ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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信念と蝕みし過去

 

 

 

 

 

「──リン様、タクミ様。先程は申し訳ございませんでした……お見苦しい所をお見せしてしまい……」

 

「ううん、大丈夫だよライカンさん! むしろ止めてくれてありがとうっていうか!」

 

 

ホロウレイダーを治安局に引き渡したあと、ビデオ屋へと帰ってきたリン達。

 

結局、サクリファイスのコアは取り返す事は出来なかった。

 

 

「その……昔からそりが合わなかったってのは何となくわかるんだけどさ、ヒューゴさんと決別した原因はなんだったんだ?」

 

「……ヒューゴとモッキンバードを立ち上げる以前、我々にはジャックという恩師がおりました」

 

 

ジャックは行く宛てのなかった二人に、様々な技術を伝授していった。

 

二人が持つ圧倒的な戦闘技術も、そのジャックの教えによる賜物。

 

 

「──それだけではありません。彼は人としての道理……『信念』というのが如何なるものなのかを私とヒューゴに教えてくれたのです」

 

(……信念)

 

 

自分が正しいと思う道を往く。それが信念だと、ジャックは教えた。

 

そしてもう一つの教え。それは世に公平をもたらす際、決して命を天秤にかけてはならないという事。

 

悪者には等しく罰を与える。それが正義であれ何であれ、公平をもたらすためならば必要な行いだとジャックは考えている。

 

しかし、その公平をもたらす為に悪者に『死』を与える事は許されざる行為。

 

何者であろうと、何人たりとも奪われていい命などない。憎しみに囚われ、命を奪うような事はしてはならないと、ジャックは二人にそう説いた。

 

 

「──しかしながら、その教えにヒューゴが頷く事はありませんでした。そして彼の『信念』は正される事はなく……とうとう、一つの大きな過ちを犯してしまったのです」

 

 

ヒューゴは名門の一族に生まれた……が、その扱いは酷いものであった。兄弟からは蔑まれ、父親からは虐待を受ける。

 

彼が父親を憎むのは、最早仕方の無い事だった。出奔した際にジャックに拾われていなければ、どうなっていたか分からない。

 

そしてその憎しみはとどまる事を知らず──ついにある日彼は、その父親を手にかけた。

 

ジャックの教えに背き、己の復讐にライカンを含む周りの全てを利用した。

 

それを知ったライカンはヒューゴに失望し、モッキンバードを抜ける事を決意したのだった。

 

 

「その後、私はメイフラワー家に雇われ……現在に至ります。当然、ヒューゴは私がメイフラワー家の下に付くことを容認はしませんでした」

 

「ヒューゴさんがライカンさんを裏切り者って呼んでたのはそういう事だったんだね……」

 

「……私は彼の『復讐』自体が間違っているとは思いません。しかし、その利己的な動機で他者の命を踏みにじる行為は到底看過されざるべきものです」

 

「ライカンさん……」

 

「……昔話はこれぐらいにしておきましょう。ひとまずはサクリファイスのコアについて、市長閣下にご連絡しましょう」

 

 

そうしてライカンは市長に電話をかける。数秒もしないうちに、市長と繋がった。

 

 

『──親愛なる子供たちよ。再び声を聞けて喜ばしい限りだ。ライカン君から話は聞いている。コアはモッキンバードに盗まれてしまったようだな』

 

「す、すみません……折角お任せしてくれたのに……」

 

『いや、君達に非は全くない……むしろよくやってくれた。これについては、我々の方で対処しよう』

 

「ありがとうございます……何か、私達に手伝える事はありますか?」

 

『その気持ちは有難いが、これからの件に市民である君達を巻き込む訳には──』

 

 

そこまで言いかけ、市長は少しの間黙り込む。

 

 

『……そうだな。君達のことは信頼している。この際だ、話しても良いだろう』

 

「……市長閣下、お言葉ですが──」

 

『分かっている、ライカン君。危険な目に遭わせたくないのは私とて同じだ。この件に深くまで関わらせるつもりはない。しかし、彼らには本当の事を知る権利がある』

 

「本当の事、ですか?」

 

『ああ。数日ほど前に、私はとある予告状を受け取った。それは──サクリファイスの力を用いて、新エリー都に復讐をする……という旨の内容だったのだ』

 

「!!」

 

 

現在研究を進めてはいるが、未だその全貌及び影響力が未知数であるサクリファイス。

 

その力を利用し、新エリー都に復讐をする。その事が市民に知れ渡ればどうなるか、想像に難くない。

 

極秘事項であるが故、他言は禁物である事と、この件は市政が対処するから心配するなという旨の言葉を最後に市長は電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。

 

アキラとリンは朱鳶の元にブリンガーの件の監査の結果について情報を聞きに行っていた。

 

