ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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協力

 

 

 

 

 

「パエトーン様はこれまで華麗なる手腕で、数多の事件を解決してきました」

 

 

 

「その能力もさることながら、危険な局面でも決して焦ることなく、世界最大最強のプロキシとしてホロウで多くの人達を導き続けました」

 

 

 

「能力、人柄、精神力、カリスマ……そのどれを取っても、パエトーン様に並ぶ者などいません。これはパエトーン様ご自身の努力による、紛うことなき純然たる事実なのです」

 

 

 

「しかし、世の中にはパエトーン様に擦り寄り、その能力を利用しようとするダニ同然の不埒者も存在します」

 

 

 

「天下のパエトーン様でも、戦闘だけは不得手でいらっしゃいます。もしノミ同然の不埒者に接近されれば、場合によってはパエトーン様が危険に晒される可能性だってあるのです」

 

 

 

「そうならないようにこのわたし、ビビアンがしっかりと目を凝らしておかなければならないのです。パエトーン様に薄汚いダニが寄ってこないように……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なのでパエトーン様を至近距離で見張っていたという訳なのです! 決して眠っているのをいい事に彼のご尊顔にキスをしようとした訳じゃありません!」

 

「あのなビビアン……さっきも言ったけど、見張るにしてもあんな至近距離まで顔近づける必要はなかっただろ」

 

「誤解なのです!!」

 

 

必死に弁解するビビアンを冷めた目で見るタクミ。

 

事の発端は数分前に遡る。

 

工房に入ったらソファで昼寝をしているアキラにビビアンがキスをしようとしていた。以上。

 

 

「ですから誤解なのです!! 先程から言っているように、パエトーン様に危害が加わらないよう一時も目を離していなかっただけですから!」

 

「え〜本当?」

 

 

リンがビビアンをジト目で見つめる。

 

元々ビビアンはアキラとリンに用事があってビデオ屋に来たのだが、アキラは夜遅くまで調べ物をしていた疲れからか、工房のソファで熟睡していた。

 

最初は普通に起こそうとしたが、ビビアンが『お目覚めになるまで待つのです』と言ったため、しばらく待つことにした。

 

 

待った結果がこれである。

 

犯行現場を目撃したタクミが何か言う前に、ビビアンがものすごい勢いで彼を部屋の外へ連れていき、リンとタクミは長々しい弁明を聞く事になった。

 

 

「おや、ビビアン……来ていたんだね」

 

「あ!! パエトーン様!! おはようございます!!」

 

 

丁度良いタイミングでアキラが起床し、工房から出てきた。

 

 

「今日はどうしたんだい?」

 

「きょ、今日はパエトーン様にお話ししたい事があったのでここへ参った次第なのです。ですが、お休みのご様子でしたので……」

 

「そうだったのかい? 遠慮せず起こしてくれても良かったのに」

 

「いやぁ実はな兄ちゃ──ブッ

 

「タクミ!?」

 

 

突然タクミの口元目掛けてビンタするビビアン。彼女は笑顔を崩さない。

 

 

「貴方様が調査でお疲れだともう一人のパエトーン様から伺いましたので……お邪魔するのは申し訳ないと思ったのです」

 

「そ、そうかい……? 気遣ってくれてありがとう、ビビアン」

 

「ふ、ふへへ……」

 

「……」

 

 

ビビアンはおおよそ人様には見せられないようなふにゃふにゃとした笑顔を見せるが、すぐにキリッとした顔に戻る。

 

その時、突然タクミが店のドアの方を見る。

 

 

「どうしたの、タクミ?」

 

「いや、店に誰か来たみたいだ……俺が出るよ」

 

 

そう言ってタクミは店の外へ出る。一瞬、開いたドアの向こう側に白い毛が見えたのは気の所為だろうか。

 

アキラとリンはひとまず工房に戻り、ビビアンの話を聞く事にした。

 

 

