ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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治らない傷

 

 

 

 

 

「……そうか。讃頌会の息は依然続いたままか」

 

 

ホロウから戻ったあと、儀玄が目覚めたと聞いたタクミは、外の状況を簡潔に伝えた。

 

ミアズマの中に消えたロアが最期に言っていた『メヴォラク司教』という名前。今回の件はロアは黒幕ではなく、その者の指示で動いていたに過ぎなかった。

 

解悩水の製造元が見つからなかったのもあり、真の黒幕はその人物なのではないかとリン達は考えたのだ。

 

今回壊滅させた讃頌会の拠点も、数あるうちの一つに過ぎない。もうすぐ始まるTOPSの抗議集会も、なんとかして中止させないと新たな犠牲者が出てきてしまうだろう。

 

 

「……」

 

「……タクミ、何か言いたげな目をしているな」

 

「えっ? あーいや、特には……」

 

「師匠の目は誤魔化せないぞ。何か聞きたいことがあるなら、遠慮せず言え」

 

「……その、実はロアの奴と戦ってる途中、アイツこう言ってたんです」

 

 

 

 

『──皆、解悩水の副作用の事も、儀式の事も知っている。知ったうえで、彼らは命を捧げることを選んだのだ。雲嶽山からは見捨てられ、TOPSから搾取され続ける、そんなどうしようもない現状から抜け出すためにな……!』

 

 

 

 

 

「──『だから、儀式の邪魔をするな』って。まあ、讃頌会の言う事なんて真に受ける方が間違ってると思うんすけどね」

 

「……そうでもない」

 

「え……?」

 

「今回の件は、我ら雲嶽山一門が過去に犯した過ち……それに起因するものだと言える。前に、雲嶽山の先代宗主は私の姉だったと言った事は覚えているな?」

 

 

儀玄と儀降はかつて、街をさまよう孤児だった。

 

ただ、それでも互いを見捨てる様なことはせず、いつか太陽のあたる世界を共に見ようと、姉妹でそう約束した。

 

 

「──しかし雲嶽山の門を通った時から……全ては変わってしまった。『青溟剣』のなるもののせいでな」

 

「青溟剣?」

 

「青溟剣は雲嶽山に伝わる秘宝のことだ。それを使えば短時間のみ、虚狩りに匹敵するほどの力を手にする事ができる」

 

 

上手く扱うことができれば、青溟剣は限界を超えた力を使い手に授けることができる。

 

青溟剣はそうして今に至るまでに、代々雲嶽山の宗主に受け継がれてきた。

 

 

「……だが当然、その力にはとてつもない代償があった。振る度に剣を握る者の記憶や五感を消耗させ、果てにはその命までをも奪う。私の師も、やむを得ない任務でその剣により命を散らした」

 

「…………!」

 

 

師の死に様を見た儀玄と儀降は、同じ轍は踏まない踏まないと、もう一つの約束を交わした。

 

儀降は青溟剣の代償を限りなく減らすため、現在儀玄が使っている『青溟鳥』の術の研究を始めた。

 

そして二人は、誰かを救うために自らの命を犠牲にする事のないよう、改めて約束を交わした。

 

 

しかし。

 

 

「…………旧都陥落の時、姉様はその約束を破った。エリー都の人々を災害から救い出すべく、青溟剣を抜いてしまったのだ」

 

 

儀降は青溟剣の代償をその身で受けながら、人々を救うため、最期の最期まで剣を振り続けた。

 

駆けつけた妹の儀玄の事すら、記憶から消えてしまう程までに。

 

 

「ミアズマにあてられる度、姉様は私に繰り返し問い続けている……『貴女は、誰?』と。あの言葉には、続きがあったのかもしれないが……青溟剣は、それを知ることすら許さなかった」

 

「……」

 

「その命を散らしたのにも関わらず、あのよう結末を迎え……姉様の犠牲は、本当に意味のあるものだったのかと、今でもそう考えている。だが……」

 

 

雲嶽山が衛非地区に戻った時、儀玄は見た。

 

苦しい現状でありながらも、前を向き、懸命に生き続けている旧都陥落の生還者達を。

 

彼らこそが、儀降が命を賭してでも守りたかったものなのだと気づいた。

 

 

「少なくとも、姉様の犠牲から目を背けてはならない。それが、宗主である……私の使命だ」

 

「…………」

 

「……タクミ」

 

「!」

 

 

儀玄は、タクミの目を真っ直ぐと見る。

 

 

