ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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送る心

 

 

 

 

 

「あらタクミ様、このような場所でお会いするなんて。ご機嫌麗しゅうございます」

 

「…………はは」

 

 

ルミナスクエアのスーパーで買い物中、タクミは同じく買い物中であったリナとバッタリ会った。

 

…………食品コーナーで。

 

 

「……ホントに奇遇だな、リナさん。今日は何の料理を作るんだ?」

 

「本日は皆様にお送りするチョコの材料の買い出しですわ。来月はバレンタインデーですので」

 

「ああ〜…………」

 

 

言われて思い出した。あと数週間もしたらバレンタインデーがやってくる。

 

『皆様』という事はタクミも入っているのだろう。違うと信じたいが、恐らくそうだ。

 

 

「……でも、バレンタインデーって来月だろ? 買い出しにはちょっと早くないか?」

 

「バレンタインデー一週間前を切ってからだと、材料が売り切れてしまいますもの。買いに行く時期は早いに超したことはございませんわ。それに──」

 

「それに?」

 

「今年のバレンタインデーにお作りするチョコは、例年とは()()違うものにしたいのです」

 

「…………」

 

 

一味違う。それだとまるでいつもは一味違くないみたいな言い方になる。

 

 

「私……今年はチョコを使った新スイーツを開発しようと思っているのですわ。まだ誰も食べたことの無いような新しい味、新しい食感を目指しておりますの」

 

 

リナが作る全ての料理に言える事だろう。

 

実はタクミはあの時以降も、何度かリナの料理を食べた事がある。そのどれもがこの世のものとは思えない味をしていた。

 

彼女の料理はいつも新鮮な感覚を味わわせてくれる。もちろん悪い意味で。

 

 

「ですが、まだそのスイーツは開発途上でございまして……どなたかに試食を頼もうと思っておりました」

 

「なるほど」

 

「ですがエレンは期末テストの勉強で忙しく、ライカンさんもカリンちゃんも『急用を思い出した』と言って……そのままどこかへ出かけてしまいましたの」

 

「なるほど」

 

「あ……そうですわ! タクミ様、今回の新スイーツの開発……お付き合いして頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「なるほ──えっ?

 

 

今、リナが恐ろしい事を口走ったような気がする。『試食して欲しい』と、そう言ったのだろうか。

 

 

「お、俺に……? いやその……なんつーか、俺じゃ力になれないと思うんだけど」

 

「ご自身を卑下なさらないでくださいまし。ヴィクトリア家政のメンバーを除いて、私の料理をお召し上がり頂いているのは、貴方様を置いて他にいらっしゃりませんもの」

 

「そうなの?」

 

 

確かにアキラもリンも、なんだかんだ理由をつけて断っている気がする。

 

傍から見れば、タクミがおかしいのだろう。リナから料理を振る舞われる度、苦い顔をしつつも全て平らげてしまうのだから。

 

おかげでエレンほどでは無いが料理に対し耐性が付いてきている。

 

だが決してリナの料理を『美味しい』と思ったことはない。それなのに何故、タクミは断る選択肢を取らないのか。

 

 

 

「──駄目…………でしょうか?」

 

「ぐ……」

 

 

原因は、この頼み込むような目である。この目で見られたら、断りにくくなってしまう。

 

リナ相手に限らずだが、タクミは割と押しに弱い。

 

苦手なホラー映画を観ようと言われた時も、最初は普通に断るが『どうしても一緒に観たい』と言われ、結局毎回断れずに観てしまうのだ。

 

 

「わ……分かった。そこまで言うなら……付き合うよ」

 

「まあ! よろしいのですか? 感謝いたしますわ♪」

 

 

案ずることは無い。今までもなんとかなってきたので、今回もなんとかなるはずだ。

 

それに、今回はリナの料理の工程も見られる。もしかしたらメシマズの原因が分かるかもしれない。

 

 

「それではタクミ様、買い物が終わりましたら私と一緒にセーフハウスまでご足労頂いてもよろしいですか?」

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてヴィクトリア家政のセーフハウス内。

 

 

「そういや聞いてなかったけど、具体的にはどういうのを作るんだ?」

 

「今回作るのは勿論チョコがメインのスイーツですが……隠し味に『縺ォ縺偵※』を入れようと」

 

「なるほど、隠し味に──」

 

 

 

 

 

 

 

────ん???

