雲一つ無い快晴。
そんな日の中、タクミはとある店の行列に並んでいた。
「…………」
スマホを見て暇を潰しながら、自分の番が来るのを今か今かと待っている。
店の張り紙には、目的の品の写真が載っている。
そして。
「お買い上げありがとうございました!」
三十分ほど並んだ後、ようやく目的の品を購入したタクミ。
彼はすぐさまスマホを取り出し、とある人物に電話をかけた。
「──もしもし、ビリー?」
『タクミか、どうしたんだ……?』
「例の品、手に入れたぞ」
『……っ!! マジでか!?』
『"スターライトファイターズ"、ついに手に入れたんだな!?』
「うるっさ」
思わずスマホを耳から遠ざける。そんなタクミの右手には──新発売のゲーム、『スターライトファイターズ』のパッケージが握られていた。
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「うおおおお……!!」
Random Play裏口の駐車場にて。
ビリーはゲームソフトのパッケージを見て目をキラキラと輝かせていた。
彼がここまで興奮している訳……それは、これが『スタナイ』のゲームであるからに他ならない。
特撮ヒーロー番組『スターライトナイト』のキャラ達が登場する格闘ゲーム、『スターライトファイターズ』。
このゲームが発表された日から今日までの間、ビリーはこの時を心の底から待ちわびていた。
「マジでサンキューな、タクミ!! こっちが行った店じゃめちゃくちゃ行列が出来てたからよ、もしかしたら買えないんじゃねーかって思ってたとこだったんだ!」
「どうって事ねーよ、別に」
このゲームをどうしても手に入れたかったビリーはタクミに頼み込み、手分けして別の店舗で並ぶ作戦を立てた。
タクミが並んだ店はそこまで長い行列では無かったため、売り切れる前に手に入れる事が出来たのだ。
「よーし、こうしちゃいられねぇ! 早速タクミの部屋で一緒にやろうぜ!」
「ンナッ!!」
「ははっ! なんだよ、もしかしてお前も楽しみだったのか? ボンプの物真似までしてよ」
「は? してねーぞ」
「え?」
「え?」
「「…………え?」」
二人して腑抜けた声が出る。
ビリーは手元を見る。『スターライトファイターズ』のパッケージは、影も形もなかった。
「!!」
グルン!と振り返るビリー。そこには『スターライトファイターズ』のパッケージを片手に全力で走り去るボンプの姿があった。
あっという間に見えなくなっていく。
「あ、あいつ──」
「追うぞっ、タクミ!!」
「お、おう!」
タクミはオートバジンのエンジンをかけ、後ろにビリーを乗せて走り出した。
「待ちやがれぇーーっ!!」
「ンナッ、ンナッ、ンナッ、ンナッ……!!」
オートバジンでボンプを追う二人。ボンプは短い手足を動かし必死に逃げるが……当然バイクがそれに追いつけないはずもなく、徐々に距離は縮まっていく。
やがて、手を伸ばせば届くほどの距離まで追いついた。
「ビリー!」
「おう、任せろっ……!!」
ビリーは座席に乗りながら手を伸ばし、逃げるボンプを捕まえようとする。
「んぐぐぐぐぐぅ…………!!」
力いっぱい手を伸ばすビリー。そしてその手が逃げるボンプに触れようとした、その時──
「ンナァ!!」
「なにっ!?」
「……!!」
なんと突然ボンプが加速しだした。そのままボンプはオートバジンを振り切り、建物の隙間へと逃げ込んでしまった。
「なんだよ、あの加速……ゴールドボンプでもあんな速さ見た事ねぇぞ……!?」
「隙間に逃げられちゃバイクで追う事も出来ないな……こっからは走って追いかけるか」
タクミとビリーはバイクから降り、ボンプが逃げ込んだ建物の隙間へと向かった。
「いたぞ! あそこだ!」
なんとかして建物の隙間を抜けていき、引き続きボンプを追っていく。
見失う事だけはないよう、しっかりその目で逃げるボンプを捉えていると──
「…………ん?」
逃走中のボンプは突然方向を変え、住宅街に並ぶ家の中へと入っていった。