「こ、コホン……それでは本題に入るのです。本日ここへ参ったのは、モッキンバードとレイヴンロック家に関する事なのです」

 

 

ヒューゴの死から数日ほどが経った現在。世間では『モッキンバードの死』が絶え間なく話題となっている。

 

そんな中、ヒューゴがレイヴンロック家の私生児であるという情報が広まっているとの事だ。

 

 

「恐らく世論を操作するため、何者かが意図的に流したのだと推測されますが……今のところ、情報源は分かっていないのです」

 

「うーん……あくまで予想だけど、ハルトマンがモッキンバードを貶すつもりで、ヒューゴが名家の私生児だって事を言いふらしてるんじゃないか?」

 

「わたしも最初はそう思いました。ヒューゴがTOPSのレイヴンロック家出身だと明かす事で、モッキンバードと財政ユニオンの繋がりを想像させる……」

 

 

TOPSを支持する層は、この事をあまりよく思っていないのではないかとビビアンは予想した。

 

しかし、彼らの反応はその逆を行った。

 

ヒューゴの生い立ちや境遇、それらに対する同情の声は思いの外多かったのだ。逆に、ハルトマンに対しては非難の声の方が多い。

 

 

「今週、TOPSで業界サミットがあるのですが、情報によれば例年レイヴンロック家主催だったところを、今年は別の一族が臨時で催行する事になったのだそうです」

 

 

恐らくだがTOPSは現在の世論を見て、レイヴンロック家と距離を置こうとしているのだろう。

 

TOPSは、ハルトマンとレイヴンロックの両方を排除しようと動いているのかもしれない。

 

 

「あれ以来全く姿を見せないハルトマンもこの事を恐れ、そろそろ動きを見せるはずなのです。彼の手にはサクリファイスのコアもあるので、恐らく──」

 

「みんな、少しいいか」

 

「!」

 

 

先程まで私用で席を外していたタクミが再び工房へ入ってくる。

 

 

「どうしましたか、タクミ?」

 

「ライカンさんが来た。前の件で、ビビアンに話があるってさ」

 

「……わたしに?」

 

「ああ。ライカンさん、入っていいよ」

 

「失礼いたします」

 

 

聞き慣れた声とともに、ライカンが工房へと入ってきた。ライカンは重苦しい表情でビビアンを見る。

 

タクミが席を外していたのは、店の外でライカンの相手をしていたからだった。

 

リンはタクミにヒソヒソ声で話しかける。

 

 

「……タクミ、ライカンさんの話って?」

 

「ヒューゴさんの事だ。あの時手にかけた事でビビアンに負い目があるみたいでな」

 

「……フォローとかした方が良いかな」

 

「いや、それはいらない。こっちはあくまで二人を見守るだけだ」

 

 

ライカンはビビアンに、バレエツインズのホロウでヒューゴを殺害した事について謝罪。

 

ビビアンはそれに対し、怒りや悲しみの感情を見せることはなかった。それどころか、ライカンひ謝罪の必要はないと拒否した。

 

これは、ライカンを許さないという意味ではない。

 

彼女の表情に負の側面は見られず、前へ進むという意思のみが見られた。ライカンにもそれが伝わったようだ。

 

 

「……モッキンバードの元一員として、貴方様に敬意を評します」

 

「もうその話は終わりにするのです。それよりもライカンさん……貴方がここに来たのはただ謝りに来たというわけではないのでしょう?」

 

「ええ。今回参りましたのは、市長閣下からの協力の要請の件についてでございます」

 

「協力?」

 

「はい。現在我々には、讃頌会並びにサクリファイスの件について調査をするという、同一の目的があると信じております」

 

「えっと……つまり、ここにいる私たちで一緒に讃頌会とサクリファイスについて調査しようって事?」

 

「左様でございます」

 

「……協力、ですか」

 

 

ライカンの言葉に、ビビアンは険しい表情を浮かべた。

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