ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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暗躍

 

 

 

 

 

儀玄を支えながら、適当観まで戻ってきたタクミ。それまでの途中、彼女の体調が変化してる事に気がついた。

 

 

(……師匠、なんかさっきより顔色が良くなってる気がするな)

 

 

気がつけば先程まで酷かった彼女の咳もなりを潜めていた。

 

中庭まで移動し、縁側に儀玄を座らせる。

 

 

「ふぅ……ここに来るまでに、幾ばくか体調もマシになってきたな」

 

「師匠、さっき使った術法の副作用ってどんなやつなんですか?」

 

「さっきのは……集めたエーテルを、己の体内に吸収するというものだ。副作用と言うのは、その侵蝕だな」

 

「は!? ちょ、それ大丈夫なんすか!?」

 

「体調はマシになったと言ったろう。お前さんが侵蝕を後退させたおかげだ」

 

「あ……そっか、それは良かっ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───え?」

 

 

タクミは一瞬、儀玄の言っていることが理解できなかった。

 

 

「ちょ……ちょっと待ってください師匠、俺に術法は使えないですよ?」

 

「知っている。『ソレ』は少なくとも雲嶽山が扱ってる術法じゃない」

 

「ソレ……? どういう事ですか?」

 

「……実は、これまで侵蝕された患者を術法で治療する際、何度か不自然な事が起こっていた」

 

 

侵蝕症状が起こった者の体内のエーテルを整える為、術法を使用した際の事だった。

 

その者の体内を蝕んでいたエーテルの一部が、突然跡形もなく『消滅』したのだ。

 

 

「それも一度だけではない。術法とは関係ない、何かしらの影響によってエーテル粒子()()()()が消え去ったんだ。侵蝕の発作に見舞われたパロの症状を緩和する際にも、同様の現象が起こった」

 

「……もしかしてあの時師匠が一瞬怪訝な顔をしたのって、それが理由ですか?」

 

「気づいていたか……そうだ。そしてその現象が起こったのは──決まってお前さんが患者を支えていた時だった」

 

「……!!」

 

 

儀玄は、タクミが患者に触れたのが原因で体内のエーテルの一部が消滅し、侵蝕を後退させたのかもしれないのだと考えた。

 

 

「現に私を支えるべく身体に触れた時、確かに症状は軽くなった。ただ、お前さんのその表情を見る限り、無自覚だったみたいだがな」

 

「エーテルを、消滅させる力……そんな力が、俺に……?」

 

「詳しくは私にも分からん。ただ、患者や住民が助かったのはその力も一因としてあるという事は確かだ」

 

 

そう言われても、タクミにはそんな実感が湧かない。そんな力がある事さえ知らなかった。

 

恐らくだが、現時点では制御する事もできないだろう。

 

 

「雲嶽山の術法にも、そのようなものがあれば良かったんだがな……あいにく、手放しでリスクを切り離す事はできんようだ」

 

 

一度混乱に陥った澄輝坪の喧騒とは真反対に、適当観のこの場所は一切の静寂に包まれていた。

 

隣にいる儀玄の呼吸の音さえ鮮明に聞こえるほどだった。

 

 

「…………ミアズマにあてられる度、あの日の事を思い出す。建物は崩れ、エーテリアスは吠え……兄弟子や姉弟子達も、その身体を血で濡らして倒れていった」

 

「……儀降さんも、その中に」

 

「ああ。彼女は……私の姉だった。姉様は使命を果たすため、あらゆる力を使い果たし……私の目の前で死んだ」

 

「…………」

 

 

昔の事を思い出した儀玄は、再び顔色を悪くしていく。その原因が侵蝕だけではない事は、既に分かりきっていた。

 

術法でミアズマを吸収した影響で、精神にも悪影響を及ぼしてしまっている。

 

 

「師匠……今は休んでください。気分が沈んだままじゃ、治るもんも治らないですから」

 

「……弟子に諭されるとはな。確かに、お前さんの言う通りだな……皆に心配をかける訳にはいかない。今日は休ませてもらおう」

 

 

タクミは再び彼女を支え、儀玄を休ませに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日の朝。

 

支度を済ませて外へ出ると、雲嶽山の面々の他に見知った顔が見えた。

 

 

「貴方は……」

 

