ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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番外編⑦
克服


 

 

 

 

 

陽が登り始めた日のこと。

 

部屋のベッドで寝転んでいると、突然アキラからノックノックのメッセージが届いた。

 

 

『タクミ、大事な話がある。僕の部屋に来て欲しい』

 

 

 

「…………?」

 

 

今アキラは自分の部屋にいるはずだ。何故わざわざ口頭ではなくDMで言うのだろうか。

 

不審に思いながらタクミは部屋を出て、すぐ近くのアキラの部屋へと向かう。

 

 

「来たね、タクミ」

 

 

ドアを開ければ、アキラが部屋のソファに座って待っていた。

 

 

「……兄ちゃん、なんでわざわざDMで呼び出したんだ?」

 

「それを話す前に、少し聞きたいことがある。今日、ここに誰か来る予定はあるかい?」

 

「え?……いや、特には」

 

「よし、それならいい」

 

「……どうしたんだ? 何か大事な話でもあんのか?」

 

「ああ。僕達にとって、凄く重要な話だ」

 

 

アキラは深刻な面持ちでそう伝える。心なしか、アキラは何かを警戒しているようだった。

 

 

「……そこまで大事な話なら、姉ちゃんも呼んだ方がいいじゃねーか?」

 

「いや……その必要はない。むしろ、今からする話はリンには内緒にして欲しい」

 

「……??」

 

 

リンは現在出かけている。恐らく夕方までは帰ってこないだろう。

 

 

「よし、それじゃあ本題に入るよ。僕が君を呼び出した理由はただ一つ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と一緒に、ホラー嫌いを克服しよう」

 

「…………」

 

 

極めて真剣な顔つきで、アキラはそう言ってのけた。

 

 

「僕も君も、ホラーは大の苦手。僕は日頃からリンにそれをからかわれている……君だってそうだろう?」

 

「まあ……そりゃあそうだけどさ」

 

 

タクミもリンや猫又達にからわかれたりするし、アンビーに至っては『何も悪気などない』と言った顔でホラー映画を持ち込んでくる。

 

 

「そこで僕は思ったんだ。このままその現状に甘えてもいいのかとね。名だたる『パエトーン』が実は怖がりでしたなんてお笑いもいい所だ」

 

「……うーん」

 

「それにほら、このままだと兄としての沽券に関わる」

 

 

それはもう手遅れではないだろうか。

 

 

「……まあ、言いたい事は分かったよ。確かに、このままホラー映画やホラゲーにビビり散らかしてちゃアレだもんな」

 

「さすがは僕の弟だ……分かってくれて嬉しいよ。ただ、これは極秘の特訓だ。さっきも言った通り、リンを始め知り合いの人たちに知られるような事はあってはならないからね」

 

「……あれ、でも良いのか? この会話、多分Fairy聞いてるだろ。チクられるんじゃねーのか」

 

「問題ない。Fairyとは既に取引してある」

 

 

どうやらFairyの今月の使用可能電力の上限を引き上げる事と引き替えに、今回の事は黙ってもらうつもりらしい。

 

抜かりないのは良いがやってる事は賄賂である。

 

 

 

「リンが帰ってこない内に、早速特訓を始めよう」

 

「特訓って具体的に何するんだ?」

 

「ひとまずはうちにあるいくつかのホラー映画を観よう。それで耐性をつけるんだ」

 

 

アキラはテーブルの上に、ホラー映画のパッケージを置く。

 

 

「なるほど……まずは何を観るんだ?」

 

「まず僕達が観るのは──『サイコホラー:明け方の怪異』だ」

 

「えっ!?」

 

 

サイコホラー:明け方の怪異。

 

『新エリー都最恐ホラー映画ランキング』で殿堂入りを果たしているこの映画。

 

新エリー都市民が『一番怖い映画は何?』と聞かれれば、大半はこの映画をあげるだろう。

 

 

「ちょ……ちょっと待て、いきなりそれから始めんのか!? ハードル高くねーか……?」

 

「大丈夫。敢えていきなりこの映画を選んだのには理由がある。これを一回観てしまえば、その後観る映画は不思議と怖くなくなるはずと思ったんだ」

 

「……なる、ほど」

 

 

そう言われて見れば理にかなっている気がしなくもない。

 

ならば勇気を出して観る他ないだろう。他でもない、ホラー克服のためだ。

 

ビデオテープをいれ、再生を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぎゃぁぁああああああああああ!!』

 

 

「ッ!!!」

 

「…………っ! っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『グワアアアア!!』

 

『っ!? きゃあああああああ!!』

 

 

「!!!!」

 

「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何回も観た(観せられた)はずのこの映画だが、内容は覚えていない。

 

懲りずに何回もアップで飛び出してくる殺人鬼の顔と、演者の悲鳴にビビってばかりでそれどころではなかったからだ。

 

それほどまでに、タクミはこの映画が苦手だった。

 

 

 

「いつまで経っても慣れねーよこの映画……なあ、これホントに克服できてんのか? 俺も兄ちゃんも終始ビビりっぱなしだったぞ」

 

