『──よくも……よくも私の息子を……!!』
一人の無垢な少年は
『お前さえいなければ……お前が生きてるから、俺の子供は……っ!!』
一度は乗り越えたと思った『運命』のその先で
『近寄んじゃねぇよ化け物!!』
何を得たのだろう
『僕は君の味方だ。ただ一人のね』
何を失ったのだろう
否、何も得なかった
何も失わなかった
『僕は大丈夫だよ、お兄ちゃん、お姉ちゃん』
味方は必要ない
絶え間なく襲い来る憎しみをその身に受け
増え続ける傷を隠し続け
それでも前に進み続けた少年の周りには
『アリガトウ』
"色"ト"形"ヲ失ッタ無数ノ残骸ガ
「タクミ? どうしたのですか?」
「……ん?」
気が付けば、ビビアンとリンが心配そうな目でこちらを見ていた。
アンビーとトリガーはシエナの遺体を運び出すため、先にホロウを離脱した。
その後、タクミは近くのベンチで少しだけ休憩していた。
「さっきから俯いてるけど……もしかして具合が悪いの?」
「もしそうなら、手遅れになる前に貴方もホロウを出るのです。遺物を探すのはわたしとリンさんに任せてください」
「……いや、大丈夫。ちょっと考え事してただけだ」
「考え事?」
「ああ。さっき話してた、ビビアンの力の事でちょっとな」
タクミはベンチから立ち上がり、背伸びをする。ビビアンは再び表情を曇らせる。
「……やはり、気味が悪いですよね……こんな力。気を使う必要は無いのです。自分でも、これは呪いの類だと思っていますから」
「気味悪くなんかねぇし、呪いなんかでもない。俺はいつか、その力が幸せな未来を呼び寄せてくれると信じてる」
「その通り! どんなに辛くても、それでも前に進み続けたビビアンなら絶対出来るはずだよ!」
「そ、それは……パエトーン様への愛が原動力になってただけで──でも、ありがとうなのです」
調子も戻ってきたところで、リン達はブリンガーの遺物探しを再開した。
「入手した情報によれば、この自販機が怪しいのです」
「よし、じゃあ調べてみよう!」
自販機を上から下まで調べてみたが……遺物らしきものは出てこなかった。
「うーん、ないなぁ……」
「いっそ壊すか?」
「え? 大丈夫かな……」
「どうせもう使われてねぇだろコレ。大丈夫だって」
ライオトルーパーのスーツを身にまとったタクミは、右足に力を込め──
「ハァッ!!」
渾身の回し蹴りを食らわせる。型落ちとは言え、約4トンのキックを食らった自販機はぐしゃりとひしゃげてしまった。
タクミは原形を失った自販機に手を突っ込み、何かないかと探っていると……
「!!」
自販機からノートのようなものを取りだした。それを見てビビアンは目を見開く。
「これなのです! わたし達が探していたブリンガーの遺物なのです!」
「やったね、ビビアン! ノートには何が書いてるの?」
ビビアンはノートを開き、軽く目を通すが……
「……パッと見ただけでは、何が書いてあるかは分かりませんね。ですが、これを読み解けばきっと讃頌会の企みも──」
「グォォオオオオ!!!」
「!!」
タイミングの悪い事に、ビビアン達の周りにエーテリアスの群れが現れる。
しかし。
「フッ!!」
「グァァアアア!!」
戦闘態勢に入るその前に何者かがエーテリアス達の前に立ちはだかり、目にも止まらぬ早さでそれらを全滅させてしまった。
目の前に現れたのは──なんとヒューゴだった。
「……!?」
「おや? 命を救った恩人に見せる表情はそれで良いのかね? お二方」
「……どうしてノコノコと出てきたのですか、ヒューゴ。貴方の力を借りる必要はないのです」
「そう怒るな、ビビアン。何もお前の実力を疑っている訳ではない。あくまでもほんのついでだ」
「ちょ……ちょっと待って! ヒューゴとビビアンって、知り合いだったの!?」
「その通りだ、店長くん」
ビビアンはヒューゴの仲間──つまり、モッキンバードの一員だったのだ。
あの時、厳重な警備だったオークション会場にヒューゴが簡単に潜入できた訳。
それは、同じく場にいたビビアンによるバックヤードへの細工があったからだった。
(…………あ、もしかして)
ビビアンがヒューゴの仲間であるという事は、彼はビビアンがパエトーンオタクであり、ファイズをライバル視しているという事を知っている。
それはつまり、タクミがビビアンの前でファイズに変身できない理由も知っているという事だ。
ヒューゴはタクミの身を案じて、正体がバレないようスマートバックルを送ってきたのだろう。
意図せず借りを作ってしまった。
「さて……今しがた、俺は自分達がモッキンバードである事を包み隠さず明かした。この新エリー都で全てが謎に包まれていたあの怪盗団モッキンバードが、だ」
「……ヒューゴさんの言いたい事は分かってるよ。怪盗団が自らの正体を明かすって言うその誠意に、こっちも応えれば良いんでしょ?」
「ハハハ、よもやそこまで見透かされているとはな……店長くんの聡明さには舌を巻くばかりだ」
「わたし達モッキンバードが求めるのはただ一つ。プロキシさん、貴女と長期的な協力関係を結びたいという事だけなのです」
それを聞いてリンとタクミは顔を見合わせる。
「俺たちは例の予告状についても、君達の知らない手がかりを提供できる。さらにこちらの手にはサクリファイスのコアもある……どうかね? またとない取引だと思うが」
「……確かに、お互いの目的は一致してるね。でも……」
ライカンはヒューゴを危険人物だと言っていた。一つ返事で了承していいものなのだろうか。
「ふむ……そこまで憂慮するならば、此度の協力にライカンを連れてくる事を許そうではないか。奴のバックには市長勢力もついている、それならば安心だろう?」
「……うん、分かった。そこまで言うなら、二人に協力するよ」
「契約成立、グーなのです。記念にプロキシさんには、これをあげるのです」
「え?」
そう言ってビビアンは何やら精巧な作りのコレクションをリンに渡した。
かなり高価そうだ。扱う際は慎重に扱った方が良いかもしれない。
「タクミくんが見つけたこのノートは、我々で調べておく。情報が見つかり次第、連絡しよう」
「…………あ」
「どうしたんだビビアン」
「いえ、タクミが今着けてるそのベルト……どこかで見た事があると思ったのですが……」
「うん」
「思い出しました、確かヒューゴがコレクションとして持っていたものと同じベルトなのです。どうしてタクミがこれを……?」
「…………えっと」
今はまずい。このままヒューゴにベルトを貰った事がバレるのは色々とまずい。
もしそうなったらビビアンはタクミに色々と問い質すことだろう。ファイズ身バレ、決闘コース直行である。
仮にバレたとしても、話し合えば決闘せずに済むかも……? とは思ったが、パエトーンの話になると冷静さを失うビビアンにそれは期待できない。
「……はは、そのベルトは何も世界に一つしかないと言う訳ではない。奇しくも同じものを持っていた、というだけだろう」
「なるほど、そうなのですね」
どう誤魔化そうか考えていたら、ヒューゴが助け舟を出してくれた。
『世界に一つしかない訳ではない』という言葉の真偽は少し気になるが、ひとまずは助かった。