「ヒューゴ……どういう、事なのですか……!!」
「言葉の通りだ、ビビアン。俺とハルトマン殿は、事前に取り決めを交わしたのだよ」
「……!」
ヒューゴは罪悪感を感じる素振りもなく、淡々と先程まで共に行動していたはずの皆にそう告げる。
アンビーは眉をひそめながら彼に問う。
「ヒューゴ、ハルトマンと何の取引を……」
「サクリファイス……及びそのコアについて、俺達が知りうる全ての情報を提供した。それと引き換えに、こちらのハルトマン殿は俺にTOPSの仲間入りをするチャンスをくださったのだよ」
ヒューゴがそう言うと、隣にいるハルトマンは醜悪な笑みを浮かべる。
「そこをどきたまえ。大人しくサクリファイスを明け渡せば、何人も傷つけはしないと約束しよう」
「ヒューゴ、どうしてこんな事を……! 讃頌会の事を調べてくれると言ったのは、世界を公平に導くという信念は、全て嘘だったのですか……!?」
「……ビビアン、最後に一つだけ教えておこう。人は誰しも、真の目的のためならばなんの躊躇いもなく虚言を弄することが出来る──あまり簡単に人を信用してはならない、という事だ」
「……っ!」
「……ヒューゴ、お前……」
ファイズはヒューゴの突然の行動に疑問を抱く。
(……どういう事だ? いくら目的のためとは言え、こんなあっさりと裏切るような人だったか……?)
ビビアンたちの周りには、ハルトマンが雇った傭兵達が四方八方から銃口を向けていた。
「……大人しくそこをどいた方が身のためだ。それとも……レイヴンロック家、そしてTOPSを敵に回してでも、無駄な抵抗を続けるつもりか?」
「……貴方の好きにはさせないのです、ハルトマン……!」
「ふむ、まだ抵抗の意思があると見える。ならば見せしめとして、まずこの場にいる『一番の障害』となりえる者にご退場頂くとしよう」
ハルトマンがパチン、と指を鳴らす。
その直後、ファイズの足元にエーテルの裂け目が現れた。
「は……?」
「タクミ!!」
一番近くにいたリンがとっさに手を伸ばす。ファイズも彼女に手を伸ばすが、虚しく空を切る。
為す術なく、ファイズは裂け目に吸い込まれてしまった。
「…………!」
「さて、これで心置きなくサクリファイスを取り出せるというものだ」
「ハルトマン、何をしたの!? タクミをどこに……!!」
「素直に教える馬鹿がいると思うのかね? それ程までに知りたくば、本人に直接聞くといい……あの世でな。お前ら、やれ!!」
「!!」
「プロキシ様、お下がりください……!」
傭兵たちはビビアン達へと襲いかかる。その隙に、ヒューゴとハルトマンはバレエツインズの屋上へと逃げていった。
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「────ゲホッ、ゲホッ……あークソ……! 何処の、ドッキリ番組だよ……!」
同時刻、別の空間にて。
裂け目を通じて、全く知らない場所へと飛ばされたファイズは悪態をつく。
起き上がり、辺りを見渡す。ひとまずエーテリアスなどはいないようだ。
(TOPSの連中はいつの間にエーテルを操れるようになったんだ……!? 早く姉ちゃん達の所に行かねぇと……!)