「……これは」
「なるほど、読めたぜ……どうやらボンプを指示してた真犯人ってやつがあん中にいるみてぇだな」
ボンプが入っていった家へと向かい、玄関の前に立つ二人。ここからどうするかと悩んでいると、中から話し声がするのが聞こえた。
『どこ行ってたの、ケイちゃん……あれ? どうしたの、ソレ?』
『ンナ、ンナナ!(君が欲しいって言ってたスタナイのゲーム、取ってきたんだ!)』
『取ってきた? …………ケイちゃん、今取ってきたって言った!?』
中から聞こえるのは、先程逃避行を繰り広げていたケイちゃんと呼ばれるボンプと、その持ち主であろう少年の声。
『ダメだよ、ケイちゃん!! これは取ってきちゃダメなやつなんだよ!? 今すぐ返しに行かないと……!!』
少年はそう言った後、急いで玄関のドアを開けた。
そしてそのまま、少年は玄関前に立っていたビリーとタクミと鉢合わせた。
「…………」
「…………」
「……あの、もしかして……このゲームの持ち主の方ですか……?」
「ああ、そうだな……さっきそこのボンプに取られたんだ」
「……」
「本当に申し訳ございませんでした……」
「ちょ、ちょっと待て! ひとまず顔を上げてくれ!!」
この後、シュンと名乗った少年とボンプのケイちゃんから事情を聞いた。
ひとまずシュンはケイちゃんに『盗んでこい』と指示したわけでは事は分かった。今回の件は、ひとえにケイちゃんが独断でしでかしたことらしい。
なんでもシュンは生まれつき体が弱く、外で友達と遊ぶ事はほとんどなかったらしい。
ケイちゃんはそんな少年のため、彼が欲しいと言っていた『スターライトファイターズ』のゲームをどうしても手に入れたかったのだそうだ。
「本当にごめんなさい……お詫びは必ずしますので」
「お詫びなんかいいさ。この事はアンタも知らなかったんだ、無理はねぇ。ボンプの方も、友達を思いやっての事だったもんな」
"ただし"、とビリーは付け加える。
「人のものを勝手に取るのはこれっきりにしとけよ、ボンプ君。いくらこの子の為だからって、盗むなんて事しちゃただ悲しませちまうだけだからな」
「ンナ……(ごめんなさい……)」
「それと、シュン……だったか? 一つ聞きてぇ事があるんだ。このゲームが欲しかったって事はよ……もしかして、スターライトナイトが好きなのか?」
「は、はい……外で遊べない時に、家でよくテレビで観てたので……」
「…………なるほどな」
ビリーはシュンの頭の上にポンと手を置き、持っていたゲームソフトのパッケージを手渡した。
「このゲーム、
「えっ!?」
「……! ビリー、お前……」
「さ、行こうぜタクミ。じゃあなシュン、大事にしろよ?」
「ま、待ってください──!!」
シュンが呼び止めようと声をかけるが、その声は閉められた玄関のドアに阻まれる。
すぐにドアを開けるが、ビリーは既にタクミを連れてどこかへと消えてしまっていた。
「…………」
「ンナ……」
シュンは見送る事も出来ないまま、ゲームのパッケージを大事に握りしめた。
「……なあ、良かったのか? せめてお礼かお詫びのどっちかは受け取ってもよかったんじゃ……」
「何言ってんだタクミ、スターライトナイトは見返りなんか求めねぇんだぜ? それに、あの子はスターライトナイトファンだったんだ。スタナイファンに悪いヤツはいねぇ」
そう言った後、ビリーはうーんと唸る。
「……でもゲームがやりたかったのはまあ事実だな……どうすっかなぁ、今から店に並んでも間に合うか? てかこれ、金足りねぇよな……親分に給料前借りするか……いや、あんま現実的じゃねぇな」
「…………ビリー」
「なんだ?」
「実はあのゲーム、俺も前から興味があってさ。前もって通販で予約注文しといたんだよな。届くのは明日になるけど」
「…………」
「お前が良けりゃ明日一緒に──」
「タクミーーーーー!!」
「いってえ!? おいビリーお前、そのかってぇ体で抱きついてくんじゃねぇ!」
次回からシーズン2の一章開始です!