気を取り直し、店内でお土産を選ぶ。
色々なものが売店にはあるが、やはり一番の定番はあれだろう。
「ねぇ、タクミは何選んだの?」
「俺は……菓子折りかな。姉ちゃんは?」
「私はね……ぬいぐるみ!」
「ぬいぐるみ?」
「うん、適当観に飾ったら……なんか良い感じになりそうかなって!」
確かに、今の適当観を少しでも賑やかにするには必要なものかもしれない。
「まあ、師匠さえ良ければ……だけどね。お兄ちゃんは何を選んだの?」
「僕は……食器にするよ」
アキラが選んだのはこの遊園地のマスコットキャラクターが描かれた皿やフォークなど。
「別に食器が足りていない訳では無いけど、多いに越したことは無いはずだ……多分」
「喜んでくれると良いんだけどな……なんか急に不安になってきた」
「うーん、それは私も思ったけど……まあ、大丈夫でしょ!」
儀玄は『お前さん達がくれるものなら何でも嬉しい』と言っていたが、だからと言って適当に選んで良い訳ではない。
菓子の種類、ぬいぐるみの種類、食器のデザインなど……なるべく彼女らの好みに合うよう選んだつもりだが、気に入ってくれるかは分からない。
まあ、土産とはそういうものだ。割り切った三人は会計へと進む事にした。
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店を出たあと、引き続き遊園地を回っていると、再び見知った顔に出会う。
「やっほ」
「こ、こんにちは!」
「やあ、エレン、カリン。奇遇だね」
二人はいつものメイド服ではなく、カジュアルな服装をしていた。
「二人もここに遊びに?」
「そ。リナがさ、スーパーのくじ引きで二人分の遊園地の無料券当てたんだよね」
「それで、ライカンさんが私とエレンさんにお休みをくれたんです。『たまには二人で羽を伸ばしてきなさい』って言われて……」
「あ、そうだ。アンタたちも一緒にアトラクション乗る?」
「いいよ! 何にする?」
「んー……それは決めてないんだよね。カリンちゃんは何がいい?」
「えっ!? え、えーと……」
カリンは手に持ってあるパンフレットをしばらく見た後、とある箇所に指を差した。
「か……カリン、メリーゴーランドに乗ってみたいです……!」
「良いじゃん。あたしもこれに賛成」
「よし、なら決まりだな。そこに行こうぜ」
「あれ……でもタクミ、良いのかい? またさっきみたいに気分が悪くなるかもしれないよ」
「大丈夫だよ。さすがにメリーゴーランドじゃ酔わないって」
「た、タクミ様! 大丈夫ですか……!?」
「チクショウ……! メリーゴーランドにはもう乗らない……!!」
「だから言ったのに……」
ジェットコースターよりもスピードが緩やかだからと高を括っていたらこのザマである。
思ったよりもスピードが出るし、思ったよりも揺れるしで、酔うには十分過ぎるほどの乗り心地だった。
「あぅぅ……申し訳ございません……! カリンがメリーゴーランドに乗ろうと提案したばっかりに……!」
「カリンが謝る事じゃない……三半規管がクソザコな俺が悪いんだ……」
思えば以前ビビアンと一緒にモーターボートに乗った時もかなり気分が悪くなっていた記憶がある。
「えーっと……これからどうする? 一人ダウンしちゃったけど」
「ごめん……俺の事は気にしないでみんなで楽しんできて……」
「またお化け屋敷行く?」
「行くわけねぇ!!」
今度は普通にベンチで座って休む事にする。タクミが遊園地で楽しめるアトラクションは、最早ゴーカートぐらいしかないのかもしれない。
(そうだ……自販機で飲み物買おう。なんか飲んだら気分良くなるかも……)
そう思ったタクミは自販機を探すため、ベンチを立とうとする。すると……
「……?」
「……」
いつの間にか隣に座っていた見知らぬ女性と目が合った。
灰色の瞳に、白い服。その女性はタクミを見つめたまま一言も喋らない。
「……えと、俺に何か……?」
「…………」
(誰だ、この人……てかなんでさっきから何も喋んないんだ……?)
