ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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怪異の正体

 

 

 

 

 

翌日の朝。

 

支度をして適当観の外庭に行くと、既にアリスが待っていた。

 

 

「おはよう。昨夜は突然押しかけたにも関わらず泊めていただき、本当に感謝しているのだわ」

 

「礼なら兄ちゃん達に言ってください。タイムフィールドさんが何事もなくて何よりです」

 

「…………あの、タクミさん」

 

「?」

 

「実は昨日、アキラとリンから貴方の事を聞いて……私と貴方は同年代だと教えてもらったのだわ。だからその……私の事は、気安くアリスと呼んで欲しいのだわ」

 

「良いんですか?」

 

「勿論。それと、敬語で話さなくて貰っても結構なのだわ」

 

「…………分かった。それなら、俺の事も呼び捨てでいいよ」

 

 

確かに、年上相手ならともかくほぼ同い年相手に敬語を使う必要はないだろう。

 

さりげなくアキラとリンを呼び捨てにしていたのも、昨晩二人に『呼び捨てでいい』と言われていたからなのかもしれない。

 

 

(兄ちゃんも姉ちゃんも、距離を詰める時はすげー勢いで詰めてくるからな……あんな感じだと、いつか誰か勘違いさせんじゃないか?)

 

「それでは今日一日、よろしくお願いするのだわ!」

 

「ああ、よろしく」

 

 

二人は早速、昨夜起きた怪奇現象について調査しに行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

適当観を出た後、澄輝坪にて。

 

 

「それじゃあまず、アリスが泊まってた場所辺りを調べてみるぞ」

 

「…………」

 

「……アリス? どうした?」

 

「──あっ、い……いいえ、なんでもないのだわ」

 

 

またしてもアリスは、タクミを見たままぼーっとしていた。

 

晩餐会の時も、何かを見つめるようにタクミのことを見ていた。

 

 

「どうする? 一回アリスが泊まってた部屋に入って、原因を調べてみるか?」

 

「……! え、ええと……私は……」

 

「……なあ、アリス。俺の顔になんか付いてる?」

 

「い……いえ、そんな事は……ないのだけれど……」

 

「なんか気になるところがあるなら言ってくれ。俺、そこ直すからさ」

 

「!」

 

 

タクミの言葉を聞いたアリスは、少しの間葛藤の表情を見せたが……やがてそれは何かを決心したような表情に変わった。

 

 

「分かったのだわ……それなら、遠慮なく──!」

 

「えっ、えっ??」

 

 

アリスは突然タクミに至近距離まで近づき、肩をがっしりと掴む。

 

彼女の顔は、真剣だった。

 

 

「じっとしていて、タクミ。すぐに終わらせるのだわ」

 

「え、何を? 何をするつもりなんだ」

 

「大丈夫、痛くしないのだわ」

 

「痛くしないって何が!?」

 

 

アリスはその問いには答えず、ゆっくりとタクミの頭の左側へと手を伸ばし──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そのままハンバーガーのヘアクリップを取り外した。

 

 

「…………?」

 

 

衛非地区に向かう前に、アンビーから貰ったハンバーガーのヘアクリップ。

 

タクミはそれをずっと横髪に付けていたのだが……なぜかアリスは、それを取り外した。

 

 

「少し待っていて」

 

「??」

 

 

アリスはヘアゴムを取り出し、それを使ってタクミの後ろ髪をくくり、器用な手つきで一本結びにする。

 

そしてヘアゴムで結んだ部分をハンバーガーのヘアクリップで隠すように取り付けた。

 

 

「ふう……これで幾分かマシになったのだわ」

 

「あの、アリス……これは何を」

 

「……あっ、ご……ごめんあそばせ。やっぱり迷惑だったかしら……?」

 

「別に迷惑じゃないんだけどさ……いきなり髪をいじった理由が知りたくて」

 

「じ、実は……」

 

 

実はアリスは、非対称──アシンメトリーなものを目にすると、矯正せずにはいられないほどにシンメトリーにこだわりがあるのだそうだ。

 

彼女のそれは日常生活に影響を及ぼすレベルの『シンメトリー厨』ってぷりであり、なんならお化けよりアシンメトリーなものの方が怖いと言うレベル。

 

 

「晩餐会の時から、貴方の()()()()にだけ付けていたその髪飾りが気になって仕方なくて……でも! これでもう先程よりかは気にならなくなったのだわ!」

 

「な、なるほど……」

 

「あ、シンメトリーの話をしていたら、街の色々なものが気になって仕方がなくなって来たのだわ……見て、あのお店の看板……! なんて恐ろしい非対称っぷり……!!」

 

「……アリス。今はとりあえず怪奇現象の調査だ」

 

「あっ、そ……そうだったのだわ。私とした事が……」

 

 

