ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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アリス・タイムフィールド

 

 

 

 

 

ルクローとフェロクスの挨拶も終わり、再び会場が話し声で賑わい始める。

 

ダミアンと別れたあと、会場にいる安全調査に参加する専門家やTOPSの人間たちの話をこっそり聞いた。

 

彼らの会話から察するに……やはりポーセルメックスは衛非地区の安全よりも、輝磁の生産を立て直すことが第一なようだ。

 

 

「……この晩餐会も、上の人間の面子を立てるために催されたと考えるべきかもしれないね」

 

「だね。この先どうなるか……ま、今はそれよりも折角のご馳走だし、有難くいただいちゃおうよ!」

 

「確かに、俺も腹減ったな……早く行こう」

 

 

タクミ達も料理を注文すべく、案内されていた席へと向かう。

 

周りのテーブルに置かれている料理を見れば、飲茶仙で食べれられる料理や、見たことの無いものまで揃っている。

 

 

「うわぁ〜色々あるね……! 何にしようかなぁ」

 

「あれ……そう言えば潘さんは?」

 

「潘さんならあそこにいるよ。僕達が話している間に、色々な品を注文してたみたいだね」

 

「ホントだ、すげー量だな……」

 

 

アキラが指を差した方向、潘が座っている席のテーブルには既に大量の料理が置かれていた。

 

その中には、持ち帰りをするのか一部パックに入っている料理もあった。

 

恐らく福福や儀玄の為に持ち帰る料理なのだろう。

 

 

 

 

 

 

タクミ達も、とりあえず自分達が食べる分の料理を注文する為に席へと向かう。

 

 

「うわっ!」

 

「きゃっ……!」

 

 

歩いている途中に、誰かとぶつかってしまった。

 

 

「っと……すみません」

 

「い……いえ、お気になさらず」

 

 

ぶつかってしまった兎のシリオンの少女は、会釈をするとそのまま去っていくが……タクミは彼女のものであろう名札が床に落ちているのに気がついた。

 

今先程、ぶつかった拍子に落としてしまったのだろう。

 

名札を見る限り……彼女は調査監督チームの人間のようだ。

 

 

「あの、落としましたよ!」

 

「!」

 

 

名札を拾い、声をかけるとその少女は振り返ってこちらに戻ってきた。

 

 

「親切にどうもありがとう。助かっ──」

 

「?」

 

「…………」

 

 

少女はタクミの顔を見るなり、なぜか固まってしまった。固まらせてしまうようなことはしていないはずなのだが。

 

 

「あの……どうしましたか?」

 

「…………」

 

「ちょっと?」

 

「──はっ! な、なんでもないのだわ! ごめんあそばせ……!」

 

 

タクミの声で我に返った少女は、名札を受け取ると慌ててその場を後にして行った。

 

 

「タクミ、どうしたんだ? さっきの人は?」

 

「いや……分かんない」

 

「なんか慌ててたけど……もしかしてタクミ、フラれた?」

 

「妙な言い方すんなよ……初対面だって」

 

 

先程少女はタクミの顔を見て固まっていたが……その様子にタクミはなにかが引っかかっていた。

 

彼女の視線が……何やら少し『ズレていた』気がした。なんというか、タクミの顔ではない何処かを見ていた気がしたのだ。

 

 

まあ、いくら気にしても仕方がないだろう。タクミは何の料理を食べるかに思考を切り替える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晩餐会も終わり、適当観に戻ったタクミ達。

 

夜も更け、いざ寝ようとした時に……異変が起きる。

 

 

(眠れない……)

 

 

眠れない原因は心当たりが一つある。晩餐会で食べ過ぎた事だ。

 

晩餐会の料理はどれも絶品で、思わず箸が進んでしまったのだ。

 

そのせいで眠れなくなってしまった。自業自得と言えばそこまでだが、美味しかったのだから仕方がない。

 

 

(……散歩に行くか)

 

 

少し体を動かせば気持ちよく眠れるかもしれない。そう思ったタクミは、澄輝坪を散歩する事にした。

 

部屋を出て、正門前まで向かう。すると──

 

 

ドンドンドンドン!!

