「二人ともおかえり。労働者の人達の様子はどうだった?」
「うん……案の定って感じ」
リンとタクミは澄輝坪にいる『打倒悪徳企業』の看板を掲げた労働者達に、緩和剤の新たな供給地点が設けられるという事を伝えに行った。
大多数はその事に対し、喜びの反応を見せていたが……中には『またポーセルメックスの流したデマだろう』と言う人間がいた。
「ま、そこら辺はエリックさんがなんとかしてくれるだろ。それより兄ちゃん、メモリディスクの解析はもう終わったのか?」
「ああ、さっき完了したよ。分析したデータには、解悩水を飲んだ人達の名前……そして、その人達が飲んだ時間を記録したリストがあった」
そのリストによれば、一番最初に解悩水を飲んだ人達と、昨夜街で侵蝕症状を起こした人が見事一致していたと言う。
「昨晩侵蝕症状が一気に起こったのは偶然なんかじゃなく、あえてそうなるよう仕向けられていた……と考えるのが自然だね」
「やっぱりそっか……確かにそうした方が抗議に加わる労働者達の数を増やせるからね」
「それと、ロア先生が卸していた記録も見つかったんだけど……それによれば、最初の侵蝕事故は彼が薬を汚染したのが原因だったらしい」
さらに、メモリディスクの中にはとあるデータの観測地点が座標が入っていたのだが……なんと、市長が言っていた例の異常が起きた観測地点の座標と合致していたのだ。
「──おまけにミアズマが大量発生している地点でもあった。データの観測を妨害し、ミアズマを隠れ蓑にして、讃頌会は前から計画を進めていたんだ」
「証拠を探す為にホロウに入らせたのも、労働者を都合良く動かして、計画を滞りなく進める為のものだったってわけか……悪どいヤツらだ」
「お兄ちゃん、ミアズマが大量発生してるって場所、詳しく調べられる? もしかしたら、そこに讃頌会が……!」
「僕もそう思って、既に怪しげな場所をいくつかピックアップしたよ。そこに行けばなにか手がかりが見つかるかもしれない」
「ありがとうお兄ちゃん! よし、目的地も決まったことだし、福福先輩達も呼んでくるね!」
そして福福、釈淵、潘の三人を呼び出し、メモリディスク関連の事を説明する。
「──つまり、すぐに本丸に突撃して、こてんぱんにできるって事ですねっ!」
「流石です、お弟子さん。貴方に計画を任せるという師匠のご判断は間違ってはいなかったようですね」
「ああ、ロアの野郎もまとめて徹底的に懲らしめてやるぞ!」
「あ……そうだ釈淵さん、このまま適当観でお兄ちゃんと師匠の護衛を頼める? 師匠はまだ体調が優れないみたいだから、作戦に参加するのも難しそうだし……」
「分かりました。僕も願わくば同行したい気持ちでしたが……お弟子さんの頼みとあらば、断る理由も無いでしょう」
「あっじゃあ釈淵さん、タクミくんの事もよろしくお願いします!」
「えっ」
急に何を言い出すのかという目で福福を見るタクミ。普通に自分も行く気でいた。
「……福福先輩? さっきも言ったけど俺は平気だって──」
「治るまではダメですっ! ホロウの中で傷が悪化したらどうするんですか!」
「それなら大丈夫だって、ほぼ治ったし!」
「治ってないでしょ!」
「治ってます!」
「むー……そこまで言うなら、あたしにも考えがありますっ!」
そう言うと福福はタクミが着ている服にガッ、と手をかける。
「……福福先輩、何を」
「怪我をチェックするんですっ! ホントに治ってるなら見せられますよね!」
「いやあの、ちょっと」
「姉弟子さんそこまでに──」
「姉弟子チェーックっ!!」
ガバッ!!と抵抗すら敵わず、タクミの服は福福によって下のタンクトップごと勢い良くまくり挙げられた。
そこから見えるタクミの脇腹にはギリギリ目視できるほどの小さい傷しかなく、確かにほぼ完治していることが伺えた。
それよりも。
「…………」
「…………」
見える腹筋。訪れる静寂。
弟弟子の服を捲りあげた姉弟子は、自分がしたことを今になって自覚し、みるみるうちに顔を真っ赤にさせていく。
「ふ、福姐……行かせてやろうじゃないか。見ての通り、ほぼほぼ治ってるみたいだしな」
「…………そ」
「"そ"?」
「そうですね」
「声小さいな!」
ちょっとしたハプニング(?)はあったが、予定通り雲嶽山の一同は讃頌会の拠点へと突入するのだった。
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ホロウに入り、解析されたデータを元に讃頌会の拠点へと向かう雲嶽山の一同。
拠点の近くまで来た時、見覚えのある姿が視界に現れた。
「やはり来たか……雲嶽山……!」
「貴方は……っ!」
「ロア先生……まさかアンタの方から来てくれるとはな」
ロアは侮蔑するような目でファイズ達を見る。
「貴様らに、始まりの主の御意志に刃向かう資格などないと言う事を教えに来てやったのだ」
「ロア先生……貴方のやった事は、決して許されません! 大勢の人たちを傷つけた事、償って貰いますよっ!」
「はははっ、これは見物だな……雲嶽山の宗主もいない状況で、どれだけ持つかな……!」
ロアはそう言って……顔に模様を浮かべ、ワスプオルフェノクに変身する。
同時に、大量のエーテリアスを召喚した。
「……!!」
襲いかかるエーテリアス達。ファイズ達はそれに応戦するが──
『貴様の相手は僕だ、ファイズ!!』
「!」
前と同じように、ワスプオルフェノクは羽を広げ高速でファイズ目掛け突進してきた。
しかし──
[Battle Mode]
『っ! グゥッ……!』
そばで待機させていたオートバジンがワスプオルフェノクをジェット飛行しながら蹴り飛ばして妨害。
ファイズはワスプオルフェノクを無理やり起き上がらせ、右拳で執拗に殴っていく。
ワスプオルフェノクは負けじと右手の毒針で反撃するが軽々とかわし、怒涛の連撃で体力を削っていく。
「フッ! はあっ!!」
『ぐわあっ!』
渾身のヤクザキックで壁へと蹴り飛ばす。
そして折良くエーテリアスを殲滅させた福福と潘が狙いをワスプオルフェノクに変え、ファイズと共に彼を囲んでいき、追い詰めていく。
「諦めるんだな、ヤブ医者め」
「もう逃げ場はありませんよ……!」
『…………っ』
背後には今にも溢れそうなミアズマの沼。地上の逃げ場をなくしたワスプオルフェノクは、羽を広げて空へ逃げようとするが──
「空に逃げても無駄だぞ。飛んだ瞬間、オートバジンがお前を撃ち落とす」
『っ……!』
空を見上げれば、確かにオートバジンが上空からワスプオルフェノクを見ていた。
ワスプオルフェノクは何を思ったのか、懐に隠していた通信機を取り出す。
『ふ、ふふ……貴様らに、この身を差し出すくらいならば……!!』
「おい、何を……!!」
『メヴォラク司教! 見てくださっていますか! 始まりの主と共に、ご照覧ください……! この僕の、再創を────!!』
ワスプオルフェノクはそう言うと、自身の体に謎の薬剤を注射。
瞬く間に、身体に青い炎が出始める。
「お前……!!」
『は、はは……!!』
灰になって崩れていくその身体は、背後にあるミアズマの沼へと落ちていく。
「っ!!」
ミアズマに落ちた直後、沼からは嵐のような激しい炎が舞い上がり、やがてその勢いはなりを潜めていった。
「…………」