停泊所へと向かう貨物船。
その場所から、誰かがブンブンと手を振っているのが遠くから見える。
「……師匠、あの子が私達の姉弟子?」
「そうだ。もう到着していたとはな」
手を振っているのは虎のシリオンの少女、福福。彼女はタクミの顔が見えるとぱあっとした表情を浮かべ、さらに激しく手を振り始めた。
貨物船が停泊所へ到着するなり、福福は満面の笑みで儀玄達の所へ駆け寄ってきた。
「お師匠さま! 迎えに来ましたよ〜!」
「見れば分かるさ。リン、改めて紹介しよう。今日からお前さん達の姉弟子になる──」
「橘福福ですっ! 困った時はいつでもあたしを頼っていいですからね、お弟子ちゃん! それと──」
「!」
福福は自己紹介を終えると──バッ!とタクミの方を向き、ガッシリと彼の両手を掴んだ。
そして手を掴んだままブンブンと上下に振り始めた。
「タクミくんっ! まさかこんなにすぐにまた会えるなんて思ってもみませんでした! タクミくんも、あたしの弟弟子になるんですよねっ?」
「ふ、福福さん……ちょ、落ち着いてくださ──」
「敬語なんていいですよっ! 困ったことがあっても姉弟子のあたしがぜーんぶなんとかしてあげますからね!」
「痛い痛い!! 腕が、腕が取れる!!」
「……福福、はしゃぎすぎだ。その辺にしておけ」
「あ……ごめんなさいお師匠さま。嬉しくてつい……」
「元気な子だねぇ……」
儀玄の助け舟により握手から解放され、両腕が取れてしまうのだけは避けられた。
「私達はホロウから出てきたばかりだからな……ひとまず、道観に戻るとしよう」
「そうですね……あ、でもその前に澄輝坪を案内するくらいならいいですよね?」
「そうだな……まあいいだろう。ただし、あまり遅くなりすぎるなよ」
「はーい!」
儀玄は一足先に道観へと戻って行った。
「それじゃあお弟子ちゃん、タクミくん! あたしに着いてきてください! 衛非地区の街にしかない、色々なお店がありますからね!」
福福の案内で、衛非地区の上層区域からロープウェイで澄輝坪へと到着したリン達。
道中でも衛非地区にある彫像の話だったり、ロープウェイからの景色を楽しんだり、さらにはここ以外では聞けないような面白い話も聞いた。
「──それにしても驚きです、まさかお師匠さまが言っていたお弟子ちゃんと、タクミくんが姉弟だったなんて……」
「私もタクミと福福が前から知り合ってたなんて驚きだよ。意外と世の中って狭いのかもね?」
「ですね〜……あ、あそこのお店が見えますか? あのお店、『飲茶仙』って言うんですけど……今度一緒に行きましょう! あたしがご馳走しますっ!」
「え、いいの?」
「もちろんです! なんたってあたしはお二人の姉弟子なんですから! それに──」
福福はタクミの方を見る。そのキラキラした目を見て、タクミは察した。
彼女はこの間のお礼がしたいのだろう。特に気にしてはいなかったのだが、ここは厚意に甘えておくべきだろう。
「……そうだな。なら、今度ご馳走になるよ」
「ふふん、遠慮しないでいいですからね!」
そうして澄輝坪の様々な店を見て回っているうちに、道のほとりで何やら誰かが言い争っているのを目にした。
見えるのは汚れた作業着を着た労働者らしき男性と、スーツを着込んだ男性。
何やら『賠償金』などと、気になる単語が男たちの一触即発の言い争いの中から聞こえてきた。
「何か事故でもあったんでしょうか……」
「そういえばさっき船頭さんが言ってた気がする。確かホロウの輝磁の生産エリアで事故が起きたとかなんとかって……」
「TOPSに賠償金ってのはもしかしてその事か?」
かつてこの澄輝坪では輝磁の原材料である輝嶺石の採掘が頻繁に行われ、労働者達はそれで生計を立ててきた。
