「ぐ…………」
地面の冷たい感触と体に走る痛みを感じ、タクミは目を覚ます。
目を開けてからすぐには、自分が地面に転がっている事は理解できなかった。
「…………ここは」
辺りを見回し、ようやく自分がホロウの中にいるのだと分かった。
確か自分は衛非地区へ向かうため、リン、儀玄と共に飛行船に乗っていたはずだ。
「そうだ……っ、姉ちゃん! 師匠!」
大声で呼ぶが、返事は帰ってこない。近くにはいないようだ。
体を起き上がらせると、遠くで黒い煙が立ちのぼっているのが見える。
それを見て、タクミは思い出した。
(そうだ……飛行船からデカい音が聞こえたと思ったら、そのまま墜落したのか……よく生きてたな俺)
煙の元は恐らく墜落した飛行船だろう。Fairyが言っていた通りになってしまった。
記憶が正しければ、飛行船に異常が起こったのはちょうどラマニアンホロウの真上。
つまり、ここは『ラマニアンホロウ』ということになる。
(ベルトはどこだ……持ってきてたはずだ)
タクミはベルトを探す。まずは孤立状態である自分の事をどうにかしなければならない。
「!」
幸い、ファイズドライバーは近くに落ちていた。タクミはそれを拾い、装着する。
[5・5・5][Standing by…]
「変身!」
[Complete]
コードを入力したファイズフォンをバックルに装填し、タクミはファイズへと変身した。
改めて、周りを見渡す。
「…………」
辺りには赤色と紫色が主体の、見たことも無いような禍々しい植物が生えていた。
この植物がなんなのかは気になるが、今は二人となんとかして合流するのが先だ。
どうするべきか悩んでいると──
「ガァアアアア!!」
「!!」
突然、頭上から見たことも無いエーテリアスが降ってきた。
ファイズはそれを咄嗟に避け、反撃をしようとするが……大きく飛び跳ね、かわされてしまう。
「なんだアイツ……!」
見た事のない種類のエーテリアス。周りに生えている植物といい、ラマニアンホロウは今まで入ってきたホロウと比べ異質だった。
謎のエーテリアス──バニーレックはカエルのようにぴょんぴょんと飛び回っている。
[1・0・6][Burst Mode]
「フッ!!」
フォンブラスターで飛び跳ねるバニーレックを撃ち落とそうとするが……思ったよりも素早く、中々弾が当たらない。
「ガアッ!!」
「!」
バニーレックはお返しと言わんばかりに空中から紫色のエーテル弾を吐き出した。
それをかわすとエーテル弾は地面へとぶつかり……まるでペンキを零したかのように地面に跡が広がった。
「……? なんだコレ──」
「グォォオッ!!」
「うぉっ!!」
上空にいたバニーレックが高速で体当たりをかましてきた。避けるまもなく、ファイズは腕でなんとか防ぐ。
「ぴょんぴょん飛び回りやがって……!」
[Ready]
ファイズショットを装着した後、ファイズは上空のバニーレックの姿を見据え……大きく飛び上がった。
「はぁっ!!」
空中でバニーレック目掛けてかかと落としを決め、地面に叩き落とす。
[Exceed Charge]
「はぁぁぁぁあっ!!」
流れるようにファイズフォンのENTERキーを押してフォトンブラッドをチャージし、上空から渾身の『グランインパクト』をお見舞いした。
『Φ』マークを浮かべ、消滅するバニーレック。
(ちょっと面倒くさかったな……ラマニアンホロウにはこんなのがいんのか……)
「タクミ!」
「!」
声が聞こえた方を振り向けば、リンと儀玄がこちらへ向かってきていた。
様子を見るに、怪我はしていないようだ。
「……! タクミ、足元に気をつけろ」
「え? 足元って──うわっ!」
足元に目をやれば、先程バニーレックが放ったエーテル弾の跡に足を踏み入れてしまっていた。
