レイヴンロック家のバートンが迎えに来るまであと三十分程。
「以前にも増して執事服が様になっていらっしゃいますわね、タクミ様」
「確かに……かなり似合っているのです。あ、お世辞ではないですよ?」
「…………」
その間、タクミは再び執事服に着替えることとなった。リナが持ってきたヴィクトリア家政の執事服を着たタクミは、居心地の悪そうな顔をする。
「実際に見るのはまだ二回目だけど、凄いしっくり来るね……」
「まだってなんだよ……これからも着るみたいな言い方だな」
「あら、私としてはいつでもヴィクトリア家政に入って頂いて構わないのですよ?」
「スマホ持って連写しながら言うの怖いからやめてくれねーかリナさん」
『ケチケチすんなよ!』
『サツエイ! サツエイ!!』
先程からスマホをカシャカシャ鳴らしタクミを撮影しているリナ。
今回は何故かドリシアとアナステラもふわふわと浮きながら、様々な方向から撮影している。
「……てかビビアン、やっぱ思うんだけどさ……俺より兄ちゃんの方が執事姿似合うんじゃねーか?」
「そんな事はないさ。僕じゃタクミほど様にはならないだろうし」
「あ、今回の件が終わったらパエトーン様にも執事服を着て頂くのです」
「ビビアン?」
ビビアンは部屋の時計を確認する。もうじきバートンが到着する頃だろう。
「そろそろバートンが迎えに来る時間ですね。では行きましょう、タクミ」
「ああ、分かった」
「ちょ、ビビア──」
「それではビビアンの帰りを待っていてください、パエトーン様! 行ってくるのです!」
「行ってきま〜す」
「いってらっしゃいまし〜」
ビビアンとタクミは店を出ていった。
「…………」
「アキラ様、もしよろしければ貴方様の分の執事服もご用意いたしますよ?」
「いや、僕は……いいかな。うん」
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「お待ちしておりました、バンシー嬢」
待ち合わせの場所へ向かうと、そこには既にバートンが車を停めてビビアン達を待っていた。車の中には彼が雇ったであろう運転手がいる。
バートンはビビアンと共に来た、執事服姿のタクミを見る。
「……バンシー嬢、こちらの方は……」
「あら、見て分かりませんこと? 彼はわたしの執事ですわ。今夜の晩餐会に同行させる事にしましたの」
「…………お初にお目にかかります、バートン様。バンシーお嬢様にお仕えいたしております、アルフレッドと申します。お嬢様の身をお守りする為、ご同行させて頂きました」
予め考えておいた偽名と、執事っぽい喋り方でなんとか誤魔化すタクミ。アルフレッドという名前は最近見た映画に登場する執事の名前から取っている。
バートンはタクミを値踏みするような目つきでしばらく見つめる。
「……バートンさん。わたしの執事に対して、その目つきは些か失礼ではなくて? それとも、彼が来ると何か不味いことでも?」
「おっと……いえ、滅相もない。バンシー嬢さえ宜しければ、彼も客人として喜んで歓迎いたしますとも。さあお二方、お乗り下さい」
バートンはそう言うと、車の後部座席のドアを開け、こちらに手招きをする。
ビビアンは先に車に乗る……そしてタクミに『車に仕掛けはない』とアイコンタクトで伝える。
タクミはそれに頷き、ビビアンと同じ後部座席に座った。
「それでは出発します。港まで車で行ったあと、モーターボートで邸宅へと向かいましょう」
そうして車はエンジンの音を鳴らし、レイヴンロック家の邸宅目指して出発するのだった。
それから約一時間後。
モーターボートの船酔いに耐え、邸宅内の何重にも及ぶ厳重なセキュリティチェックを通りながら、ようやく晩餐会の会場へと到着した。
正直言ってかなり疲れた。これからはモーターボートにはできるだけ乗りたくない。
そして現在、タクミはビビアンとバートンが会話する様子を少し離れた所で見守っている。
