「ば……バカな……お前は確かに、あの時……!」
ヒューゴは、メイフラワー家の白い狼執事によって殺されたはず。ハルトマンはその光景を確かにこの目で見たのだ。
しかしその記憶を裏切るように、ヒューゴは今こうしてハルトマンの目の前に立っている。
決して幻ではない、本物のヒューゴが。
「つれないな、叔父上よ。俺に伝えたい事があるよなら、直接言ってくれれば良いではないか」
「くそ……死に損ないめ……! 何故貴様が生きているんだ!!」
「ハッ、レイヴンロック家の人間は目的を達成するまでは決して諦めない……叔父上ならよくご存知のはずだろう?」
「ぐっ……」
「貴公が高みに居座れる時間は最早片手で数える程しかないだろう……聞きたいかね? 俺が如何にして、目的を成し遂げたのかを──」
ライカンのアドリブにより『死』を偽装する事に成功したヒューゴの計画……それは、レイヴンロック家が犯した罪を世間に露わにする事。
レイヴンロック家が揉み消した、労働者が失踪したと言う例の事件。その真相と決定的な証拠を掴むため、ヒューゴは密かに行動を開始した。
最初に、レイヴンロック家と提携している讃頌会をおびき寄せるため、市長からサクリファイスのコアを盗み出し、『勇者の外套』と共にオークションへと出品した。
そしてその直後、オークションでハルトマンを見つけ、サクリファイスと讃頌会に関する情報を得るためにハルトマンと協力関係を結んだ。
さらに市政側が正当な理由で行動を起こせるよう、とある予告状を送った。
そう、『サクリファイスを以て新エリー都を襲撃する』という旨が書かれた、あの予告状だ。
最後に、ヒューゴは『死』を偽装することによって人々の関心をハルトマンとレイヴンロック家に向けさせ、讃頌会に自身の計画の邪魔をされないように仕向けた。
そして表舞台から身を引いた後、ヒューゴはライカンを巻き込んで計画を開始。
例の事件で失踪した労働者がいるというホロウへ入り、労働者を救出しながら現場へと向かう。
そこで判明した真相。
レイヴンロック家の人間は、労働者達に『エーテル適性が向上する薬』と称した『人の心を操る薬』を飲ませ、彼らを讃頌会が行うサクリファイスの開発の実験台にしていたのだ。
その現場を撮影し証拠として収めたヒューゴ。そして今度は薬を飲んでしまった労働者達のために、予め彼は
実はハルトマンは協力関係を結ぶ取引の際、ヒューゴが裏切らないようワインに『人の心を操る薬』を少量盛った。
当然ヒューゴはそれに気づいていたが、あえてそれを見逃した。証拠を掴むため、そして労働者に与える解毒剤を作らせるためのデータを集める為に必要なことだったからだ。
これにより、労働者達は無事にホロウの外へ帰る事が出来るだろう。
かくしてヒューゴは、レイヴンロック家が隠した事件の真相と証拠を手に入れたというわけだ。
「……っ!!」
ヒューゴから事の真相を聞いたハルトマンは恨めしそうに彼を睨みつける。
「ああ、それともう一つ……ちょうど良い頃合だ。こちらを見たまえ」
ヒューゴは書斎のテレビの電源を着ける。画面に写ったのは、TOPSにより開かれた記者会見の生中継。
『……TOPS財政ユニオンを代表し、表明する。今回のレイヴンロック家の行いに関して、我々は一切関与していない』
さらに、ユニオンはレイヴンロック家とのあらゆる協力関係を打ち切り、今後一切関わる事はないと強く主張。
その映像を見たハルトマンは怒りのあまりヒューゴに掴みかかる。
「貴様……気でも触れたのか!? レイヴンロック家を潰してなんの得になる!! 割を食うのは貴様も同じなのだぞ!」
「おや……まだ理解していなかったのかね? 俺はレイヴンロック家の頂点とやらに興味は無い。俺の計画の全てはレイヴンロックを、ひいては叔父上……貴公をその高みから引きずり下ろす事だ。それに貴公……俺が何者なのか忘れたのか?」
ヒューゴは続ける。
「俺はヒューゴ・ヴラド。富める者から盗み、貧しき者に与える怪人。何人をも騙し通す稀代のペテン師──そして、モッキンバードのリーダーだ」