しかし、TOPSの傘下企業『ポーセルメックス』が輝嶺石の採掘業を独占した事で、労働者達はその会社の従業員にならざるを得なくなった。
労働者達の会話を聞くに、ポーセルメックスの責任者はダミアンという男らしい。
労働者達は事故に対する賠償金を払えと、ポーセルメックスの社員に言っているのだろう。
「今回の調査では、多分TOPSの関係者と関わる事は避けられないよね……大事にならないといいけど」
そして福福の案内が終わった後、三人はいよいよ雲嶽山の『適当観』の正門の前に到着した。
「おお、ここが適当観の正門……なんか如何にもって感じだね……!」
「えっと、福福先輩……入っていいんだよな?」
「もちろんですよ! それじゃあ開けますねっ!」
福福はそう言うと、閉じられた巨大な門の扉を軽々と開けた。
「じゃじゃーん! これがあたし達雲嶽山の拠点、『適当観』ですっ!」
「おお……すご……!」
「……? 福福先輩、あれは……」
「?」
タクミが指さす方を見ると、寺の屋根の上にパンダのシリオンの男性と眼鏡をかけた茶髪の男性がいた。
彼らの視線の先には……屋根にしがみつき、今にも落ちそうになっている猫が──
「にゃあっ!!」
「!!」
「危ないっ!」
掴んでいた小さな手が離れ、そのまま屋根を勢いよく滑り落ちていく猫。
「っ!!」
それを見た福福と、屋根にいた男性二人は目にも止まらぬ速さで猫が落ちる先へと移動し、猫を受け止めようと手を伸ばした。
……が、猫が彼らの所に落下する事はなかった。
「……あ、師匠!」
「やれやれ……」
いつか見た黒い小鳥が、間一髪で落下する猫をつかみ……そのまま儀玄の腕の中へと不時着した。
「良かったぁ……」
「バタバタさせてすまないな──ようこそ、適当観へ」
腕の中で、猫がにゃあと鳴いた。
「──ひとまず、この猫は私がなんとかしておく。福福、二人の紹介と適当観の案内を頼む」
「分かりましたっ!」
儀玄は猫を抱きかかえたまま、その場を後にした。
「……という訳で、紹介しますね! こちらが新しく雲嶽山に加わるリンちゃんと、タクミくんです! それと二人とも、こちらの大柄なパンダの兄弟子さんは潘引壺さん、こちらの眼鏡をかけた兄弟子さんは葉釈淵さんです!」
「なるほど……師匠が言っていた新参の方と言うのは、貴方達の事ですね」
「兄弟子の皆さん、これからよろしくね!」
「よろしくお願いしま──」
タクミがリンに続いて挨拶をしようとした時、折り悪くお腹から大きな音が鳴る。
それを聞いた潘が眉をひそめる。
「…………うん? そっちの弟弟子くん、まさか腹が減ったのか?」
「……いや、その…………すいません」
「おいおい、何も謝る事なんかないぞ! 君ぐらいの歳はな、三時間に一回は腹が減るのが普通なんだ! どれ、腹が減ってるなら、この兄弟子がとびっきり美味いのを作ってやろう!」
「いいんすか?」
「もちろんだ、弟弟子くんは何が食べたいんだ? 角煮か? 手羽先の唐揚げか? それとも、チャーシューまんなんてどうだ? おっと、お弟子ちゃんの方も、何か食べたいものはあるか? なんでもいいぞ!」
どうやら潘は雲嶽山の料理番らしい。彼が料理を作ると言ってからずっと福福が目を輝かせているあたり、相当な料理の腕前なのだろう。
「えぇ〜そうだなぁ、私は──」
「チャーシューまん! チャーシューまんオススメですよ、お弟子ちゃん! あ、あと牛肉とビーフンの炒め物とか──」
「……姉弟子さん、潘は『お二人に』料理を振る舞うと言っているんですよ」
「へっ!? ももも、もちろん分かってますよ!」
弟子入りした後でも、
福福のタクミへの呼び方はあえて変えてません
あえて