消えたニトロフューエル
ニトロフューエル。
都内、郊外を問わず新エリー都で広く愛されているシゲキ的なドリンク。
ひとえにニトロフューエルと言っても、様々な種類の物が販売されている。
子供やお年寄りにも優しめなマイルドタイプや、眠気をバッチリ覚ますエナドリタイプなど。アルコールが入っているタイプもあるらしい。
しかし出回っている市販のものとは別に、飲む人を釘付けにすると言う特別なニトロフューエルがある。
それは『カリュドーンの子』バーテンダーのバーニスが作る"バーニススペシャル"。
郊外では知らぬ人はいないほどの名物ドリンクだ。
都内からはるばるやって来た人々が彼女の作るニトロフューエルを飲んだ時、皆口を揃えてこう言う。
『ヤバい』と。
それが良い意味なのか悪い意味なのかは人によるかもしれないが、確実に記憶に残る味だと言うのは確かだろう。
そして何を隠そう、これを作るバーニス自身もニトロフューエルをこよなく愛する人間のひとり。
その大好きっぷりは端的に言って常軌を逸しており、もはやニトロフューエル中毒と言っても差し支えない程と言える。
ある日タクミは、四六時中ニトロフューエルを飲んでいるバーニスが心配になり、"そんなに飲んだら早死にするんじゃないか"と聞いた。
するとバーニスは──
『早死になんかしないよ〜? むしろニトロフューエルがあれば二百歳ぐらいまでは長生きできるもん!』
そう力説するバーニスの言葉には、無茶苦茶な理論にも関わらず妙な説得力があった。
彼女の言葉に対し、タクミは"そうなんだ"と納得する他なかった。
そんなニトロフューエルを愛して続けているバーニスが、もしニトロフューエルにありつけないなどという事態に直面するとどうなるか。
「たぁーーっくぅーーん……!!」
「あああああああ!!!」
こうなる。
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澄輝坪でおつかいをしていたタクミ。
買い物から帰る途中、突然後ろからバーニスに抱きつかれ、思わず悲鳴をあげた。
抱き着いてきたバーニスの顔は、いつもの明朗快活な表情が嘘かのようにその生気を失っており、まるでゾンビのような顔をしていた。
どうしたのか、何故ここにいるのかと適当観でリンと一緒に事情を聞いてみれば──
「…………ニトロフューエルが売り切れ?」
「うん……そうなんだ……」
少し前に、衛非地区限定で発売された新フレーバーのニトロフューエル。
バーニスはそのニトロフューエルを飲むために衛非地区へとやって来たのだが……目にしたのは『再入荷待ち』の看板のみ。
「店員さんに聞いても再入荷の予定は決まってないって……こんなのあんまりだよぉ……新フレーバーのニトロフューエル、飲みたかったのに……」
「それを飲みに郊外からここまで来たんだ。郊外から衛非地区って結構距離あるのに凄いね……」
「新フレーバーを満遍なく味わいたくて、しばらく『断ニトロフューエル』してたのに……ああ……飲みたい……!!」
「!」
バーニスの様子がおかしくなっている。いや、先程も十分おかしかったが、それがさらに悪化しているような感じだった。
原因は分かりきっている。禁断症状だ。
一体どれだけの期間、『断ニトロフューエル』を続けてきたのだろうか。
「しっかりしろ、バーニス……! 最後にニトロフューエルを飲んだのはいつだ?」
「昨日の夜……」
「結構最近じゃねーか!!」
「最近じゃないよぉ! 今日は一口もニトロフューエルを飲んでないんだもん……!!」
「あーもう抱き着くな! ちょっと待ってろ、普通のニトロフューエルを買ってくるから……!!」
急ぎでニトロフューエルを買ってきた後、バーニスに飲ませる。その様子を見ていたリンは、とある事を思い出した。
「……ねぇ、そういえばバーニスは今朝のニュース見た?」