 

 

タクミは何をしているのかと言うと……店番をしていた。

 

今後どうするかの方針が決まった際、真っ先に店番をお願いされた。ビデオ屋を経営してる以上仕方ないと言えば仕方ないのだが……

 

 

(…………)

 

 

別にタクミが頼りにされてない訳では無いのだ。気持ちを切り替え、店番に専念する事にする。

 

ちょうどその時、カランとドアの開く音が聞こえた。

 

 

「いらっしゃいま……せ……!?」

 

 

 

 

 

 

一度見たら忘れない、紫色の髪と赤い瞳。

 

なんと店にやってきたのは、かつてオークションで会った少女、ビビアンだった。

 

 

「アンタは……」

 

「昨日ぶりですね、タクミくん。再びお会いできて嬉しい限りなのです」

 

「? 俺名前教えましたっけ」

 

「プロキシである貴方のお兄様とお姉様の事を調べる時に、貴方の名前も知ったのです」

 

「そうなんすね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ん???

 

 

「……ビビアンさん、でしたっけ。今なんて言いました?」

 

「え? 貴方の名前を──」

 

「それの少し前です」

 

「プロキシである──」

 

「そこだっ!!」

 

 

タクミはビビアンを指差す。

 

なんとなく怪しいとは思っていたが、まさかプロキシであるという事までバレていたとは思わなかった。

 

というかこの状況、どう誤魔化すべきか。そもそも誤魔化しが効くのかと必死に頭を回転させ──

 

 

「大丈夫なのです。別にプロキシさんを治安局に突き出そう、なんて考えてはいませんから」

 

「え? そうなんすか?」

 

「ええ。むしろ、わたしはプロキシさんと協力関係を結びにここへ来たのですから。貴方のお兄様かお姉様はいますか?」

 

「……外出中です。多分もうすぐ帰ってくると思います」

 

「そうですか……ならここで待たせていただくのです」

 

 

そう言ってビビアンは傘を閉じた。

 

タクミは考え込む。オークションの時、ビビアンは小さな声で『パエトーン様』と呟いていた。

 

アレは何を思ってそう呟いたのか、どうしても気になっていたのだ。

 

タクミは意を決してビビアンに質問する。

 

 

「その、一つ聞いていいですか」

 

「?」

 

「オークションの時……ビビアンさんが『パエトーン様』って言ってたのが聞こえて……」

 

「!! き、聞こえていたのですか……?」

 

「いやその、聞こえちゃったって感じなんすけど」

 

「…………っ」

 

 

ビビアンは俯き、わなわなと震える。

 

これは……やらかした。様子を見るに恐らくビビアンの地雷を踏んでしまったのだろう。

 

聞かなきゃ良かったとタクミは後悔した。

 

 

「タクミくん……いえ、タクミ…………貴方」

 

 

ビビアンはカッと目を見開き、タクミの肩をガッ!と掴むと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方もパエトーン様推しなのですね!!」

 

「えっ」

 

 

 

「そうですよね、考えてみれば当然の事なのです!貴方も見習いプロキシである以上、パエトーン様に憧れを抱くことは世の理なのです!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

「同志に敬語なんて必要ないのです、タクミ! 恥ずかしがる事はないのです!! わたしも貴方と同じパエトーン推しなのですから!! 一緒に新エリー都の中心でパエトーン様への愛を叫びましょう!! 嗚呼!! 新エリー都の最大最強プロキシであるパエトーン様……!!」

 

 

本当に待って欲しい。

 

先程のミステリアスな感じと様子が180度変わっている。

 

そもそも、これはどういう事だろうか。ビビアンはアキラとリンがプロキシだという事は知っている。

 

知っているはずなのに、その二人がパエトーンである事は知らない。あろう事か、ファイズであるタクミを見習いプロキシだと思い込んでいるようだ。

 

調べはついているのではなかったのか。

 

 

「さあ、貴方も一緒に!!パエトーン様への愛を!! 」

 

うるさ……ちょ……ビビアン待ってくれ、俺は別にパエトーン推しって訳じゃ──」

 

 

そう言いかけ、ふと疑問が頭に浮かぶ。

 

この一分間で、ビビアンがパエトーン激推しだという事は痛すぎるほど分かった。

 

 

 

 

では、ファイズはどう思っているのかと、タクミは気になった。

 

パエトーンを知っているなら、恐らくファイズの事も知っているはずだ。

 

 

「……なあ、ビビアン」

 

「どうしたのですか?」

 

「ちょっとした疑問なんだけどよ。そのパエトーン……様といつも一緒にいる、ファイズの事はどう思ってるんだ?」

 

「ファイズ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ああ、あの不届き者ですか」

 

(あっ)

 

 

ビビアン、ファイズアンチだった。

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