ヒューゴ達がブリンガーのノートに記されていた座標を解析した。
場所はバレエツインズのホロウ。
そこに何があるのかはまだ判明していないが、ひとまず調べてみようという事でヒューゴ、ライカン、ビビアン、そしてアンビーの四人とそのホロウへ出向くこととなった。
なったのだが──
「パエトーン様、お荷物をお持ちしましょうか??」
「パエトーン様はわたしがお守りするのですヒューゴ!!」
「パエトーン様、お疲れではありませんか? 良ければビビアンがおんぶしましょうか??」
「パエトーン様はわたしがお守りするのですヒューゴ!!」
「パエトーン様、お腹は空いていませんか?? 今日の為にお弁当を作ってきたのです」
「……タクミ、これはどういう状況?」
「それよりも何故俺は二回も怒鳴られたのだ」
「いやその……ビビアンに教えたんだ。兄ちゃんと姉ちゃんがパエトーンだって事」
昨日の夜、タクミは諸々の成り行きでビビアンにアキラとリンがパエトーンである事を明かした。
しかし……
「だ……大丈夫だよビビアン、わざわざありがとね」
「はぅっ!!!」
「ビビアン!?」
「パッ……パエトーン様から……お褒めの言葉を頂けるなんて……今日までい゛き゛て゛き゛て゛よ゛か゛っ゛た゛あ゛あ゛」
「ちょ、落ち着いてよビビアン!」
この有様である。
やはりこのタイミングで教えるべきではなかったかもしれないと後悔している。
彼女は推しに会えた嬉しさからこのまま天に召されてしまいそうな勢いだ。
「確かに昨日のタイミングで教えるべきではなかったのだろうが……無理もないだろう。パエトーンが絡んだ時のビビアンの勢いと剣幕にはどの者にも勝つ事は適うまい」
「……ビビアン様、水を差すようで申し訳ございませんが、今回の目標について改めて確認した方が良いかと」
「ま、待って欲しいのです! もう少しパエトーン様と同じ空気を……!!」
「べ、別に同じ空気はホロウに入ってからでも吸える……じゃん? だから今はライカンさんの言う通りにしよ?」
「ぱ、パエトーン様がそう仰るなら……」
ビビアンがようやく落ち着きを取り戻したところで、今回の目的をおさらいする。
本日、ブリンガーのノートに記された座標にあるものを探しに行く。
恐らくだが、その座標には讃頌会の秘密が隠されている可能性が高い。
座標の場所に隠されているものがヒューゴ達にとって吉と出るか凶と出るか……それは分からないが、調査しない事には何も進展しないだろう。
という訳で、一行は早速バレエツインズのホロウへと突入した。
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「わたしとパエトーン様の邪魔をしないでください!!!」
突入後、座標の場所へ向かう一行。
道中現れたエーテリアスに対し──ビビアンは昨日とは比べ物にならないほどの殺意を露わにする。
日傘に仕込んだレイピアでエーテリアスを滅多刺しにする。昨日はあんな戦い方はしていなかった。
近くで戦っているファイズはその姿を見て戦慄する。
「パエトーン様!! お怪我は!?」
「だ、大丈夫だよ……ビビアン。お陰様で」
「それなら何より──あああ!!」
「うわぁ!! どうしたビビアン!!」
先程までリンにぴったりくっついていたビビアンが、突然ファイズの方に逃げるように飛びついてきた。
「い、今──」
「?」
「今パエトーン様の手とわたしの手が触れてしまったのです!! ああ、まだ心の準備が……!! タクミ、ビニール手袋持ってますか??」
「持ってるわけねーだろ!」
推しと手が触れたので一生洗わないとでも言うつもりか。ちゃんと洗って欲しい。
そのまま進んでいくと、行く手には巨大なシャッターが。開けるには近くの発電室でシャッターに電力を供給しなければならない。
しかし。
