リン達と別れた後、仕掛けを解く装置がある場所へと向かったファイズとアンビー。
制御盤がある部屋には、当然のようにエーテリアスの群れが現れ、ファイズ達を囲む。
「……装置を動かすのはエーテリアスを倒した後にした方が良さそう。タクミ、死角には──」
「ハァァァァアアッ!!」
「──注意する必要はなかったみたい」
[Three, Two, One──]
既にアクセルフォームに変身していたファイズは、彼らを囲んでいた数十体のエーテリアスそれぞれにポインティングマーカーを発射。
そして怒涛の連続クリムゾンスマッシュにより、ものの数秒で殲滅した。
[Timeout]
「ふぅ……最初っからこうしときゃ良かったな」
「ありがとう。制御盤の方は私に任せて」
「ああ、分かった」
ファイズはエーテリアスの残党がいないか周りを確認する。見る限り、生き残っているエーテリアスの姿は見られなかった。
しかし──
「……ん?」
遠くの床に、何かがある事に気がつく。ファイズはその場所まで歩いていき……その『何か』を拾い上げた。
「…………灰か、これ」
エーテリアスの残骸、ではない。
バレエツインズという場所には少々不釣り合いなこの謎の灰。手で掬いあげたそれは、重力に逆らう事なく指の隙間から零れ落ちる。
試しに匂いを嗅いでみれば……
(……焦げ臭いな)
単純に何かが燃え、灰となってしまったのだろうと結論付けた。
(…………そういや乾さん、確か──)
『──オルフェノクは死体が残らない。オルフェノクが死ぬ時は、青い炎と一緒に灰になるんだ』
(…………まさかな)
ガコン!!
「!」
何やら大きな音が鳴り響く。どうやらアンビーが仕掛けを解除させたようだ。
手にあった灰を払い捨て、急いでアンビーの元へ戻る。
「早いな。もう終わったのか?」
「ええ。プロキシ先生達の元に戻りましょう」
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合流地点に到着したが……リン達の姿は見当たらなかった。
「どうやら一番乗りみたい」
「だな。ま、すぐ来るだろ」
「…………」
「……どうした、アンビー」
「タクミ、右手に何かついてる」
「え? ああ……」
先程右手で拾った灰がまだ残っていたのだろう。別に隠すことでもないのでファイズは彼女に話す。
「実はさっき制御盤がある部屋で灰……みたいなのを拾ったんだ」
「灰……? それってもしかして……」
「ああ。焦げ臭かったから多分何かが燃えて──」
「吸血鬼ね」
「え?」
アンビーはファイズの右手に残った灰を見て力説する。
「映画でもなんでも、吸血鬼というのは日光を浴びると灰になるのがお約束。タクミが拾った灰は、きっとそれだと思う」
「いやお前、バレエツインズに吸血鬼がいるって言いてーのか?」
「このホロウはまだ分かっていない部分も多い。吸血鬼のエーテリアスがいる可能性も、一概に否定はできないわ」
「……そういうのは映画の話だけにしろ」
そんな他愛のない(?)話をしていると、ヒューゴとライカン、リンとビビアンが同じタイミングで戻ってきた。
「おお、戻ってきたか──」
「はう…………」
「タクミ!」
「ぐえっ」
ビビアンは戻ってくるなりいきなりファイズ……ではなく、その後ろにいたヒューゴに抱きついた。
彼女がこちらに来た瞬間、アンビーがファイズの襟部分を思い切り引っ張ったため、そのままビビアンとの衝突を避ける形となったのだ。
「……!? ビビアン、どうしたんだ……!」
「ちょ……ちょっと待ってくださいなのです……! す、少しだけ……!!」
ビビアンの顔は上気しており、息も絶え絶えとなっている。
いきなり襟部分を引っ張られたファイズは咳をしながらリンを見る。
「ゲホッ……姉ちゃん、何したんだ……!?」
「いや何もしてないよ!? ただ一緒に装置を作動させただけだから!」