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ヒューゴが用意したモーターボートにより、無事邸宅からポート・エルピスへと戻ったビビアンとタクミ。
港でライカンの迎えを待っている途中。
ビビアンはヒューゴに対し何も喋る訳でもなく、ただただむすっといるだけだった。
「…………」
「……ビビアン、何故腹を立てているのだ? 表舞台に戻るに辺り、お前の暖かい労いの言葉は必要不可欠なのだが……」
「……ヒューゴ、わたしがモッキンバードの一員だという事を忘れたのですか?」
「!」
「それに……わたしは貴方が死んでしまったら悲しいのです。いくら事情があったとはいえ、何も言わずに……」
「……ビビアン。俺はお前とその大切な人間を巻き込みたくないが故に、わざと黙っていたのだ。誰も傷ついて欲しくないと願う我儘なこの俺を、どうか許して欲しい」
「……」
ビビアンはそれを聞いて、仕方ないリーダーなのですと言わんばかりにため息をつく。
そして会話を聞いていたタクミは思わず目を伏せる。ヒューゴが生きていたこと自体は知っていたタクミからすると、気まずい事この上ない。
「それとタクミ」
「!?」
いきなり名前を呼ばれてビビるタクミ。
「……先程邸宅でヒューゴが生きていたのを目にした時、わたしは凄く驚いたのです。ですがタクミ……貴方は彼が生きているのを見てもさして驚いた様子は見せませんでしたね」
「…………」
「思えば、あの時ヒューゴが死んだという知らせを聞いた時も、貴方は対して驚いた素振りを見せなかったのです。まさかとは思いますが……ヒューゴが生きていた事、知っていたんじゃないですか?」
「…………えっと、それは」
「知っていたのですね??」
「はい」
ファイズの事然り、隠そうと思っていたことが全てビビアンにバレている。
ビビアンが鋭いのか、タクミが隠し事が下手なのか。おそらく両方だろう。
「おっとビビアン、どうか彼を責めないでやってはくれないか。お前や店長くんに何も伝えないよう頼んだのはこの俺なのだから。彼に非はない」
ちなみに意図せず共犯者となってしまったライカンも、タクミが事情を知っていた事はちゃんと知っている。
ヒューゴと電話をした後日、心配になったタクミはリン達の目を盗み、ライカンにヒューゴがどこにいるのかを聞いたことがある。
返ってきたのは『お答えできかねます』の一言ではあったが。
「……ふんっ、良いのです。今度からはお二人でモッキンバードをやっていけば良いのでは無いですか?」
「ビビアン……そう怒らないでくれ。それに、お前が俺の立場なら、同じ事を考えたはずだ。違うかね?」
「…………それは」
ビビアンは急に押し黙ってしまった。
「……さて、タクミくん。君には言っておかなければならない事があるな。こちらの不手際にも関わらず、あの時君は俺を信じ協力してくれた。俺の計画が成功したのも、君の一助もあっての事だ……感謝する」
「……別に俺は何も」
「つーーーーーーーんなのです!! なんですか二人して! もう知らないのです!」
「つーんって口に出す奴初めて見た……」
数分後。ライカンが車で迎えに来た後、ビデオ屋へと戻る途中。
「……タクミくん。かねてより君に尋ねたい事があったのだが」
「なんすか?」
「君が着ている
そう言えばまだ執事服を着たままだった。
「あぁ、それは──」
「悪い事は言わない。ヴィクトリア家政に入るのはやめた方が良い……ライカンの下に付くという事になるのだぞ? 他に選択肢はある」
「え? いやあの──」
「タクミ様、もし貴方様がそのおつもりでございましたら、我々ヴィクトリア家政はいついかなる時でも歓迎いたします」
「いやだから」
「おいライカン。いつから貴様はそのようなつまらん冗談を言うようになった?」
「冗談のつもりではないんだがな。なんだ、気に食わないのか?」
「ああ、気に食わないとも。貴様のその物言いと上から目線な態度も含めてな! 大体貴様はいつもいつも──」
「やっぱ仲良いっすね」
「断じて違う!」
「思い過ごしでしょう」
「あっはい」