「──なるほど、そのような事が……」
晴れて雲嶽山の弟子となったリンとタクミ。リンは兄弟子達にこれまでの経緯を話した。
「どっかの誰かが飛行船を襲撃したせいで、お師さんと一緒にホロウに墜落、か……そりゃあ疲れて腹も減るはずだ」
「そんな、事故じゃなかったなんて……一体誰の仕業なんでしょう……?」
「分かんないけど……もしかしたら、今回雲嶽山の皆と行う調査を妨害するつもりだったのかも」
「大いに有り得ますね。貴方がかの有名なプロキシ、パエトーンであるなら尚更でしょう」
しかし、当然ながら今回調査を行う旨は外部に漏れていなかったはずだ。
釈淵曰く、リン達がここへ来る少し前に占いで悪い兆しを見たらしく、安全のため儀玄が自ら護衛を買って出たのだそうだ。
「……そうだったのか。確かに、俺と姉ちゃんだけじゃ危なかったかもな」
「二人に大事がなかったのは何よりだが……情報が外部に漏れてたって事は、俺たち雲嶽山が適当観に戻ってきた事もバレてるって事だよなぁ……」
「え? 皆、今までここで寝泊まりしてた訳じゃないの?」
「実は雲嶽山の総本山はここじゃないんです。昔からある拠点のひとつってだけで……昔は結構賑わってたんですけど、旧都陥落以降はすっかり誰も来なくなっちゃって……」
今回戻ってくることになったのは、雲嶽山がラマニアンホロウの調査を依頼されたから。ただ、適当観へ帰ってきた事は衛非地区の皆には知らせてはいない。
「タクミくん達が来るって聞いてから、お掃除したりしてお泊まりする為の準備をしてたんですけど……そうするにはちょっと質素過ぎるかもです」
「ううん、全然大丈夫だよ! 私って枕さえあればどこでも寝れるからね! タクミなんか外で立ったまま寝れるんだよ?」
「立ったままは寝れねーよデタラメ言うな」
「まあ……何はともあれ、今後に備え休息は十分に取っておくべきですね」
「そうだな。よし、そんじゃあ俺は何か作ってくるから、お弟子ちゃん達は休んでてくれ!」
というわけで福福の案内の元、タクミは適当観の寺の中で待つ事にした。
ちなみにリンはお腹がすいていないとの事で、適当観周りを散歩している。
「いつもこの部屋でご飯を食べるんです! 潘さんが来るまで、ここで待ってましょう!」
「ありがとう」
部屋の中は大きい机以外何も無く、まだ荷物の準備中だと言うことが分かる。
このような質素な部屋でも、タクミからしたら不思議と居心地が良かった。
「一応掃除はしてるから大丈夫だと思いますけど……ホコリっぽかったら言ってくださいね?」
「大丈夫だ福福先輩。それよりもちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なんですか? なんでも聞いてくださいっ!」
「その……なんでここは『適当観』って呼ばれてるんだ?」
「あーそれは……確かに気になりますよねぇ……では、この福福がお答えしますっ! えっと、お師匠さまによれば──」
その昔、雲嶽山の先人が衛非地区に建てる拠点の立地を決めるにあたり、一週間ほどの時間をかけて風水を調べていた。
風水を調べている事が地主にバレたくなかったその先人は『適当に観ているだけだ』と嘘をついたのだそうだ。
それに地主は大笑いし、あげく拠点を建てることになった時も大工達にからかわれ、この道観は『適当観』と呼ばれるようになったらしい。
「──これが、ここが『適当観』と呼ばれるようになった所以です」
「……なんか、結構深いストーリーがあんのかと思ったけど、四コマ漫画みたいなスピード感だったな」
「それはあたしも思いました……まあ、でも『適当』観らしい理由ですよね」
そんなことを話していると、部屋に潘がお盆を持って入ってきた。
「お待ちどおさん! 潘特製チャーシューまんだ! どうだ、美味そうだろう?」
「おお…………!」
湯気が立ち上る出来たてホカホカのチャーシューまん。思わずゴクリと唾を飲む。
「わあ〜……! ありがとうございます、潘さん! それじゃあ食べましょうか、タクミくん!」
「ん? おいおい福姐、これは弟弟子くんのために作ったチャーシューまんだぞ? そんなに腹が減ってるなら、備蓄の乾パンでも食べたらどうだ?」
「う……や、やっぱりそうですよね……」
「あー……その、大丈夫だぞ福福先輩。この多さなら一緒に食っても十分足りる。それに、乾パンは小腹がすいた時の為の携帯食にしといた方がいいし」
タクミの言葉に、潘と福福は目を丸くする。
「え? まあチャーシューまんに関しちゃあ、アンタがいいならいいんだが……それより、乾パンも食べるつもりなのか?」
「タクミくん、乾パンは別に無理はしないでいいんですよ? その、こう言うのもなんですけど、アレってあんまり美味しくないんですよねぇ……」
「大丈夫。美味しくない
「? どういう事ですか?」
「まあそれは、色々あって……とにかく大丈夫」
タクミの胃袋と舌は……エレンや蒼角ほどでは無いが、普通の人よりわりかし頑丈に出来ている。
「それより、わざわざ作ってくれてありがとう潘さん。有難くいただきます」
「おう、いいってことよ! 弟弟子の腹を満たすのは兄弟子の使命ってやつだからな!」
「それじゃあ食べましょうっ! いただきま〜す!」
チャーシューまんを頬張るタクミ。さすが雲嶽山の台所を任されているだけあって、かなりの絶品だった。
腹も膨れ、元気を取り戻したところで外へと出る。外にはリンと儀玄がいた。
「お、丁度いいところに来たな、タクミ。腹は膨れたか?」
「おかげさまで」
「ならいい。どれ、せっかくの機会だしお前さんにも紹介しておこう……ここ適当観の、大黒柱をな」
「大黒柱?」
「ああ。この子こそ、適当観の陰の主だ……名を『朔』と言う」
そう言って儀玄が紹介したのは……大人しく座っている黒い犬。
「……大黒柱?」
「そうだ」
「……この子が?」
「そうだ」
「…………なるほど」
(あ、考えるのやめちゃったなコレ)
リンはなぜか納得したタクミを見てそう思った。
旧都陥落後に住み着いた適当観の陰の主──朔はエーテルに敏感で、なんでも運命を察知する力があるのだそうだ。
「私達が適当観を離れていた間、この子はここでずっと訪れる参拝客を占ってきたんだ」
「そうだったのか……って、この子占いも出来るんすか?」
「もちろんだ。どうだ、お前さんも占ってみるか?」
「…………よし」
タクミは朔の元に置かれている龍亀の占い箱を手に取り、ガラガラと振って蓋を開けた。
中にある三つの賽に描かれていたのは──
「……師匠、雷マークが三つ揃いました」
「なるほど、『平』だな」
「それって良いやつですか?」
「『平』は普通って意味だ。吉でも凶でもない。安心しろ、悪くはない」
「……」
普段の運がお世辞にも良いとは言えないタクミにとって、『普通』はかなりいい結果と言えるだろう。
「ここに来て運が向いてきたかもな……ありがとう、朔」
「ワンッ!」
「そんじゃ姉ちゃん、俺ハツの所行ってくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
タクミは上機嫌のまま、適当観の外で出張ビデオ屋の準備をしている20号(ハツ)の元へと向かっていった。
「…………師匠、"平"って朔の占いの中じゃ一番下の位じゃなかったっけ?」
「言ってやるな。別に悪い結果って訳じゃないんだ」