カンバス駅通り。
ニコ達はヴィジョンへの代理訴訟人になるため、住民達から委任状を集めていた。
「ほれ、アンビーちゃんや、これで委任状は全部だよ」
「ありがとう」
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だよ。あなた達がいなかったら、あたしら全員どうなってた事やら」
そう言って老人は委任状の紙束をアンビーに手渡した。
「それにしても……助けを呼びに行ってくれたお嬢ちゃんだけど、中々戻ってこないねぇ」
「確かに妙だわ……また想定外の事に巻き込まれたんじゃないでしょうね……?」
「確かに想定外の事はあったけど、良い策を思いついたよ」
「この声は、プロキシ!」
「みんな、お待たせ!」
声がした方を振り向いてみると、そこにはプロキシ達が来ていた。猫又も一緒だ。
「ニコちゃん。このボンプが私達を助けてくれるっていう……?それにそっちの人は……?」
老人がファイズを見ながらニコに尋ねる。
「安心しておばあさん!このボンプはとっても頼りになるし、こっちの人はめちゃくちゃ強いんだから!あのデッドエンドブッチャーだって敵じゃないわ!」
「おいニコお前ちょっと待──」
「とにかく私達に任せておけば大丈夫よ!」
「……」
「……え、えっと……そうだ!ここに来るまでの経緯と、住民達を助ける方法を説明するね!」
プロキシは住民達にこれまでの経緯と救助プランを説明した。
「……なるほどな。列車を止めて爆破自体をやめさせようとしたけど、車両はヴィジョンの武装した増援でいっぱいだった……それで店長達は来るのが遅れちまったわけか」
「ふん!どうやらヴィジョンは、住民達の決死の抵抗をよっぽど恐れてるみたいね……でも、プロキシの言ってたプランはいいと思うわ!」
ニコが老人の方へ向き直る。
「おばあさん、さっきの救助プランは聞いててくれたわよね?住民の皆を、一番近い地下鉄駅に集めてくれる?」
「安心しなさい。足手まといにはならないよ。すぐ皆に知らせてこよう」
「ええ、お願いね。──あ……そうそう、この近くのホロウに赤牙組の古い拠点があるって聞いたんだけど、何か知らない?」
「急に話が変わったね……なんで今そんな事を?」
「だって猫又の依頼料……じゃなくて、家族の形見がまだ見つかってないのよ。ここの住民なら、何が見つかるかと思って」
「そのあたりのことなら、知ってるよ。というより、ここに住んでる人で、赤牙組の事を知らない人はいないだろうね」
「えっ、本当?」
老人曰く、赤牙組はここカンバス通りで誕生した。ここの住民は赤牙組と深い関わりがあったらしい。
昔の赤牙組は、孤児たちを引き取って戦い方や文字の読み書きなどを教えていた。
弱き者を助けるために立ち上がる。それが赤牙組のやり方だった。
しかし頭領のシルバーヘッドは数年経ってすっかり人が変わり、目的の為ならば手段を選ばなくなってしまった。
それに失望し、組を抜けていった人間も少なくは無い。しばらくすると赤牙組自体がカンバス通りを離れていったという。
「──えっ?今、なんて!?」
老人の話を聞いていると、突然猫又が声を上げた。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん?確かに赤牙組とは関わりたくないと言ったけど、気に障ってしまったかい?」
「そ、そこじゃなくて……シルバーヘッドは、治安局に追われてホロウに落ちたの?邪兎屋に……やられたんじゃなくて?」
「ぎくっ!そ、それは……」
「?…………あっ」
ここでファイズは視覚記録にあったやり取りを思い出す。
猫又は口コミブログか何かで『邪兎屋はシルバーヘッドをホロウに追い詰め撃退した』という情報を得た。
完全に嘘情報なのだが、邪兎屋は『まあそういうことにしとくか』という感じで誤解を解くことはしなかった。
ビリーが慌てて猫又に弁明する。
「こ、子猫ちゃん……いや依頼人さん!分かってくれ!誤解を解こうとしたんだが、そのキラキラした目で見つめられると、何も言えなくなっちまって……!」
「そんな……あんた達じゃ、なかったの……?」
「猫又、気を落とさないで。たとえ治安局の介入が無かったとしても、邪兎屋ならシルバーヘッドに手こずる事はなかったわ」
「コホン……今回の件は、確かに猫又が勝手に誤解しただけとはいえ、あたし達にもほんの少し責任があるわ……形見探しの依頼料は、ちょっぴりオマケしてあげる!」
「……」
「と……とにかく、この話は終わりよ!今は一刻も早く列車を奪って、住民たちをここから連れ出さなきゃ!さあ、出発するわよ!」
そう言ってニコは足早に行ってしまった。
「……ねぇ、ファイズ」
「うん?」
「さっきの……本当なのか……?」
「あー……本当だよ。治安局がビルに砲撃かましたせいでホロウに落ちたんだと」
「……そう、だったんだ」
「そんなにショックだったのか、お前」
「ショックはショックだけど、その……」
「……?」