気を取り直し、引き続き調査を進めていく。

 

アリスは昨晩、部屋の窓から『バン』と小さな音を聞いた。そして直後、同じ箇所から今度は『ドン』と大きな音が聞こえたらしい。

 

怪訝に思った彼女がカーテンを開ければ、『22度』左に傾いた、窓を覆い尽くすほどの大きな黒い影とともに光るガイコツが現れた。

 

その後、影とガイコツは跡形もなく消えたという。

 

 

二人はひとまず、宿泊した場所の外側から調べていくことにした。

 

 

「? これ……植木鉢か」

 

「昨日の夕方はなかったはずなのだわ。どうしてこんなに散らかって……あ、あそこ!」

 

 

アリスが指差したのは建物の二階のベランダ。そこに、同じ植木鉢が置いてある。

 

どうやら散らかっている植木鉢は、あそこから落ちてきたもののようだ。

 

 

「そういえば……22度の影とガイコツが消えたすぐ後に……下の方から何かが割れる音がしたのだわ。きっと、植木鉢が落ちた音だったのだわ」

 

「って事は……ガイコツは植木鉢と一緒に落ちたってことか」

 

 

植木鉢が置かれているベランダの部屋が、アリスの泊まっていた部屋より下の場所である事を考えるに、間違いはないだろう。

 

更に気になったのは、植木鉢と少し離れた場所で崩れていた飲料のケース。

 

 

「この飲料のケース……落ちてきた植木鉢に当たって、こうして崩れたのだろうけれど……どうして一つだけ離れた場所にあるのかしら?」

 

「……ちょっと待て。なんかケースの下にあるぞ」

 

 

タクミは落ちていた飲料のケースをどける。するとそこには、小動物のものらしき足跡が。

 

 

「足跡……なんでこんなにハッキリと……」

 

「これは……蛍光塗料なのだわ──あっ! この色、昨晩見たガイコツのものと同じ色なのだわ!」

 

「え、じゃあガイコツの正体って……小動物なのか?」

 

「うーん、その小動物は宿泊棟の雨どいを登って来たということかしら?……けどそれなら、宿泊棟の壁にも足跡があるはずなのだわ」

 

 

言われてみれば、確かに建物の壁に足跡らしきものはない。

 

という事は、小動物は建物を登る以外の方法で部屋の窓に来たということになる。

 

もう一度宿泊棟の場所を確認してみると……付近の工事現場に、タワークレーンがあるのが見えた。

 

タワークレーンは今、窓ぐらいの大きさの貨物をぶら下げている。

 

 

「……あ、もしかして」

 

「何か分かったのかしら?」

 

「タワークレーンだよ。その動物……タワークレーンの貨物に乗って来たんじゃねーか?」

 

 

動物は何かしらの方法でタワークレーンの貨物に乗ってアリスの部屋の窓までたどり着いたのだ。

 

突然現れたあと、なぜか跡形もなく消えたのもそれが理由だろう。

 

 

「つまり、黒い影の正体はその貨物……22度傾いていたのは、きっとタワークレーンの荷造りの索が切れていたからという事になるのだわ……!」

 

 

窓から『バン』という音がしたのも、貨物が傾き窓にぶつかったせい。

 

ぶつかった拍子にその動物は貨物から落ち、慌てて逃走していくうちに植木鉢と共に落下。

 

そして建物の下に置かれてあった飲料のケースの所に着地。

 

その時、偶然にもケースが動物の上に檻のように被さる形となり、動物は脱出するために動き回ったのだろう。

 

だから飲料のケースが一つだけ離れた場所に落ちていたというわけだ。

 

 

そしていちばん重要なのが……その動物の正体。

 

幽霊の類ではないのなら、ガイコツの絵が描かれた服を着ていた動物だという可能性が高いが──

 

 

「動物が自分でそんな服を着られるわけがない……誰かが着せたんだろうな」

 

「つまり……飼い主がその子をけしかけてイタズラをしたという事なのだわ! なんて酷いことを……!」

 

 

とにかく、真犯人は誰かのペットなのだろうという事が判明した。

 

蛍光塗料の足跡を辿り、後を追って行く。

 

 

「それにしても服を着た動物……一体どの子の事なのかしら」

 

「……あ、そうだ。そういや少し前に、変な動物と会ったんだよな」

 

「変な動物?」

 

「ああ、夜に出くわしてさ。学帽被ってて、すげーすばしっこかったんだよ。狸……だったかな、分かんないけど」

 

「狸……もしかして、あそこにいる子かしら?」

 

「あーそうそう、あんな感じの──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………え?」」

 

「…………」

 

 

たまたま近くを通りがかった、学帽を被った狸らしき動物と目が合う。

 

蛍光塗料のものと瓜二つな足跡を残し、トテトテと歩いていた。

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