「だ、大丈夫……問題は無い……この映画を怖いと思うのは至極普通の事だからね。ただ、この映画のおかげで次見る映画はそこまで怖く感じる事はないはずだ」

 

 

 

 

サイコホラーのビデオテープを抜き出し、次のホラー映画を観る準備を進めるタクミ。

 

 

「タクミ、ちょっと待ってくれるかい? もうすぐお客さんが来るから」

 

「え? 誰も呼ばないんじゃなかったのか?」

 

「僕が呼ぶ『お客さん』は、この特訓に付き合ってくれる協力者なんだ。もうすぐ来るはずだよ」

 

「協力者?」

 

 

誰の事かと聞く前に、部屋のドアがノックされる。

 

 

『もしもし……店長、いるか?』

 

「大丈夫だ、入ってもいいよ」

 

『ありがとう。お邪魔する』

 

 

そう言って部屋へと入ってきたのは──

 

 

「…………セス?」

 

「うん? タクミもいたんだな」

 

 

アキラが呼んだお客さん、及び協力者とはセスの事だったのだ。

 

 

「この間会った時に、セスもホラーものが苦手だと知ってね。折角の機会だから一緒にと思ったのさ」

 

「……念の為言っておくと、あくまで『苦手寄り』ってだけだからな!」

 

 

ホラー嫌いは皆そう言う。タクミも一時期保身の為にそういう見栄を張っていた時期がある。

 

無意味だったが。

 

 

「それじゃあセスも来たことだし、『ポッター・ヒル』を観よう」

 

「…………」

 

「……セス? どうかしたかい?」

 

「……なあ店長──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホラーを克服するなら、()()で観た方がより効果的な気がすると思うんだ」

 

「「…………」」

 

 

ごもっともだ。確かに一人で観た方が、特訓としてはかなり効果があるだろう。

 

しかし、考えてもみて欲しい。アキラとタクミに、そんな事できるはずもない。

 

 

 

「…………セス」

 

「?」

 

「実はこの特訓は、君の為でもあるんだ」

 

「え? オレの?」

 

「ああ。ホラー映画を観ていけば、ホラー映画名物のジャンプスケアに対しても耐性が付くだろう? これは治安官として犯罪者集団と交戦する時にも役に立つ。突然の奇襲とかね」

 

 

アキラは続ける。

 

 

「そしてわざわざ複数で観る理由なんだけど……これは、チームワークを向上させるためなんだ」

 

「チームワーク?」

 

「『ホラー映画』という対象に対し、僕達は『恐怖』という同じ感情を共有できる。つまり、結束力を高められる……という事なんだ。だから一緒にホラー映画を観る事は、君の治安官としての能力を更に向上させることに繋がる」

 

 

なんというめちゃくちゃな理由だろう。聞いていたタクミは思わず眉をしかめる。

 

 

「…………店長、それは」

 

 

いくら人の話を信じやすいセスでも、彼の話を信じるほど純粋では──

 

 

 

「──盲点だった! なるほど、そう言う見方もあるんだな、さすがは店長だ!」

 

 

セスにはどうかこの先、この純粋さが裏目に出てしまわない事を祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして『ポッター・ヒル』を観終わった三人。

 

 

「「…………終わったぁ……」」

 

「……二人とも、いくらなんでも怖がり過ぎじゃないか……?」

 

「はは……」

 

 

サイコホラーよりはマシだったが、ポッター・ヒルもまた別ベクトルの恐怖を見せてくる。

 

この映画も何度も観ているはずなのだが……どういう訳か、毎回怖く感じた。

 

そして次の映画を観ようと思ったが……さすがに三本連続はスタミナが持たないので、休憩を挟む事にする。

 

 

「……そういえば二人とも、知ってるか? 六分街の住人から、この間妙な通報があったんらしいんだ」

 

「通報?」

 

「ああ。なんでも、路地裏からいきなり大声が聞こえたって。しかもその声は、日によって種類が違うらしい。男性の声だったり、女性の声だったり」

 

「…………セス、いまは休憩中だから怪談は──」

 

「怪談じゃないぞ、実際にあった通報だ。とは言え、実際に行ったら特にそういう声は聞こえなかったらしいんだけど」

 

「大声か……どんな感じかな。例えば──」

 

 

バア!!──とか?」

 

「おわああああ!?」

 

 

いきなり聞こえた大声に対し猫のように飛び跳ねるタクミ。

 

声の主は──

 

 

「り、リン!? 夕方まで帰ってこないはずじゃ──」

 

「忘れ物があったから取りに帰ってきただけだよ? それよりも三人集まって何を──」

 

 

そう言いかけたリンは、テーブルの上にあるホラー映画のパッケージが目に入る。

 

 

「……ほほ〜、何やら面白い事をやってるみたいですなぁ〜?」

 

「こ……これは……」

 

 

その後、事情を聞いたリンに笑われた事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ兄ちゃん、結局俺らはどんくらいホラーを克服できたんだろうな」

 

「分からない。けど道半ばすら行ってないことだけは確かだ……」

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