「……んぇ? ううん……」
「えっとね、その新フレーバーのニトロフューエルを輸送していた貨物トラックがホロウレイダーの集団の強盗にあったらしいんだよね」
「そうなのっ!?」
「うわびっくりした! 急に起き上がるなよ!」
ニトロフューエルを飲んで復活したバーニスがリンに詰め寄る。
「う……うん、入荷が遅れてるのもそれが原因なんじゃないかって……」
『マスター、インターノットなどに寄せられた多数の目撃情報から推測するに、貨物トラックを襲撃した集団は郊外のホロウを活動拠点としている可能性が高いです』
「んー……ソイツらはニトロフューエルが好きだから盗んだ、みたいな単純な動機じゃないんだろうな」
「そうだね。大方、転売して金儲けをしようって考えなのかも」
「むー……よし、それならすぐ向かおっ! ニトロフューエルが助けを呼んでる!」
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爆速で飛ばすバーニスのバイクと一緒に、リンとタクミはホロウレイダーの集団が巣食うホロウへとやって来た。
頻繁に座標が変化するホロウで目的地に進むため、先頭に立ったのはプロキシであるリン……ではなく、バーニスだった。
なので怒涛の勢いで進んでいくバーニスに着いていく形となったが……どういう訳かナビが無いにも関わらず、彼女は道を間違えることなくホロウの中を進めていた。
「え? なんで道が分かるのって……? そんなのニトロフューエルが呼んでるからに決まってるでしょ?」
「「…………」」
今更だが、彼女のニトロフューエル愛にはただただ感服するばかりだ。
そしてものの数分足らずでホロウレイダーのアジトへとたどり着いたバーニス達。
「…………ここがアイツらの」
「とっつにゅーー!!」
「バーニス!? ちょ、いきなり……!!」
合図すらせずにバーニスはアジトへと突入していった。案の定、ホロウレイダーの一員と鉢合わせしてしまう。
「あ……もしかして、おじさん達がホロウレイダー?」
「あぁ!? なんだてめぇは……!!」
「どうやってここを嗅ぎつけやがった!」
「そんな事よりさ、ひとつ聞かせて? どうして、ニトロフューエルを盗んだりしたのかな〜? 独り占めなんて良くないよ?」
「あ……?」
出会い頭にいきなり質問をするバーニスに眉を顰めるホロウレイダー。
「……なんでそんなことてめぇに」
「答えて?」
「…………はっ、そんなの金儲けする為に決まってんじゃねぇか。ニトロフューエルには毛ほども興味はねぇが、金が入ってくんなら──」
「そっか〜」
底冷えするような朗らかな声が、建物の中に響いた。
その声に、ホロウレイダーだけでなく、同行していたファイズとリンも顔を強ばらせる。
「ニトロフューエルが大好きって理由でこんな事をしてたなら……まだ情状酌量の余地はあったんだけどなぁ〜」
「お、おい……何をするつもりだ!?」
「私、こんな事はよくないと思うんだ〜。だってニトロフューエルは、皆で楽しむものだから! そんな楽しみを台無しにしちゃうわる〜いおじさん達は──」
「ぜーんぶ燃やしちゃうねっ☆」
そこから先は阿鼻叫喚だった。
火炎放射器『ステア』『シェイク』を両手に、バーニスは満面の笑みで炎を全方向に射出。
当然ホロウレイダー達は抵抗したが……適うはずもなく、命乞いをするので精一杯だった。
介入する余地もなかったファイズは、仕方ないのでホロウレイダーを縛っておくことにした。
こうしてニトロフューエルは救出され……ホロウレイダー達は治安官により一斉検挙されたのだった。
ちなみにアジトは全焼した。
((……怖!!))
「あれ〜? どしたの二人とも、ニトロフューエル飲まないの?」
ホロウを出たあと、バーニスからお礼として新フレーバーのニトロフューエルを奢ってもらったが……リンとタクミは味が分からなかった。