特に面識は無いため、出会ったらヤバいと言う訳では無いが、なんとなく緊張感が走る。
それを紛らわすために、タクミは持っていたジュースを口にする。
ふと、部屋の隅で窓を見つめているビビアンの姿が目に入った。彼女は窓の向こうの夜空を見つめ、何かを呟いていた。
「──『パエトーン』様……」
「……え」
「? タクミ、どうしたの?」
確かに、聞こえた。恐らくタクミにのみだが……聞こえてしまった。
少女の──ビビアンの『パエトーン』の名をつぶやく声が。
カーティスさんは欠席しました……