ビビアンは表情ひとつ崩さず、毅然とした振る舞いで、バートンとの会話を乗り切っている。
(ビビアンってパエトーンが絡まねー時はやっぱりすげぇよなぁ……いや、絡んでる時もある意味すげぇけど)
タクミは『富豪の一人娘』を演じるビビアンを見ながら、他人事のようにそう思った。
そしてようやく会話が終わったのか、バートンはビビアンの元から離れていった。
ビビアンは彼の事を姿が見えなくなるまで見送ったあと、心底疲弊した様子を見せ、タクミの元へ歩いていく。
しかし──
「バンシー嬢、少しよろしいかな? 良ければ君と話がしたいのだが……」
「…………」
(あ、今絶対心の中で舌打ちしたなビビアン)
ここは執事の出番だろう。タクミ……もといアルフレッドはビビアンと男の間に割って入る。
「お嬢様はここまでの長旅で、酷くお疲れでいらっしゃいます。恐れ入りますが、どうかここはご容赦頂けますでしょうか」
タクミの言葉に、男はしぶしぶと言った感じで離れていった。
「……お疲れ、ビビアン」
「はぁ……やはりあの輩の相手は酷く疲れるのです。助かりました、タクミ」
晩餐会はまだ始まったばかりだが……二人はここに長居するつもりは微塵もない。
「さあ、今のうちにハルトマンの書斎を探しに行きましょう」
「ああ。多分会場の隅にあるドアから出たら庭園に出れるはずだ」
それから少しした後、会場に人が増えてきたタイミングで、二人はこっそりその場を抜け出した。
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庭園を経由し、ビビアンとタクミは屋敷の奥へと進んだ。その結果……あっさりとハルトマンの書斎へとたどり着いてしまった。
「…………」
「……やはり、タクミもおかしいと思いますか?」
「うん、流石にな……ここら辺、いくらなんでも警備が手薄すぎる」
ここまでの間、警備員の数は片手で数える程しかいなかった。その彼らに気づかれないように進むのも驚く程容易だった。
それと比べ、邸宅外部のセキュリティはかなり厳重に出来ていた。当然、ここに来るまでにファイズのベルトも持ってきてはいない。
「もしかしたら外部の警備に数を多めに割いているのかもしれません……念の為、ライカンさんにも連絡しておきましょう」
「そうだな……」
タクミは辺りを見渡す。そこかしこに書類が重なっている。これらの中には、ハルトマンの取引やサクリファイスに関する情報があるかもしれない。
「手分けして探しましょう。恐らくここには──」
ビビアンがそう言いかけた時、書斎の扉が開く音が響いた。それを聞いた二人は慌てて机の下へと隠れる。
「……お二人共、我がレイヴンロック家のもてなしはお気に召さなかったかね?」
(……! ハルトマン……!)
書斎へ入ってきたハルトマンは、こちらの存在に気づいているようだった。
「ははは、わざわざ始末されに俺の縄張りに転がり込んで来てくれるとはな。愚かなバートンには感謝しないとな……」
「……タクミ、わたしの後ろに……!」
「どうした、何も喋ってはくれないのか? そこに隠れていても寿命が伸びるわけじゃないだろう?」
リボルバーのシリンダーを回す音が聞こえる。やがて、ハルトマンはビビアン達が隠れている机に向け銃口を向ける。
「それでは、ビビアン嬢と……ファイズ、だったか? あの世でヒューゴに宜しく言っておいてくれ……レイヴンロック家の頂点に立つのは、この俺だとな……!」
そしてハルトマンは銃の引き金を引く──
しかし、銃口から銃弾が放たれる事はなかった。否、
「なっ、何……!? 弾が……」
「弾が、どうかしたかね? 親愛なる叔父上よ」
「!!」
書斎の窓の方を見る。
そこには、ハルトマンが放ったはずの銃弾を掌の上で転がす男の姿。
そしてその男は、この場にいる全員にとって酷く見覚えのある顔だった。その顔を見て、ビビアンは目を丸くした。
「────ヒューゴ……!」
ゼンゼロ一周年おめでとうございます
神ゲーです