新エリー都のどこかにある遊園地。タクミ達は今、そこに来ている。
「わぁ〜、遊園地なんて何年ぶりだろ……!」
「結構人いるな……」
隣で歩いているのはアキラとリン。
わざわざこの場所へ来たのには訳がある。そう、休息のためである。
そしてその休息の時間をくれたのは、他でもない儀玄師匠。
確かにここ最近、適当観の復興などで少し忙しい日々が続いたが……別に休む時間が取れないほどではなかった。
しかしそれでも──
『家族で羽を伸ばす時間も必要だろう。適当観のことは気にせず、楽しんでこい』
彼女にそう言われ、そして現在に至る。
ちなみに遊園地に行こうと言い出したのはリンだ。
「ねぇ、最初どこ行く? ジェットコースター行っちゃう?」
「え、いきなりかい?」
「いーじゃん別に! ほら、行こ行こ!」
「うわっ……ちょ、押すなよ!」
押されるがままにやって来たジェットコースター。
実はタクミは一度もジェットコースターに乗ったことがない。
遊園地に行く機会自体があまり無かったと言うのもあるが、小さい頃はそもそもジェットコースターに乗る勇気がなかった。
一度ぐらいは経験しておくべきだろうと考え、タクミは二人と一緒にジェットコースターに乗り込んだ。
「もう乗らない……ジェットコースターとか一生乗らない……」
「えっと……なんと言うか、まさかタクミがそこまで乗り物酔いしやすい体質だったとはね……」
「めちゃくちゃ顔色悪いじゃん……」
感想を言ってしまえば、ジェットコースター自体は思ったよりも怖くなかった。
まあ普段が普段なので耐性があるのだろう。途中までは楽しめた。
しかしその途中からは猛烈に気分が悪くなり、タクミは胃液が逆流しないよう耐えるのに必死で、景色など気にする余裕もなかった。
結論、途中からは全然楽しくなかった。
「……なんかこの顔のタクミ、ちょっと面白いかも……写真撮っとこ」
「撮るなよ鬼かお前は……」
「あはは……まあ、少し休むといいよ。気分が悪いままだと他のアトラクションも楽しめないだろうし」
「そうする……」
「それじゃお兄ちゃん、タクミが元気になるまでもう一回乗ろう!」
「えっ」
アキラとリンを見送り、タクミはベンチに座って休憩する。
「…………」
ふと、空を見上げる。周りからは楽しげな声が聞こえる。
折角の遊園地で出鼻をくじかれた気分だが、こういう事もある。気にする事は無いだろう。
そう自分に言い聞かせ、回復に専念していると──
「……お、タクミじゃねぇか!」
「!」
声がした方を向くと、そこにはシーザーがいた。
「奇遇だな、こんなとこで会えるなんてよ」
「シーザー……お前も来てたんだな」
「ああ、実はこないだパイパーがニューススクラッチで遊園地のチケットを当てたんだよ」
パイパーが貰ったのは一枚で二人分の入場チケット三枚分。
折角なのでカリュドーンの子のメンバーで遊園地に遊びに行くことにしたらしい。
「他の人は?」
「今は自由行動だな、皆行きたい場所に行ってると思うぜ。オレ様も、なんか刺激的なアトラクションはねぇかなって探してたとこなんだよな〜」
「刺激的ね……」
「……そうだ! なあタクミ、一緒にあそこのジェットコースター乗らねぇか!?」
「えっ」
シーザーは乗り気な様子でタクミが先程乗ったジェットコースターを指さした。
「ちょ……ちょっと待てシーザー、誘ってくれんのは嬉しいけど俺さっきアレに乗ったんだよ。しかもそのせいで今めっちゃ気分悪くてさ……」
「え、そうなのか? ……あー、道理でなんかいつもより顔色悪いわけだ」
「そう。だから今ちょっと休憩してる」
「んー……あ、良いこと思いついたぜ!」
「?」
彼女は今度は別の方向を指差す。そこにあったのは……お化け屋敷。
それを見たタクミはただでさえ悪い顔色を一層悪くさせた。
「お化け屋敷、一緒に行ってみねぇか?」
「な、なんでだよ! なんでわざわざあそこに!?」
「お化け屋敷に入って恐怖を味わえば、乗り物酔いも解消できる気がするんだよな」
お化け屋敷特有の冷たくゾワっとした空気。それが乗り物酔いにも効くのではないかとシーザーは考えたのだ。
「い、いや……んな事しなくてもここで休憩してるから……」
「折角の遊園地だぜ? どうせなら楽しもうじゃねぇか。ほら、行こうぜ!」
「うわっ、ちょっ……」
シーザーに引っ張られ、タクミはお化け屋敷へと連れていかれる。
抵抗もできないので、せめて兄と姉に『お化け屋敷に行ってくる』とメッセージを送ることにした。
「……な、なあタクミ」
「なんですかシーザーさん……」
「ちょっと……ち、近すぎねぇか?」
「えっ、い……いや、別に普通だろこのくらい」
無意識のうちに、タクミはシーザーに触れるか触れないかレベルの距離まで近づいている。
そのせいでシーザーは別の意味で動悸が収まらなかった。
「がぁああああああ!!」
「わぁああああああ!!!」
「うおわっ!? ちょ、タクミ……!!」
突如襲い来る怪異。
どんなに警戒しても無意味なジャンプスケアには抗うすべもなく、タクミは悲鳴を上げシーザーに抱きついた。無意識に。
もう一度言おう、無意識にだ。
(遊園地のお化け屋敷レベル高すぎ……! なんでこんな怖いんだよ……!!)
