「姉ちゃん、いるか?」
翌朝、起床した後に朝食を済ませたタクミはリンがいる部屋の扉をノックする。
すると、扉の中からリンの声が聞こえた。
『いるよー……』
「師匠がそろそろ出るって」
『はーい……』
彼女の若干気の抜けた声に疑問を抱きつつも、タクミは『入るぞ』と一言かけ、扉を開く。
リンは椅子に座り、一枚の写真を憂鬱そうな表情で眺めていた。
「……!」
タクミはその写真に見覚えがあった。
リンが持っている写真には──彼女とアキラの『先生』であるカローレ・アルナが写っていた。
これは以前市長がラマニアンホロウの異変を調査する際に入手したもの。しかし、この写真は撮影者はおろか撮影時期すらも分かっていない。
辛うじて分かるのが、カローレの後ろにミアズマが写っている事から、撮影場所がラマニアンホロウかもしれないという情報のみ。
アキラとリンのもう一つの目的──それは写真の詳細を知る事、そしてカローレの行方を追う事だった。しかし……
「……その感じだと、まだ情報は掴めてないって感じか」
「うん……暇を見つけては色んな人に聞いてみたけど……満足の行く答えは帰ってこなかったんだよね」
「…………」
そう言って肩を落とすリン。
タクミもリンと同じく写真を持って街の人たちに聞いてみたが……やはり確かな情報は手に入れられなかった。
「はぁ……」
彼女が朝から憂鬱そうにしている理由はこれなのだろう。どう声をかければいいのか──
「タクミ〜……」
「うわっ!? ちょ、離れろよ……!」
タクミの心配をよそに、リンは甘えるようにタクミに寄りかかる。
「あ〜……誰か傷心気味のお姉ちゃんを慰めてくれる優しい弟とかいないかなぁ……」
「…………それなら後でしてやるから、早く行くぞ! 師匠達待ってっから!」
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ポーセルメックスが用意した、衛非地区とラマニアンホロウを行き来できるロープウェイ。
リン達はそれに乗り、ラマニアンホロウの中央製造区へと到着した。
「おーい、こっちだ!」
「!」
作業着を着た短髪の男性がこちらに向け手を振っている。
「君達がパロの言っていた調査員の人だな?」
「って事は、貴方がパロさんの言っていたエリックさんですか?」
「そうだ。普段はポーセルメックス従業員互助会の責任者をやっている。君達が来てくれたおかげで、ポーセルメックスと交渉が出来そうだ!」
エリック達労働者はダミアンに例の労災の賠償金について直談判しようと試みた。
しかし当のダミアンはそれをなあなあのままにして、一向に対応しようとしないらしい。
それもそのはず、こちらにはポーセルメックスが用意した侵蝕緩和剤に問題があるという証拠は一つも持ち合わせてはいない。
「だから何か決定的な証拠をつかめさえすれば、奴らの不正を暴く事ができるはずだ」
「……あれ、でもその後はどうするの? 仮に緩和剤の問題点を指摘しても、その後ちゃんとした別の緩和剤の支給がなければ……」
「ああ、その課題があったから俺達はいままで行動できずじまいだったんだ……この間まではな!」
どうやらエリック曰く、ロアという医者が労働者達に安価で安全な緩和剤を提供すると言ったのだそうだ。
「とにかく彼のおかげで、俺達はポーセルメックスに突きつける証拠を探すことが出来る!」
「確かに凄い……けど、どうやってそんなもの用意したんだ?」
「詳しい事は俺にも分からない。けど、ここで迷ったら一生お先真っ暗なんだ……! せっかく掴んだチャンスは逃したくない!」
決意のこもった表情でそう言うエリック。ロアの配る緩和剤は本当に安全なのか、少し疑念が浮かんだ。
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その後エリックの案内の元、事故があったエリアで調査をしているロアの元へとやって来た。