 

「!?!?!?」

 

 

いきなり正門から大きなノック音が聞こえ、ビビり散らかしてしまう。

 

タクミはいきなりの事態にどうする事もできない。すると門の外から、声が聞こえた。

 

 

「お願い開けて!! 開けて欲しいのだわ!!」

 

「えっ」

 

 

その声は聞き覚えのあるものだった。晩餐会で出会った、兎のシリオンの少女の声だ。

 

今の彼女の声は切羽詰まっている。何かを恐れているような、そんな声だ。

 

 

「…………」

 

 

何がなんだか分からないが、助けを求めていることは確かだ。意を決し、ひとまず門を開けてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けて欲しいのだわ!!」

 

「あああああああ!!!」

 

 

門を開けてコンマ数秒後、物凄い勢いで兎の少女が縋り付くように抱き締めてきた。

 

 

「雲嶽山の先生さっき部屋で窓の外からバンとかドンとか聞こえてきて見てみたら左にきっかり22度傾いている光る物体が窓の外にあって助けて欲しいのだわ嘘じゃないのだわ本当なのだわタイムフィールド家の名にちかって」

 

「おちついて!! おちついてください!!」

 

 

パニック状態の少女をなんとかして落ち着かせるタクミ。冷静さを取り戻した少女はゆっくり立ち上がる。

 

 

「ご……ごめんなさい、取り乱してしまい──ってあら? 貴方は、晩餐会の時の……」

 

(今気づいたのか……顔も見えないほどパニクってたのか?)

 

「なんだぁ……? なんの騒ぎだ……?」

 

 

騒ぎを聞きつけ、潘、アキラ、リンの三人も起きてきた。

 

 

「……あれ? タクミ、その人……見間違いじゃなければ晩餐会で会った人みたいだけど、どうかしたの?」

 

「えっ、タクミ? ええと、貴方が……タクミ、さん?」

 

「は……はい」

 

 

少女は『タクミ』という名前を聞いたあと、しばらく考え込み、ハッとした表情を浮かべる。

 

 

「という事は……そちらのお二人が、アキラさんとリンさん?」

 

「まあ、そういう事になるね」

 

「よ、良かったのだわ……実は私の友人から、貴方がたのお名前を聞いていて……何かあった時、助けになってくれると」

 

 

適当観を訪ねてきた兎のシリオンの少女──アリス・タイムフィールド。

 

タイムフィールド家の一人娘である彼女は、病気である祖父の代わりに調査監督チームに参加する事になっているらしい。

 

そしてアリス曰く、彼女にタクミ達の事を教えたのはルーシーで、二人はセレスティア女学院の同級生なのだそうだ。

 

 

彼女から改めて事情を聞く。どうやら先程、寝泊まりしていた部屋で、謎の光る未確認物体が窓に張り付いていたらしい。

 

 

「真夜中では、ポーセルメックスのスタッフに頼る事もできない……かと言って、昼間にその事を話しても荒唐無稽な怪談の類として一蹴されてしまうのだわ」

 

「うーん、窓の外に謎の光る物体か……お嬢さんのさっきの慌てぶりを見るに、嘘って訳じゃなさそうだな」

 

「ええ、なのでタクミさん達にはその未確認物体について、是非とも真実を究明していただきたいのだわ!」

 

「えっ」

 

「お金の事なら心配しなくても大丈夫。希望される額を、きっちりお支払いするのだわ」

 

 

とんでもない事を頼まれている。アリスのこの感じからして、でっち上げでないことは確か。

 

つまり、本当に怪異が存在するかもしれないという事だ。いくら報酬を支払うとはいえ、少し戸惑ってしまう。

 

リン達は顔を見合わせる。

 

 

「……タイムフィールドさん。貴女の助けになりたいのは山々だけど……ルーシーから聞いての通り、私とお兄ちゃんはプロキシなの。怪異の類に関しては、力になれないかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもここに! ピッタリの人材がいます!!」

 

 

「!?!?!?」

 

背中をバン! と叩き、タクミを指名するリン。当然タクミは驚愕した。

 

 

「本当に!?」

 

「うん! 私の弟はね、怪異退治にも精通してるの! だからきっと、貴女の力になれると思うな!」

 

「……!! ありがとう、タクミさん!」

 

(何言ってんだ姉ちゃん!!!)

 

 

タクミはリンをぐいっと引っ張り、アリスの聞こえないところで彼女に詰め寄る。

 

 

「おい何考えてんだ! なんで俺を売ったんだ!!」

 

「ごめんごめん! 大丈夫だよ、こっちもちゃんとサポートするから!」

 

「そういう問題じゃねぇ! てか姉ちゃんが行けば良いだろ!」

 

「いやいや、こういう時のタクミでしょ? フィジカル末っ子!」

 

「変な呼び方すんな!」

 

「タクミさん? どうしたのかしら?」

 

「!」

 

 

なんとか理由をつけて断りたいが……アリスがこちらを希望溢れる眼差しで見つめている。

 

そういう目で見られては、断るに断れない。

 

 

「…………分かりました。それじゃ明日、原因を調査します」

 

「本当にありがとう……! それでは明日、よろしくお願いするのだわ!」

 

「…………」

 

 

アリスに両手を握られ、感謝の言葉を送られる。こうなってはもう後には引けないだろう。

 

彼女の言う『怪異』が杞憂であることを願うばかりだ。

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