「プロキシ! いる!?」
「ニコ?」
今日も今日とて客足ゼロのビデオ屋の店番に勤しんでいると、ニコが突然ドアを開けて入ってきた。
「ニコ、他のお客さんもいるかもしれないのにプロキシ呼びはやめてって言ったじゃん……それで、今度は何の依頼?」
「あー……今日は依頼じゃないわ。けどちょっとタクミの事、借りてっても良いかしら?」
「え? 俺?」
「タクミに用があるなんて珍しいな。何の用事なんだい?」
「別に、大した事じゃないわ。それじゃタクミ、ちょっと一緒に来て!」
ニコはそう言うと、さっさとドアを開け外へと出てしまった。
「……?」
訳も分からず、タクミはニコの後を追うべく外へと出た。
「よーし来たわね!」
「ニコ、俺に用事ってなんだ?」
「んーその前に……」
ニコは辺りを見回し、誰も尾行していないかを確認する。
「……よし、誰もいないわね。それじゃあ単刀直入に話すわ──アンタには今回、邪兎屋が受けた依頼を手伝って欲しいの」
「? 手伝う?」
「まあ、手伝うって言うか……依頼自体はあたし一人でもなんとかなるの。タクミはあたしに同行するだけでいいから」
「……それをする意味は……?」
「…………えっと、それは」
ニコは話しづらそうな様子だったが、『誰にも言わない』事を約束に、依頼の内容について話し始めた。
「依頼人曰く、家の近くで突然大声が聞こえる事があるらしいの。その声は日によって男の声だったり女の声だったり……」
依頼人は誰かのイタズラだろうと、最初は近所迷惑だと注意しに行ったらしいが……そこにはなんと誰もいなかった。
こっそり現場を見張った事もあるらしいが、人の姿は全く見当たらなかったらしい。
(…………ん? なんか聞いた事あるな)
前にセスに聞いた話の内容と一致している気がする。
「……ニコ。依頼人は六分街に住んでんのか?」
「? 違うわよ。それがどうかしたの?」
「前に知り合いから同じような内容で通報があったって話を聞いてな。その通報した人は六分街に住んでるらしいんだ」
「つまり、大声が聞こえた場所は一つだけじゃ無いって事かしら……調べてみない事には分からないわね。とりあえず行ってみましょ!」
そして大声が聞こえたという場所へ向かう二人。
「……なあニコ。俺に着いてきて欲しい理由ってなんだ?」
「実は……さっき話した内容、インターノットのスレにも同じ事が何個か書いてあったの」
場所は分からないが、謎の大声が聞こえたという情報が多数挙がっていた。
──インターノットの怪談スレに。
それを聞いたタクミは完全に理解した。ニコがホラーに対し耐性があまりない事は分かっている。
だから着いてきて欲しかったのだろう。しかし。
「理由は分かったけどさ……俺も
「そ、それは……! 『怖いから着いてきて欲しい』なんて邪兎屋のボスとして形なしも良いとこじゃない! それに、アキラとかリンに頼むのは……色々、気が引けるって言うか」
「…………」
普段貯めてるツケの事に関してだろう。それでタクミを頼るのも変な話であるが。
「お願いよ! 今回に限っては頼れるのはアンタしかいないの!」
「わ……分かったよ。俺も話聞いて色々気になってたしな。着いてけばいいんだろ?」
「助かるわ〜! やっぱ持つべきは──」
『ウワアッ!!』
「「!!」」
突然聞こえた"男性"の叫び声に、動きがピシリと固まる。
「たっ……タクミ、今の聞こえた……?」
「き、聞こえた……あっちの路地裏から声がしたぞ……」
「……っ」
路地裏に行けば、恐らくだが大声を出した犯人が分かるはずだ。
しかし、ニコは行くのに躊躇いの表情を見せる。
当然だろう。路地裏に入って出くわすのが『人間』とは限らないのだから。
「ニコ……どうすんだ……?」
「…………行くわ!! 邪兎屋の辞書に依頼未達成なんて言葉はないのよ!」
ニコは自身の両頬を叩き、気合いを入れ直す。
「路地裏に入って犯人をとっ捕まえれば、依頼人から報酬が貰える──つまり、路地裏にはディニーが眠ってるも同然って事よ! そう考えれば怖くないわ!」
如何にもニコらしい考え方を引っさげながら、彼女 は意を決して路地裏へと突入した。
しかし。
「…………いない?」
「……どういう事だ?」
声がした路地裏へ行ってみれば、そこには何も無く、人がいた痕跡すらなかった。
加えてこの路地裏はニコ達がいる入口以外、人が通れる隙間はない。仮に人がいたとして、逃げ道などないはずだ。
「ま、まさか……本当に幽れ」
「ちょっと待って! そ……それ以上言わないでちょうだい! 第一、場所が違うだけで──」
『キャアッ!!』
「「!!!!」」
すぐ近くの場所から、再び大きな声が聞こえた。
しかし、聞こえたのは"女性"の声だった。
「…………っ! こうなりゃもうヤケよ! タクミ、今すぐ急行するわよ!」
「ちょ……待てってニコ!」
再び逃げられない内に、急いで大声が聞こえた場所へと向かうニコとタクミ。
気がつけば二人は、六分街から遠い街まで来ていた。
そして──
「さあ観念しなさい!! アンタのイタズラもここまでよ!」
『大声が聞こえた』現場まで辿り着き、姿が不明の犯人にそう告げた。
そこで二人は目にした。
「え……?」
『ウワアッ!!』
「…………これは」
『キャアッ!!』
街をざわつかせていた犯人は、人間でも、ましてや怪奇現象でもなかった。
綺麗に整えられた緑色の羽毛。黒いくちばし。
『大声』の主は──小さなインコだった。
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あの後、インコを捕まえたニコは、そのインコが大して汚れていなかったことから、恐らく脱走した飼い鳥なのだと推測。
飼い主を探すべく、掲示板などで情報を記載し……大して時間もかからずに飼い主は見つかった。
インコを飼っていたのは六分街からそう遠くない街で二人で暮らしているとある夫妻。
その夫妻はインコが逃げる前、どちらがよりビビらせることができるか、家の中でお互い脅かしあって遊んでいたらしい。
つまり──
「──インコはその夫婦の驚いた声を真似してたって事だったんだな……」
「そーゆー事ね」
大声が聞こえた場所が謎にバラバラだったのも、インコが飛んで場所を変えていたからだった。
「それにしてもほんとラッキーだったわ! 依頼人からの報酬金に加えて、飼い主の人からも謝礼金が貰えちゃったんだから!」
「やけに上機嫌だと思ったらそういう事か……」
今現在、ニコとタクミはルミナスクエアのラーメン屋にいる。なんと今回はニコの奢りだ。
『ラーメン食べに行かない? 奢るわよ!』とDMが送られてきた時はアカウント乗っ取りを疑った。
「まさかニコに奢られる日が来るなんてな……ありがとな」
「礼なんていいわよ。依頼を達成したのはあたしだけど、アンタに同行して欲しいって言ったのもあたしだし……奢るぐらいはしないといくらなんでも申し訳ないでしょ?」
そう言うニコの顔を、タクミは驚いたような顔で見つめる。
「……何よその顔。人の折角の厚意を疑ってるわけ?」
「いや、そういうわけじゃねえんだけどさ……いつもの行動鑑みるとやっぱらしくねぇなって思って」
「ふーん……? そんな事言っちゃうなら、もうこのチャーシューはいらないわね?」
「何言ってんだいるに決まってんだろ──あっ! ちょ、返せよチャーシュー! 悪かったよもう言わないって!」