「やあ、君たちが例の調査員だね? 市長さんが派遣してくれたという……」
「こんにちはっ、ロア先生! 貴方が皆にお薬を提供していると、エリックさんから聞きまして……!」
「ああ、確かに僕が製造、後に支給しているよ。ただ、あまり他言はしないで欲しいんだ。ポーセルメックスにバレると厄介な事になるからね」
彼が言うには、緩和剤の成分には特別なものは入っていないとの事。
さらにロアは制作している侵蝕緩和剤の生産ラインに、ラマニアンホロウ内にある廃棄されたものを使用しているらしい。
「僕はそうして作った緩和剤に、『解悩水』と名付けている。全ての労働者がポーセルメックスのイカサマに悩む事が無くなることを祈って、ね」
「なるほど……」
「奴らは労働者を"安上がりな都合のいい道具"としか思っていない……その証拠に企業は治療のコストをケチり、効果の薄い薬を提供している。賠償金だって払ってしまえば労働者が離れてしまうから長々と渋っているに過ぎないんだ」
「ロア先生……と言ったな。ポーセルメックスが賠償金の支払いを先延ばしにしている、と言うのは何か証拠があっての事か?」
「勿論。現地の病院で働いている友人が、ポーセルメックスの医療記録を見たんだ」
医療記録では、被害者のカルテは全てかいざんされており、侵蝕が起こった原因等は全て伏せられていた。
ポーセルメックスが補償を遅らせるために、わざとそうしたのだとロアは言った。
「だから事故のあったエリアを調べて、証拠を手に入れたいんだけど……あそこはエーテリアスだらけで、とても調査に行ける状態じゃない」
「それなら大丈夫ですっ! あたし達がそこに行って調査してきます!」
「おお、助かるよ! 皆さんの協力があれば、何が原因で被害が起こったのかを突き止められる!」
ひとまずリン達はキャロットのデータを元に、事故エリアへと向かう事にした。
そうして数分後、封鎖された目的の場所までやって来た儀玄達。
「タクミくん、身体の方は大丈夫ですか?」
「え? あ、うん大丈夫」
「それなら良いですけど……具合が悪かったら言ってくださいね? ミアズマもあちこちにあるし、無理は禁物ですよっ!」
「分かってる」
タクミは背負っていたリュックからファイズドライバーを取り出し、装着する。
「もしエーテリアスが来ても大丈夫ですっ!」
[5・5・5][Standing by…]
「姉弟子のあたしがタクミくんとお弟子ちゃんを守ってあげますから!」
[Complete]
「だから、安心して身を委ねて────え?」
「?」
「えええっ!? タクミくんの姿が変わっちゃいました!!」
ファイズに変身したタクミに驚く福福。ここに来てなぜ今更驚くのだろうか。
確かに福福の前では初めて変身するが……タクミがファイズである事は儀玄が伝えているはずだ。
「……ん? 言ってなかったか? 私の記憶ではお前さんに言ったはずだが……」
「そ、そうでしたっけ……?」
「……リンとタクミが来る事と一緒に伝えたはずだぞ。まさか弟子が来る事に興奮して聞く耳がなかった、とかじゃないだろうな」
「う…………多分そうです、ごめんなさい……」
「そんなに楽しみにしてたんだ? なんか嬉しいなぁ」
「な、撫でないでくださいよぉ……」
福福は申し訳なさ、照れくささ、そして恥ずかしさが混じった表情で頬をかく。
「とりあえず言えるのは、俺も一応戦えるからそこまで心配しなくていいって事だな、福福先輩」
「……! そう、ですか……」
「…………まあでも、ピンチの時はしっかり姉弟子を頼らせてもらうけどな?」
「! そ……そうですねっ! その時こそ、姉弟子であるあたしの出番ですから! じゃんじゃん頼ってくださいっ! …………えへへ」
寂しそうな顔から一転、ぱあっと明るい表情になる福福。
準備も整い、一行は封鎖されたエリアの奥へと向かっていった。