どうすればいいか迷っていると、女性はいきなり立ち上がり、そのままどこかへ歩き出す。
そして立ち止まって振り返り、タクミに向かって手招きし始めた。
「…………」
「……こっちに来いって?」
タクミもベンチから立ち、彼女の後を着いていくことにした。
(……あれ? なんで俺、なんの疑問もなく知らない人に着いて行ってるんだ……?)
(まあ、いっか)
タクミは女性にひたすら着いていく。彼女がどこに向かうのか、見当もつかなかった。
それにも関わらず、タクミは着いていく事をやめなかった。
やがて二人は、とある場所にたどり着く。
「…………観覧車?」
「…………」
「え、ちょっと」
周りには誰もいない。行列はなく、それどころか係員の一人もいない。
女性は空いているゴンドラに入り、再びタクミに向かって手招きをする。
「…………」
「…………」
タクミは彼女の行動に疑問を抱くこともなく、同じゴンドラに入り、女性の向かい側に座る。
そしてゴンドラに入って間もなく、ひとりでに動き出す観覧車。
「高いな……」
「…………」
次第に小さくなっていく景色。それに見とれていると……女性がいつの間にか隣に座っていることに気がついた。
「…………?」
「…………」
女性は至近距離まで顔を近づける。タクミは何故か、目を逸らすことができなかった。
そして彼女はタクミの両頬に手を添え──
にこりとわらった
『タクミ!!』
「えっ」
聞き覚えのある声が聞こえ、タクミは我に返る。直後、窓から眩い光が差し込んできた。
窓の外にいたのは──儀玄だった。
「!? 師匠、なんでここに……!?」
「……っ!」
儀玄は彼の問いには答えず、無理やりゴンドラの扉を破壊し、タクミを抱きかかえる。
「えっ!? ちょっ──」
儀玄は黒い翼を広げ、そのままタクミをゴンドラの外へと引きずり出した。
瞬間、タクミの視界が一面真っ白となっていく。
「……!!」
「あっ! タクミくん!!」
「え、福福先輩……?」
目が覚めるなり視界に入ったのは、すっかり見慣れた姉弟子の顔。
「ようやく目を覚ましたか……」
「師匠も……なんでここに」
「私が呼んだの。戻ってきたらすっごいうなされてたんだよ? 心配したんだから……」
どうやら自分は寝ていたらしい。上体を起こすと、アキラとリンも心配そうな顔でこちらを見ていた。
タクミは先程までの記憶を必死に呼び起こす。
「……さっきまで乗ってた観覧車は……?」
「……観覧車だと?」
「観覧車? タクミ、今日観覧車は乗ってないでしょ?」
「え……えぇ……? まさか夢?」
「夢って、何の夢を見たんだい?」
タクミは先程自分の身に起こった事を皆に説明する。
「……白い服の女に、か。どうやら、ただ悪夢にうなされていたわけではないようだな」
「何かの怪異に魂を連れていかれそうになった、とか……?」
「私は霊媒師じゃないから詳しい事は知らん。ただ、術法で叩き起こすのがもう少し遅かったら、結構危なかったかもしれんな」
「全く……貴方は心配ばっかりかけて! 今度からは、知らない女の人に着いてっちゃいけませんよっ!」
「いやそれは……す、すいません」
小学生みたいなこと言われたが、ぐうの音も出ない。それに自分でも何故着いて行ったのかが分からない。
というか、身の毛がよだつような体験をしたのに、イマイチその実感が湧かなかった。
「まあ、話を聞く限り今回は巻き込まれちゃったって感じみたいですし、許してあげますっ。それじゃ、行きましょう! 今度は私も一緒に遊びますっ!」
「福福先輩?」
「どうしました?」
「なんで手を繋ぐんだ」
「勿論はぐれない為ですよ?」
「いや、そこまでする必要は」
「ありますよっ! あ、そんなに心配なら腕を組みましょうか!」
「ちょっと!?」
有無を言わさずタクミの片腕にがっちり抱きつく福福。そしてご満悦な表情を浮かべる。
「えへへ……あれ、タクミくんどうしました?」
「いや……だから、別に腕を組む必要は……つーか、なんかさっきから視線を感じるんだけど」
「「…………」」
(さっきの着ぐるみだ……!!)
怪異よりも何倍も怖く感じた。