「なんすか、コレ……」
「そういえば説明し忘れていたな……それは『ミアズマ』だ。特殊な侵蝕物質でな、ラマニアンホロウにはあちこちにある……気をつけておけ」
「それにしても、まさか出鼻をくじかれるとはね……墜落した先がホロウで助かったけど……」
「なんで飛行船は墜落したんだ?」
「さっき墜落した飛行船を見に行ったら、外的な損傷が見つかった。どうやら私達が乗っていた飛行船に向けて、派手にぶっぱなした奴がいるみたいだな」
「……!!」
やはり飛行船は何者かによって撃ち落とされていた。しかし、誰がそうしたのかは不明のままだ。
「連中の正体はいずれ明らかにする。まずはここを脱出する事が最優先だ。こういう時のために、ラマニアンホロウのキャロットを持ってきておいた」
「おお、さすが師匠!」
「こっちだ、ついてこい」
キャロットのデータを元に、三人は先へ進んでいく。しかし途中、道を塞ぐように先程見た植物が生え広がっていた。
「このままじゃ進めねぇな……」
「任せろ」
儀玄は札を取り出す。それをかざすと……不思議な事に、生えていた植物がみるみるうちに跡形もなく消滅した。
「凄い……! もしかして今のが術法?」
「ああ。とは言え、原理はシンプルだ」
彼女曰く、植物などの侵蝕物質はそれぞれ異なる活性の周波数があり、それを操って共振……または周波数を変えて合わせさえすればいいのだそうだ。
そうすれば侵蝕物質に相転移が起き、今のように植物を消せるというわけだ。
「えっと……原理は分かったけど、その周波数を知るのってどうすればいいの?」
「そいつは後で教えてやる。言葉で言うよりは実際にやった方がいいからな」
「なるほど……」
この後も儀玄の術法で障害物を排除し、先へ進んでいく。
そしてついに、裂け目からホロウの外へと脱出する事に成功した。
「やっと出られたんだね、私達……!」
「そうみたいだな。とは言え、この先は海か……ここから衛非地区までには、幾分か距離があるな」
「どうするんすか……?」
「…………そうだな」
儀玄は辺り一面に広がる海を見て、考え込む。
「……リン、タクミ。確認しておくが、泳ぎは得意か?」
「え゛っ」
「得意っちゃ得意っすけど……え、まさか泳いでいくんですか?」
「タクミ〜……乗せて泳いで〜」
「おい、ハナから楽しようとすんな!」
「二人とも落ち着け、あくまで最終手段だ。あれだけ派手に墜落したんだ、誰かが様子を見にここを通りがかるはずだ」
それを聞いて二人は胸を撫で下ろす。
そして儀玄の言っていた通り、貨物船が近くを通りがかったので助けを求め、無事に船に乗ることができた。
船に乗った後、儀玄と船頭が何か会話を始めた。しかし、彼女らが何を言っているのかは全く理解出来なかった。
「……タクミ、師匠達が話してる事わかる?」
「……いや、分からん」
会話が終わり、儀玄はリン達の元へ戻ってきた。
「ねぇ師匠、もしかして衛非地区って語学が必要だったり……?」
「ん? ああ、心配いらない。あれはただの方言だ」
「そっか……」
「それより、船頭に岸で降ろしてもらうよう頼んだ。そこから先はお前さん達の姉弟子に迎えを頼んである」
「姉弟子?」
「そうだ。タクミ、聞けばお前さんは前にその姉弟子と会った事があるそうじゃないか」
「!」
タクミはそれを聞いて、誰のことかが分かった。儀玄も福福から話を聞いたのだろう。
「お前さんが衛非地区に来ると聞いて、大層喜んでいた。困った時はいつでも頼るといい」
「もう衛非地区の女性の人と仲良くなってなんて……お姉ちゃん心配だよ……」
「あのな姉ちゃん、俺奢っただけだからな? 女難の相っつっても、余程の事がなけりゃトラブルなんて起きねぇから。そうでしょ師匠?」
「はは」
「なんすかその乾いた笑いは」