「お前さんにも、守りたい者がいるだろう。助けたい者がいるだろう。その心持ちを否定するつもりは無い。しかし……」

 

「……分かってます。俺には大事な人を守りたいって思いと同じくらい、悲しませたくないって思いもありますから」

 

「…………」

 

 

儀玄はその答えに、何も言わずにゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の外へ行ってみると、アキラ、リンと雲嶽山の面子の他に、エリックら数人の労働者の姿もあった。

 

 

「エリックさん」

 

「おお君も来たか、ちょうどいい所に! 大変だ、もうすぐ集会が始まる! それに向けて準備も絶賛進行中なんだ!」

 

「労働者の人達への説得は成功したんですか?」

 

「それがね……全然耳を傾けてくれなかったんだって」

 

「そうなんだよ……終いにゃポーセルメックスからの刺客なんじゃないかって疑われる始末だ」

 

 

エリックは肩を落としてそう言った。どうやらこれ以上の協力者は望めなさそうだ。

 

 

「そう言えばタクミくん、お師匠さまの様子はどうしでしたか?」

 

「ああ、それは──」

 

「私ならもう大丈夫だ」

 

「!」

 

 

話しているところに、儀玄がやって来た。見る限り、体調は完全に回復したと見ていいだろう。

 

 

「師匠!」

 

「皆、心配をかけたな。事の次第は全て聞いた。今、讃頌会との決着をつける時が来た」

 

「……!!」

 

 

そう言う儀玄に、場にいた労働者達は活気を取り戻していく。

 

 

「我ら雲嶽山は旧都陥落時、人々を救う為に多大なる犠牲を払った。そして今、同等の危機が衛非地区に訪れようとしている」

 

 

儀玄は決意のこもった目で彼らに告げる。

 

 

「此度の戦いは、死闘となるだろう。局勢が不利に傾いた時は、お前さん達はすぐにホロウから撤退しろ。場に残るのは、私一人で十分だ」

 

「……師匠」

 

「雲嶽山は、決して同じ過ちは繰り返さない。門下生の誰ひとり犠牲になる事なく、この街に平和を取り戻す。先代宗主の遺志を継ぎ、私は……死力を尽くしてこれに臨む」

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

イアスと感覚同期をしたアキラを護衛するべく残った釈淵を除く、全ての雲嶽山の門下生がホロウに突入した。

 

全ては、讃頌会の儀式を阻止するため。

 

 

『皆、抗議の集会場所に到着したよ』

 

「なんかここ、凝固したミアズマが不自然なくらいにいっぱいあるね……」

 

『ああ。恐らく、讃頌会が何かを隠すためにわざとそうしたんだろう』

 

「よーし! それじゃああたし達が片付けてきますねっ!」

 

『任せたよ。ただ、くれぐれも気をつけてくれ。讃頌会の人間が近くに潜んで──』

 

 

「うわぁあああっ!?」

 

 

「今のは……! あっちから聞こえたぞ!」

 

 

すぐ近くから労働者と思しき男性の悲鳴が響き渡る。それを聞いたファイズ達はすぐさまその場所へと向かった。

 

 

「た、助けてくれ……!」

 

 

そこには逃げる労働者をじりじりと追い詰めるハティの姿が。

 

今にも彼に飛びつきそうなそのエーテリアスを見たファイズは──

 

 

[Ready]

 

「オラァ!!」

 

「ガァァッ!?」

 

 

なりふり構わずオートバジンからファイズエッジを引き抜き、そのまま()()()()()

 

フォトンブラッドが濃縮された刀身が勢い良く突き刺さり、ハティは悲鳴を上げる。

 

 

[Exceed Charge]

 

 

ハティからエッジを()()()乱暴に引き抜き、流れるような所作でファイズフォンのENTERキーを押す。

 

そのまま『スパークルカット』でハティを滅多切りにし、『Φ』のマークとともに跡形もなく消滅させた。

 

その様子を、助けられた労働者の男はポカンとした顔で見ていた。

 

 

「大丈夫っすか?」

 

「え?……あ、ああ。ありがとう」

 

 

駆けつけたリンがファイズをじっと見る。

 

 

「……タクミってたまにバイオレンスな戦い方するよね」

 

「えっ」

 

『ストレスでも溜まっているのかい?』

 

「溜まってないよ?」

 

「タクミくん、ストレスが溜まっているなら遠慮なくあたしに言ってくださいね?」

 

「溜まってないって」

 

「これが終わったら疲労軽減の術を教えようか」

 

「だから溜まってないっての!」

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