ハルトマンがなぜピンポイントの位置で、しかも丁度いいタイミングで裂け目を出現させる事が出来たのか。
またしても謎が増えたが、今は気にしている場合ではない。
ファイズは手早くホロウを進む為、ジェットスライガーを呼び出すべくファイズフォンを開く。
すると──
「……?」
ファイズの元に誰かが近づいてくるのが見えた。最初は影でその姿が見えなかったが、薄暗い照明に照らされ、徐々にはっきりとしていく。
「なっ……!」
「……」
なんとその姿は、かつて郊外でタクミが変身したライオトルーパーと全く同じだったのだ。
周りを見渡せば、五人のライオトルーパーがいつの間にかファイズを取り囲んでいた。
(こいつら、ハルトマンの部下か……? なんでスマートバックルを──)
そういえばヒューゴは、前に『スマートバックルは世界に一つだけではない』みたいな事を言っていた気がする。
まさか既にTOPSには無数のスマートバックルが行き渡っているというのか。
「はぁっ!」
「っ!!」
ライオトルーパーの一人が『アクセレイガン』片手に、ファイズへと襲いかかる。
それを皮切りに、他のライオトルーパー達もファイズに攻撃を仕掛けてきた。
「……!!」
[Ready]
ファイズショットを装備し、何とか応戦する。
襲いかかるレイガンの刃を受け止め、反撃していくが──
「ぐああっ!」
反撃しようとした矢先に、遠くからガンモードのアクセレイガンによる射撃がファイズを襲う。
近距離と遠距離、それぞれから攻撃を仕掛けていくライオトルーパー達に対しファイズは何も出来ないでいた。
ライオトルーパーズ相手なら、アクセルフォームに変身すれば十秒で肩が付くだろう。
しかし変身者はおそらく人間。エーテリアスでもない以上、下手にファイズアクセルの力を使う訳には行かない。
そもそも、アクセルフォームに変身する時間すら与えて貰えないのが現状だ。
吹き飛ばされ、地面に転がるファイズ。休むことなど許さないと言わんばかりに、ライオトルーパー達が掴みかかり無理やり起き上がらせようとする。
「くっ……離せコラ!!」
ファイズも負けじと後ろからつかみかかってきたライオトルーパーを肘で突いて突き放し、ファイズショットによる一撃をおみまいする。
[1・0・6][Burst Mode]
「チマチマ撃ってくんな!」
遠い距離から攻撃してくるライオトルーパーに対しても、フォンブラスターで狙撃。
それでも集団の猛攻は止まることを知らない。このままでは埒が明かない。
(……! そうだ、無理に倒す必要はない……コイツらのベルトを奪って無力化すれば……!)
ファイズは戦法を切り替える。ライオトルーパーからスマートバックルを奪い、破壊すれば何も出来なくなるはずだ。
「…………」
先程まで以上に相手の動きに気を配り、攻撃を仕掛けてくるのを待つ。
そして先に攻撃を仕掛けたのは、ファイズの後ろにいたライオトルーパーの一人。
「そこだっ!」
「!!」
ファイズはそれを見切り、攻撃を受け流す。そして鮮やかな動作でライオトルーパーからスマートバックルを引き剥がした。
「ぐっ……」
(よし、まずは一人……!)
ベルトを奪われたライオトルーパーのうち一体はそのまま変身が解除され、光に包まれる。
そして光が収まり、そこから姿を現したのは──
タクミだった。
「…………??」
寸分の差もなく同じ姿をしているもう一人の自分を見て、危うく脳が混乱しかけたが、ファイズはすぐ目の前の現象がなんなのか理解した。
(そういやライカンさん達も同じヤツに会ったって言ってたな……ハルトマンの傭兵じゃなかったのか……?)
周りにいる他のライオトルーパーにも目をやる。
(……まさか、コイツら……)
ファイズはアルティメットファインダーを起動し、対象をX線カメラで透視する。
もしライオトルーパーの変身者が人間なら、人間らしく骨格が見えてくるはずだ。
しかし──透視で見えたライオトルーパー達の体には、何も映っていなかった。
ドッペルゲンガーには骨格がない……つまりここにいるライオトルーパーの全てがドッペルゲンガーという訳だ。
(…………つまりコイツらは人間じゃない。なら──)
「──手加減なんかしなくて良い訳だな……!!」
「!!」
ファイズは左手首のファイズアクセルに手をやる。
それを見たライオトルーパー達はさせるまいと一斉攻撃を仕掛ける。
しかし。
「……!! ぐっ……!!」
丁度良いタイミングでバトルモードのオートバジンが駆けつけ、ライオトルーパー達にバスターホイールで援護射撃をする。
[Complete]
[Start Up]
「ハッ!! タァアアッ!!」
アクセルフォームに変身したファイズ。
オートバジンからファイズエッジを引き抜き、そのまま連続スパークルカットでライオトルーパー達を殲滅させた。この間僅か七秒。
ファイズエッジによる一撃を食らったライオトルーパー達は血が吹き出るわけでもなく、そのままベルトごと消滅。
途中までの苦戦は何だったのかと思うほど、呆気ない結末だった。
ドッペルゲンガー、ゲームでは全身真っ黒ですが実際に見たらほとんど本物と見分けがつかないんだろうと考えています