 

 

 

 

 

「ごめんリナさん、隠し味に何を入れるって?」

 

「『縺ォ縺偵※』ですわ」

 

「何それどうやって発音を──いやそれよりも、その……"それ"は一体……?」

 

「これですわ」

 

 

リナは袋から『縺ォ縺偵※』とやらを取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよコレ!?!?」

 

 

お出しされた名状しがたい"それ"は、ヒトには到底理解の及ばない代物だった。

 

食品はおろか、生き物とも言い難い物。いや、そもそもこれは『物』のカテゴリーに当てはまるのだろうか。

 

なんというか、とにかく一刻も早く視界から消し去りたい。

 

 

「いやホントなんだこれ! リナさんどこでこれ手に入れたんだよ!?」

 

「あら、これは……………………ふふ♪」

 

「ふふ♪ じゃねーよ! どう見ても料理に入れちゃダメなやつだろ!」

 

「タクミ様。料理において大事な事……それは、固定観念に囚われない事ですわ。AとBを一緒に入れたら美味しくなくなる『かもしれない』──料理の道でそのような保身に走った考え方をしていては、大成などいたしません」

 

「それ少なくともAとBが()()()()食品だった時の話だからな?」

 

 

見てるだけで気分の悪くなりそうな"それ"から目を逸らしながら、タクミは必死に訴えかける。

 

こんなものを料理に入れられては本当に身が持たない。

 

 

「リナさん……考え直そう! これ入れるくらいなら魚入れた方がまだマシだ!」

 

「あら……そういえばお魚の事を忘れていましたわ。タクミ様のおかげで思い出しました」

 

(魚も入れるつもりだったのかよ!!)

 

「今からでも間に合いますわね……タクミ様、私と一緒にポート・エルピスまで向かいましょう」

 

(しかも釣りに行くのかよ!!)

 

「それではお車のご準備をさせて頂きますわ。少々お待ちを」

 

「あ、ちょ──待てリナさん! 別に魚は入れなくても……!」

 

 

タクミが呼び止める声も届かず、リナは外へ出てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてポート・エルピスの桟橋。

 

リナは釣り竿を用意し、その釣り糸を水面に垂らす。

 

 

「…………リナさん」

 

「どうかいたしましたか?」

 

「なんで鍋も一緒に持ってきてるんだ。しかもなんかもう材料入ってるし、煮込んであるし」

 

「ポート・エルピスに吹く潮風にあてることで、完成品に程よい塩気を与えてくれるのですわ」

 

 

一瞬でも納得してしまった自分が恥ずかしい。そもそもこれは何のスイーツなのか、聞くのも怖い。

 

 

「…………」

 

「〜♪」

 

 

今日のポート・エルピスは珍しく人がいない。吹き抜ける潮風と共に、リナの上機嫌な鼻唄だけが聴こえる。

 

 

「…………タクミ様」

 

「?」

 

「実は先程お話しした事の他に、料理において最も大切な事がありますの」

 

「大切な事?」

 

「ええ。それは……心を込める、という事ですわ。誰かに料理を振る舞う時……私は一回たりともそれを忘れた事はございません」

 

「…………!」

 

「心を込めるのと込めないのでは、同じ料理でもその美味しさには月とスッポン程の差があると……そう考えております」

 

「…………」

 

 

タクミはなんとなく、なんだかんだリナの料理を食べられていた訳を理解できた……気がする。

 

彼女の理論が理論的かと言われたら、難色を示してしまうかもしれない。

 

 

しかし『心』がもたらすものと言うのは、想像以上に五感に大きな影響を与えてくる。

 

味覚とて例外ではない。リナはタクミの為に、真心込めて料理を作っていた。それはしっかりタクミにも伝わっていたのだ。

 

 

「戻り次第、調理に取り掛かりますわ。一足早いバレンタインですが、完成した際には貴方様に一番に味わって頂きたく。いつものように、私からの『心』を受け取って頂きたいのですわ」

 

「…………分かった。楽しみにしてる」

 

 

タクミの答えに、リナは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

(…………心か)

 

 

思えばリナの作る料理はどれも、お世辞にも美味しいとは思えない出来だったが、『雑な出来』だと思った事は一度もなかった。

 

それもきっと、リナがより一層心を込めて作った証拠なのだろう──

 

 

 

「このお魚は……そのままお鍋に入れてしまいましょうか」

 

ダポン!!

 

 

 

──きっとそのはずだ。そうだと信じたい。




時期外れにも程があるバレンタインネタでした!
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