ライオトルーパー達を撃破し、静かになった空間に佇むファイズ。
その時、とあることに気づいた。
「……あれ? ベルトは?」
ライオトルーパーが消滅した後、スマートバックルがどこにも見当たらない。
それどころか先程奪ったはずのベルトさえ手元に無かった。クリムゾンスマッシュの余波で吹き飛んだのだろうか。
一つは残しておき、それ以外のベルトは悪用されない為に破壊するつもりだったのだが──
(まさかベルトもドッペルゲンガーが作り出した幻なのか……?)
そう考えていたその時。
「グァァァアアッ!!」
「!」
背後から上級エーテリアスのハティが突然襲いかかってきた。
ファイズが持っていたファイズエッジで応戦しようとしたところ──
「フッ!」
「グォォオオオ──!!」
視認できない程の速さで何者かが割り込み、ハティを一刀両断した。
エーテリアスを消し飛ばし、目の前に姿を現したその人物を見て──ファイズは驚愕した。
「…………アンタは……!」
そして数分後、変身を解除したタクミの元にリン達が助けにやってきた。
「タクミ!」
「! 姉ちゃん」
リンは座って俯いていたタクミを見るなり一目散に駆け寄る。
「どうしたの、大丈夫!? どこか怪我したの!?」
「え、あいや、大丈夫だって! ちょっと休憩してただけだから」
「……タクミ様、もしお身体に異常があるようでしたら隠すような事はなさらず……」
「べ、別に隠してなんか──」
「タクミ」
「はい」
「本当の事を、言って」
「…………わ、脇腹がちょっと痛むぐらい──い、いやそれだけだって! マジだって! ちょ、頬をつねるのはやめろ!」
ホロウを出た後、今回のことについてライカンが事情を説明してくれた。
事の発端は約数十分前。
並居る傭兵たちを退け、バレエツインズの屋上までハルトマンとヒューゴを追い詰めたライカン達。
そこで、衝撃の事実が判明する。
なんと、彼にはレイヴンロックの血が流れており、ハルトマンではなく自身こそがレイヴンロック家の正当な継承者だと主張したのだ。
ヒューゴはレイヴンロック家の跡継ぎとして、TOPSの上層部にサクリファイスに関する全てを提供すると言った。
彼のその発言は、危機に晒されるであろう新エリー都を見捨てると言っているも同然。
全ては──世界に真の公平をもたらすために。彼は何を犠牲にしてでも、それを掴むつもりだった。
そして彼のその信念を証明するかのように、ヒューゴは一瞬の隙をついてリンを人質にとり、ライカンを挑発する。
『──どうした裏切り者! 俺がこうしてもなお、聖人君子ぶって命は尊いものなどと抜かすつもりか!?』
『……っ!!』
ヒューゴの目は本気だった。
今にもリンの命を奪いかねないヒューゴのその目を見てライカンは──その右手でヒューゴの心臓を貫き、殺害した。
ライカンによって手にかけられたヒューゴはニヤリと笑いながら、建物の下の暗闇へと吸い込まれていった。
さらに、場にいたハルトマンは混乱に乗じ、サクリファイスのコアを持って逃走したと言う。
そして現在に至る。話を聞いたタクミは──
「──へ? 殺された? ヒューゴさんが?」
彼の死に重い反応をするわけでもなく、何故か素っ頓狂な声を上げていた。
「はい。弁明のつもりはございませんが……リン様の命を救う為、やむを得ませんでした」
「そう、なの……か? いやーでも……あれ?」
「どうしたの? 何か奥歯に物の挟まったような喋り方だけど……」
「あーいや……その、断言はできないけど……ヒューゴさんの事だから、実は生きてんじゃねぇのか?」
この短い間で、ヒューゴが底の知れない人物だという事は嫌という程分かっているつもりだ。
「……彼が生きている可能性はございません。この手で確かに、ヒューゴの心臓を貫いたのですから」
「…………なる、ほど」
「……」
タクミはビビアンを横目で見る。彼女は暗い表情で俯いていた。
「そういえば、タクミの方では何があったの? あの時いきなりハルトマンが合図したタイミングで、足元に裂け目が出てきたけど……あれってどう見ても偶然じゃないよね?」
「あのおっさんに聞いてみない事には分かんねーけど……少なくとも偶然じゃないのは確かだな。裂け目の向こうで大量のドッペルゲンガーと出くわしたのも、多分偶然なんかじゃない」
「ドッペルゲンガー、でございますか? もしやそれは……」
「ああ。ライカンさん達が前にバレエツインズで会った、俺のドッペルゲンガーだ」
ただ、今回はオーガではなくライオトルーパーでの姿で遭遇。さらに言えば、今回は複数体いた。
何故ハルトマンはエーテルの裂け目が出てくるタイミングが分かったのか。そしてあの複数体のドッペルゲンガーもハルトマンの差し金なのか。
謎に迫ったかと思ったら、却って謎が増えてしまった。
「……なるほど。タクミ様の身に起こった事も含め、今回の件は市長閣下にご報告します。何かありましたら、いつでも私にご連絡ください」
アンビー、ライカンと別れた後、リン達はビデオ屋に帰り着いた。
ビビアンも一緒に。
「…………」
「……ビビアン、大丈夫?」
「わ、わたしは大丈夫なのです、パエトーン様」
「あんな事があったんだ、無理もないさ。しばらくはゆっくり休んだ方が良い」
「ありがとう、ございます……」
「…………」
彼女は依然として暗い表情をしていた。
その表情は、兄のような存在でもあったヒューゴを喪った事によるものなのだと思っていたが……何か様子がおかしい。
彼女の表情は悲しさというよりも、何かを恐れているかのような──そんな表情だった。
「……ヒューゴが最後に何を伝えようとしていたかは分かりません。けどこの件の裏には、もっと恐ろしい事実が隠されているような、そんな気がするのです」
「…………ビビアン」
「パエトーン様、その……厚かましいお願いなのですが……数日だけ、ビデオ屋に泊まらせて頂けませんか? ご迷惑はおかけしないのです!」
「!」
アキラとリンは顔を見合せたあと、互いに頷く。
「うん、もちろんいいよ。私もビビアンを一人にしておくのはどうかと思ったからね」
「ありがとうございます、パエトーン様」
「それで、部屋はどうするんだい? リンと同じ部屋で良いかな?」
「お、いいね!」
「え!?いや……パエトーン様と同じ部屋だなんて……!! お、恐れ多いのです!! タクミの部屋で大丈夫なのです!」
「なんでだよ」
恐れ多いと言って引き下がらず、結局ビビアンは工房のソファで眠ることにした。
そしてタクミも、今回の戦いで積み重なった疲れを癒すべく、ベッドに入る。
……と、その時スマホからノックノックの通知音が鳴る。
「……!」
メッセージの送り主は──ヒューゴ。
サクリファイスを巡る戦いは、まだ終わらない。
このまま続きます!