「……プロキシ様、こちらの回路はどうやら問題が発生しており、現在遮断されてしまっているようです」
「ほう? かの名だたるヴィクトリア家政の執事ともあろう者が、回路ひとつの修理もできないと言うのかね?」
「……修理は可能でございます。しかし、それには回路図が必要になるかと」
「大丈夫、それなら任せて! お兄ちゃん!」
『ああ。今、リンのスマホに回路図を送ったよ』
「ありがとう! それじゃあパパっと修復してくるね!」
ホロウ外で遠隔サポートをしているアキラにお礼を言うと、リンは回路の修理へと──
「あああ!!!」
「痛い痛い痛い!! 今度はなんだよ!!」
近くにいたビビアンがファイズの右腕にギュウッと掴みかかる。
「ほ、ホロウの──」
「?」
「ホロウの内外での通信……そんな芸当が出来るのはパエトーン様だけ!! ああ、やはり目の前のパエトーン様は本物なのですね……!!」
「痛い!! だから痛てぇって!! おいビビアン!!」
さらに力が強まる。推しの存在を再確認し、その興奮度合いはとどまることを知らない。
……と、ここでアンビーが助け舟を出す。
「……ビビアン、気持ちは分かるけど落ち着いて。プロキシ先生にエーテリアスが寄り付かないよう目を光らせておかないといけないわ」
「はっ!! そ、そうですね、アンビーさんの言う通りなのです! ご安心ください! パエトーン様には指一本触れさせません!!」
そう言うとビビアンはファイズの右腕を離し、再びリンの近くへと行った。
「…………」
「ありがとなアンビー、助かっ──痛い痛い痛い!!ちょ、痛いアンビー! 何で今度はお前が──み、右腕はやめろ! いや、左腕なら良いって訳でもねぇよ!」
回路を修理し、シャッターを開けた後、先へ進むが……再びエーテリアスの群れが現れる。
ファイズ達は立ちはだかるエーテリアスを殲滅していく。
「……ライカン貴様、メイフラワーの甘い汁を啜って腕が鈍ったのか……? モッキンバードにいた頃よりも動きが遅く見えるぞ?」
「違う。プロキシ様がすぐ近くにいらっしゃるから気を配っているだけだ。お前こそ、エーテリアスの殲滅よりもプロキシ様の安全を最優先しろ」
「ハッ、俺は貴様とは違う。プロキシくんの安全を確保する事と、迅速にエーテリアスを始末する事を両立させるのは容易いことだ。貴様と違ってな」
「……」
「……」
一行はさらに先へ進んでいくが……今度は何やら複雑な仕掛けが目の前に現れる。
『マスター、前方の仕掛けは少々複雑です。突破には、この先三箇所にある装置を起動する必要があります』
「うーん……それなら三手に別れるしかないね」
「さ、三組で行くのですね? それならわたしは是非ともパエトーン様と一緒に!」
「なるほど……ならば私はタクミ様と──」
「いいえ。貴方はヒューゴと一緒に行って」
「「!?」」
「え? 俺は」
「タクミは私と一緒に」
「はい」
アンビーの言葉を聞いたヒューゴが僅かながらに顔をゆがめる。
「……アンビーくん、どういうつもりかね……? 貴女からこのような仕打ちを受ける謂れは無いはずだが……」
「さっきから見ていたけど……貴方とライカンはずっと何か言いあってた。過去に何があったかは知らないけど、今はいがみ合っている場合じゃないわ」
ごもっともである。
「確かに、心を通わせる良い機会なのです! ヒューゴ、貴方はライカンさんと一緒にお行きなさい!」
「く……ビビアン、お前はパエトーンと一緒に行きたいだけだろう……それにアンビーくん、君も──」
「「行きましょう」」
「「…………」」
「えーと、まあ……二人とも仲良く、ね?」
「……善処いたします」
「……ふん、せいぜい俺の足を引っ張らない事だな、ライカン」
アンビーの言う通り、今はいがみ合っても仕方がない。ペアがどうであれ、仕掛けを解くことが第一。
こうして一行は三手に別れ、装置を起動しに行った。