「…………!!」
タクミは勿論だが、シーザーの方も内心穏やかではなかった。
幽霊が飛び出てくる度に(無意識に)密着してくるのだ。
しかし指摘するのはお互いにとって宜しくないと考え、シーザーはあえて黙ることにした。
「ヤバい……マジでヤバかった」
「…………そうだな。動悸が止まんねぇ」
「な、なんだよ……シーザーも怖かったのか?」
「何言ってんだよ、お前のせいだからなこれ……」
「え?」
そんな会話しながらお化け屋敷を出ると、外のベンチにアキラとリン……それとライトがいた。
「あ、帰ってきた!」
「お疲れ」
「おお、ライトか……それにアキラとリンも」
「ライトさんもお化け屋敷に?」
「いや、俺は大将を連れ戻しに来ただけだ。ルーシーからそうするよう言われてな」
「ん? ああ、ホントだ……スマホに通知が──うわ、なんかすげぇメッセージ送ってきてるなアイツ……」
「それじゃここでお別れだね。またね、二人共!」
「ああ」
いつの間にか乗り物酔いも回復し、改めて遊園地を回ることにした。
「…………なあ、ライト」
「ん?」
「"吊り橋効果"ってああ言う感じなのか?」
「急になんだ」
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様々なアトラクションに乗り、次は何に乗るかを決めかねていたところ……
ちょうど近くにあるお土産を売っているお店が目に入った。
「……なあ、師匠たちにお土産買ってかないか?」
「いいね。そこのお店で買うのかい?」
「ああ」
雲嶽山の皆に渡すお土産を買うため、三人はお土産店へと入ろうとする。
その時。
「……?」
「…………」
店前にいた白いうさぎの着ぐるみが、じっとこちらを見ている事に気がついた。
その白いうさぎは、目が合うとこちらに手を振ってきた。
タクミも手を振り返す。
(この着ぐるみ、なんのキャラだっけ……ここのマスコットか────って、え!?)
考えているうちに、何故か着ぐるみがタクミの至近距離まで接近していた。
「え、え……!?」
「…………」
困惑しているタクミを他所に、白うさぎの着ぐるみは何も言わないまま手を広げ……そのままタクミをぎゅっと抱きしめ始めた。
(抱きついてきた……!? 何、最近の着ぐるみって向こうからハグしに来てくれんの……?)
そんなことを考えていると、遠くから黒猫の着ぐるみがこちらへと走って来ているのに気がついた。
「…………!!」
「…………!」
(!?)
何をするかと思えば、黒猫の着ぐるみは白うさぎの着ぐるみを乱暴に手で押しのけ、タクミから引き剥がす。
そして黒猫着ぐるみは先程白うさぎがやっていたようにタクミをハグし始めた。
(いやいや何だよこれ! どういう事だ!?)
「…………♪」
黒猫の妙に力が強いハグを受けていると、白うさぎが仕返しと言わんばかりに黒猫を押しのける。
そして何故か始まる二体の着ぐるみの小競り合い。
(争ってる……!? 何だこれ、エンタメ!?)
あまりにイレギュラーな光景に唖然としていると、またしても遠くから着ぐるみがやって来た。
ピンク色のうさぎの着ぐるみは、争っていた二体の着ぐるみの首根っこを掴み、そのままどこかへと連れ帰って行ってしまった。
「…………なんだったんだ」