「ぱ、パエトーン様とあまり長く一緒にい過ぎると……も、持たないのです……!! ハッピーハート症候群になってしまうのです!」
「…………」
ハッピーハート症候群。
ポジティブな感情が心筋症等を引き起こす状態の事を言う。
つまりビビアンは推しと一緒にいるのが幸せすぎて死んでしまいそうだと言いたいのだ。恐らく誇張ではない。
流石にここで死なれる訳にはいかない。ヒューゴはビビアンをなんとかして落ち着かせる。
その時、前方から何か大きな音が響き渡る。
「……何の音だ?」
「恐らくエーテリアスでしょうか。少々お待ちください、私が見て参ります」
「私も行くわ」
アンビーとライカンが場を離れる。
ファイズも後に続こうとした時、ビビアンを介抱しているヒューゴに声をかけられる。
「タクミくん、不躾な頼みで申し訳ないが……ビビアンも一緒に連れて行ってはくれないかね? 少し店長くんのいない所でリラックスさせる必要がある」
「ご、ごめんなさいなのです……パエトーン様……」
「き、気にしないで! ビビアンの体調が一番だから!」
「それでは頼んだぞ」
「う、ウス」
思わず生返事をしてしまったファイズはビビアンを支えながら、アンビー達の元へ向かう。
「ああ……パエトーン様と触れ合った温もりが……まだこの右手に……」
「お前まだその事を──痛い!! 左手に力入れんなってバカ!」
残ったのはリンとヒューゴの二人。
「…………会って数日もないと言うのに、まるで兄妹のようだな、彼らは」
「確かに……でも、ヒューゴさんとビビアンの方がよっぽど兄妹に見えるよ?」
「そう言って頂けるのは嬉しい限りだが……彼女がこの先、俺と同じ道を歩むとは限らない」
「え……? どういう事?」
「……店長くん、折り入って頼みがある」
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エーテリアスを片付け、リン達はエーテルの裂け目の先へ進む。
裂け目を抜けたその先には、エーテルの晶柱で覆われた、黄緑色の大きな繭のようなものがあった。
「ブリンガーのノートの座標は、確かにこの位置だね」
「……この繭はなんだ?」
「皆様、お気を付けを……! 私の見間違えでなければこの中にいるのは──あのサクリファイスです!」
「! これが……サクリファイス……!」
繭からはなんの音も聞こえてこない。恐らくだが、まだ休眠中なのだろう。
いつ目覚めるかは分からない。しかし、目覚めれば大惨事になる事は想像に難くない。さらに、危惧すべき事実が判明する。
「ちょ、ちょっと待ってください……という事は、ノートにある座標全てに、このサクリファイスが眠っている、という事なのですか……!?」
「嘘でしょ……? ノートの座標って確か十数個はあったよね……!?」
讃頌会は恐らく、このサクリファイスを目覚めさせる方法を知っている。
ホロウ外でも存在を保てる十数体のサクリファイスを用いり、新エリー都に復讐を成す──予告状の通りに事が進めば、非常にマズいことになる。
「ひとまず、目の前のサクリファイスを──」
「そうはいかんぞ」
「!!」
声がした方を振り返る。その声の主は──レイヴンロック家の当主、ハルトマンだった。
「貴方は……!!」
「……いやはや、感謝するよ。このサクリファイスを見つけて頂いてな。もっとも、これが君達の手に渡る事はないが……」
「……まさか着けられていたとは。貴方様の目的は最初からこのサクリファイスだった、という訳ですか」
「そうとも。まさかここまで上手くとはな……ひとえに君の元相棒が情報を提供してくれたおかげだ」
「……何?」
「…………ふん」
ヒューゴはもうビビアンの傍にはいない。彼は既にハルトマンの隣に立っていた。
「そう呼ばれるのは些か気に食わんが……まあいいだろう」
「ヒューゴ……? どう、して……」