ラマニアンホロウの調査のため、一時的に活動拠点を衛非地区に移したアキラ達。
しかしRandom Playの店の様子を確かめるために週に一回、六分街に帰る事にしている。
今週はタクミが六分街に帰省。朝、店のドアを開けるとトワとレムが出迎えに来てくれた。
「ンナナー!(お帰りなさい!)」
「ンナ!(おかえりー!)」
「ただいま」
タクミ達が衛非地区にいる間は、この二匹が代わりに頑張ってくれた。
明日にはまた衛非地区に帰るが、今日は頑張ってくれたトワとレムの為にも店番を頑張ろうと張り切るタクミだった。
「ありがとうございましたー」
久しぶりに帰ってきたからと言って、何か特別な事をする訳でもない。
いつも通りの経営、いつも通りの接客をするのみ。
客も……いつも通り、そんなに来ない。
すると。
「あら、タクミじゃない!」
「!」
ほんの少し『暇だな』と思い始めたところに、アストラが来店してきた。
大スターとも言えるアストラは身バレ防止の為に、サングラスをかけている。
相変わらずのガバガバ変装っぷりである。
「帰ってきてたのね! 元気してた?」
「俺は元気だよ。兄ちゃんと姉ちゃんも」
「それは良かったわ……! 衛非地区でのお仕事はもう大丈夫なの?」
「まだだよ。今日は様子を見に帰ってきただけだから」
アストラに色々と説明する。
「そうだったのね……もう、帰ってくるなら言ってくれれば良いのに」
「つっても、明日には帰るし……」
「むー……まあいっか! 折角会えたんだし、何かお話しましょ!」
「別に良いけど……何話すんだ」
「んーそうね……あ、そういえばタクミは知ってるかしら? 深夜に徘徊する幽霊の話!」
「…………」
なんとか話題を切り替えたい。
幽霊の話はタクミも知っている。だが内容は知らないし、知りたくもない。
「あー……知ってるよ。それよりさ──」
「ンナンナ?(幽霊って何の話ですか?)」
(トワーーーーーー!!)
身を乗り出し、興味津々なトワ。ここで強引に話題を切り替える力は、タクミにはなかった。
「あら、トワも気になるの? えっとね……深夜、日付が変わった後に、六分街に髪の長い女の人が呻き声を上げながら徘徊する事があるらしいの……」
「ンナナ……」
「その人は誰かの家の寝室に忍び込み……天井に張り付いて、人の生気を吸っていくの……!!」
「なんだよそれ……」
アストラの話し方がやけにゾワッと来る。流石の演技力と言える。怖い。
もう話半分で聞くことにする。そうすれば夜にはもうすっかり忘れている事だろう。
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日も落ち、月が登り始めた頃。
閉店後、風呂を済ませ、自分で作った夕食を食べる。
(……自分で作るの久しぶりだなぁ)
────知ってる? 夜に徘徊する幽霊の話
しばらく出来ていなかったゲームもする。格ゲーの腕は衰えていなかった。
(お、この人なんか強いなぁ)
────深夜、日付が変わった後……髪の長い女の人が
少しホコリっぽかったので、軽く掃除をする。これからは帰る度にやっておく必要がありそうだ。
(空き巣とかも無かったみたいだな。安心安心)
────呻き声をあげながら徘徊するらしいの
寝る前、軽くアキラやリン達と電話で話した後、ベッドに入る。
久しぶりの家のベッドは、包み込むような安心感と心地良さがあった。
(明日は朝一で出発しないとな。寝過ごさないようにしないと──)
────寝室の天井に張り付いて、人の生気を……!!
(寝られるかぁぁぁあああ!!)
昼間聞いた怪談がいつまでも耳にこびりつき、心の中で悲鳴を上げる。
(なんで!? 忘れようっつったじゃん俺!! なんで未だに鮮明に覚えてるの!?)
アストラの話が頭から離れず、風呂に入っても夕飯を食べてもゲームをしても忘れる事ができなかった。
(しかも今兄ちゃんと姉ちゃんいないからすげー静かだし! 余計怖いんだけど!!)
さらに言えばトワとレムは現在充電中。一緒に寝ようと無理やり起こす事もできない。
と、ここで急に尿意をもよおしてしまう。
(あーもうトイレ……もうさっさと済ませて寝よう)
タクミは部屋のドアを開け、通路に出る。
──暗い。
(暗い!!)
トイレまでそこまでの距離はない。しかし暗い。
(いや、バカか俺は……何必要以上にビビり散らかしてんだ……トイレ行くだけだろ)
冷静さを取り戻したタクミは通路の電気を付け、トイレまで歩く。数歩歩けば到着するはずのトイレまでの距離がやけに長く感じる。
(あれ……なんか通路暗くね? いつもこんなだっけ)
電気を点けたにも関わらず、何故か明るく感じない。適当観での暮らしに慣れたせいだろうか。
そしてトイレの前まで到着する。扉のすぐ近くにあるスイッチを押すと、扉の隙間から照明の光が漏れ出た。
その光に幾ばくか安心感を覚えたタクミは、ドアノブに手をかけようとする──
────幽霊ってトイレにもいるんだっけ?
(ああああバカ!! 何考えてんだよ俺はぁ!!)
急にドアノブが固く感じる。動かせない。
しなくてもいい馬鹿みたいな懸念が頭に浮かんだせいで、扉を開くことすらままならない。
(扉開いたらぐわーって出るよな……? いやいや出るわけねぇだろ、いやでももしかしたら──ああもうクソッ!!)
トイレに行く、ただそれだけで精神を削られていく少年の姿がそこにはあった。
(……もういいや、なんか考えてたらトイレ行きたくなくなったし。もう部屋に──)
「何をしているのですか?」
「あぁああああああ!!」
急に背後から聞こえてきた声に心臓が止まりそうになったタクミ。
声の主は──なんとビビアンだった。
「ちょっと……人の顔を見るなり叫ばないで欲しいのです。失礼ですね」
「いや、ビビアン……!? なんでお前ここに──」
「どうかしましたか、タクミくん?」
「あぁああああああ!!」
またしても背後から聞こえた声に悲鳴をあげるタクミ。声の主はトリガーだった。
明日ご近所から怒られない事を祈るばかりだ。
「どうかしましたか、タクミくん!?」
「どうかしましたかじゃないが! どうかしましたかじゃないが!!」
「タクミ……貴方がトイレの前で立ち尽くしていたから心配で声をかけたのです」
「ええ。もし体調不良ならば遠慮なく言ってください」
「あ、お気遣いどうも──じゃなくて!! なんで二人共ここにいんの!?」
「? パエトーン様からお聞きになっていないのですか?」
「え」
どうやらRandom Playの防犯対策の為に、二人が店の護衛として名乗り出たのだそう。
一応、アキラとリン公認という訳だ。不法侵入ではないらしい。
(……あの二人、わざと俺に言わなかったな)
「それでタクミ、大丈夫なのですか? 体調の方は」
「いや……うん、大丈夫」
「どうか無理はなさらずに。護衛という任務を引き受けた以上、貴方の健康に気を使うことも必要な事ですから」
「だから大丈夫ですって。てか、やけに世話焼きですね」
タクミの言葉を聞いたビビアンとトリガーは顔を見合せる。
そして口を揃え、こう答えた。
「「義弟ですから」」
「義弟じゃねーよ!!」
トリガーとビビアン、割と仲良さそう