「お弟子ちゃん、タクミくん! 街でエリックさんを見かけたので連れてきましたよ! お伝えしたい事があるみたいです!」

 

「ああ。どうしても言いたい事があってな……雲嶽山の先生方、この度はどうもありがとう! 皆さんのおかげで、被害を最小限に抑えることが出来た……!」

 

「いえ、そんな……そういえばパロさんはあれから大丈夫?」

 

「ああ、無事意識は取り戻したみたいだ。でもパロの奴、娘さんに延々泣きながら抱きつかれてたせいでまともに話もできやしなかったんだけどな……」

 

「余程会いたかったんだねぇ……」

 

「そうだな……ただ、喜べることばかりじゃない」

 

 

確かに何事もなくて何よりではあるが……目下の課題を片付けない限り、その平穏もいつまで続くかは分からない。

 

 

「今回の件も街では労災の一言で片付けられ、皆ポーセルメックスの仕業だと思い込んでる……讃頌会に騙されてたなんて、夢にも思っちゃいないんだ」

 

「最初起こった侵蝕事故も、讃頌会の仕業だったとしか思えないね……」

 

「互助会のみんなにも、この事を伝えたんだが……皆聞く耳さえ持たなかった。それどころか、勝手に人を集めてポーセルメックスに抗議しようとしてる状況だ……」

 

「……妙ですね。エリックさん、もしかすると互助会の構成員はあなたを含めたごく少数を除き、全て讃頌会の人間だったのかもしれません」

 

 

互助会のリーダーであったエリックは、あくまでポーセルメックスの身元調査を交わすために利用されたのだと釈淵は予想した。

 

 

「そ、そんな……賠償を勝ち取る為に皆で一丸となってポーセルメックスと戦おうと……そう誓ったのに、まさかただ利用されてただけだったなんて……! 俺がしっかりしていれば、皆が侵蝕事故に巻き込まれる事も……」

 

「落ち着いてエリックさん、一旦冷静になって。互助会の動きで、何か新しい動きはあった?」

 

「新しい動き……そうだ! 今夜、皆をホロウに集めて大規模な抗議デモについて話し合うらしい」

 

「ホロウに皆を……って事はあの医者、また治療を名目に解悩水を……!」

 

「こ……こうしちゃいられませんっ! 早いところホロウに行って阻止しないと……!」

 

「阻止するっつっても、どうやるかだよな……」

 

 

儀玄が休んでいる状況だが、四の五の言っている場合ではない。

 

 

集会を阻止する方法を考えていたその時、リンのスマホから電話が鳴る。

 

 

『雲嶽山の皆様、お久しぶりでございます』

 

「あれ、その声……ダミアンさんじゃないですか?」

 

「どうしたの? もしかして……」

 

『ええ、件の侵蝕事故についてです。事の詳細については聞き及んでおります。今回の件が讃頌会がらみだとお聞きし、急ぎご連絡した次第です』

 

「今回の事、ダミアンさんの力で讃頌会が黒幕だって事を広める事はできないの?」

 

『ここまで事が大きくなった以上、私のみの力では風説の流布を止める事は不可能でしょう。それに今しがた、ホロウ内の侵蝕緩和剤の供給地点が何者かにより破壊されたとの情報が入りました』

 

「…………!」

 

 

恐らくそれも讃頌会の仕業だろう。

 

今夜『生贄』に解悩水を飲ませる目的のためだと考えれば辻褄が合う。

 

 

『流布を止める事は出来ませんが……地区内の医療インシデントを予防するべく、侵蝕緩和剤の緊急配布を行う事は可能です』

 

「!! ホントですかっ!?」

 

『ええ。そこで、皆様におねがいしたいのですが……その緩和剤の供給地点を、適当観のすぐ外に設けさせて頂くことは可能でしょうか?』

 

「えーと……て事はつまり、薬の配布を讃頌会に邪魔されないように、供給地点を見張ってて欲しいって言いたいんだね?」

 

『ご理解が早く助かります。緩和剤につきましては、市政当局から配布されるものを市民全員に無償で提供いたします』

 

「ほ、本当か……!? それなら、すぐ住民を集めよう! そのついでに、この件の真実を皆に伝えるんだ!」

 

 

ダミアンの提案により、この問題にも解決の兆しが見えてきた。

 

雲嶽山の一同はすぐさま行動を開始した。

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