ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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浮波柚葉

 

 

 

 

 

「待てっ!!」

 

 

澄輝坪の街中を、二人の男女が駆けていく。

 

人混みを避けながら走るタクミとアリスの視線の先には、学帽を被った狸らしき小動物がすばしっこい動きで逃げ回っている。

 

 

「良い子だから、止まりなさいっ!」

 

「…………!」

 

 

アリスはそう呼びかけるが、当然聞き入れてくれるはずもなく、小動物は通り行く人々の足の間を器用にすり抜けていく。

 

人がいるなか、全速力を出すこともできないため中々追いつくことが出来ない。

 

そして──

 

 

「あっ! た、建物の中に入ってしまうのだわ!」

 

「この……! 逃がすか────うわっ!?」

 

「タクミ!?」

 

 

走っていく小動物の方しか見ていなかったせいで、巨大な壁のような何かに勢いよくぶつかってしまった。

 

顔から衝突し、鼻を抑えてしゃがみ込むタクミ。

 

 

「タクミ、大丈夫!?」

 

「誰だ、危ねぇだろ……気ぃつけろ」

 

「す……すいません、よそ見してて──ってあれ? 真斗?」

 

「……あ?」

 

 

その『何か』は振り向くと、タクミにとって見覚えのある顔を見せた。

 

かつてポーセルメックスの件で知り合った真斗だった。

 

 

「お前、誰かと思ったら……タクミじゃねぇか。なんだ、ウチの店に用があんのか?」

 

「っ! そうだ真斗! さっき狸みたいな動物がそこの店に入ってってたんだ!」

 

「狸? ……そういう事か」

 

 

真斗はタクミの言葉に納得したような表情をすると、店に向かって呼びかける。

 

 

「おい柚葉! お前またイタズラしたろ!」

 

「え〜? 早いね、もうバレちゃった?」

 

 

真斗の声に応えるように、店の奥から別の声が聞こえてきた。

 

そしてすぐに、その声の主であろう柚葉と呼ばれた赤髪の少女が姿を表した。

 

彼女の肩には、先程追いかけ回した狸らしき動物も乗っている。

 

 

「……っ、貴女が……その子の飼い主ということでよろしくて?」

 

「飼い主? 違うよ?」

 

「へ? そうだったの……? 私ったら、早とちりでとんだ勘違いを……」

 

 

飼い主ではなかったことを知り、アリスは自身の非を素直に詫びる。

 

 

「この子……かまちーって言うんだけど、ペットとかじゃなくて、柚葉達の仲間なの」

 

「そう、仲間だったのね……って、結局けしかけたのは貴女じゃない!」

 

「っ、あはは! いい反応するじゃん、お嬢様!」

 

「か、からかわないでちょうだい! 昨夜は、貴女達のイタズラのせいで大変な目にあったんだから!」

 

「まあそう怒らないでよ。本日は"奇々怪々"にどんなご用ですか〜? 澄輝坪でも名高い工芸品ショップですよ〜! ここでしか手に入らない商品だってあるんだよ?」

 

「そ……そうなの? それなら……って、お買い物に来た訳でもないのだわ!」

 

 

先程からアリスが柚葉にいいようにされている。ここは同行者として、助け舟を出さないといけない。

 

 

「あの……ちょっといいすか」

 

「んー? あ、君もしかして適当観で見習いやってるタクミって子でしょ?」

 

「そうです。友達のアリスが昨晩、そこのかまちーって子に脅かされたって聞いて──」

 

「まあまあ、積もる話は後にしない? ここはお近づきの印として……はい、ガムどうぞ!」

 

「え……マジすか、あざーす」

 

 

タクミは素直に差し出されたガムを手に取る──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その瞬間、ケースからGが出てきた。

 

 

「うわぁぁあああ!!」

 

 

「タクミ!?」

 

「あっはは! 君も凄い良い反応するじゃん!」

 

「なんでそんな素直に受け取るんだよタクミ……つーか柚葉! そろそろ真面目に取り合え!」

 

「はいはい。でもさ、イタズラされたって言うけど……柚葉達はあくまで仕(・)返(・)し(・)でイタズラをしただけだよ?」

 

「仕返し……? どういう事?」

 

「だって安全調査に出向く調査監督チームの中に、貴女みたいな何も知らないタイムフィールド家のお嬢様が紛れ込んでるんだよ? タチの悪い冗談にしか聞こえないな〜」

 

「っ!」

 

「おい柚葉……!」

 

 

柚葉の言葉に、アリスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

確かにポーセルメックスの安全調査は面子や体裁ばかりで、衛非地区の住民が心から安心できるようなものではない。

 

それは晩餐会の時に十分わかった。しかし、それは何もアリスが頼りないからではない。

 

そう思ったタクミはアリスを庇おうとするが……そうする前にアリスが口を開いた。

 

 

「……確かに、私は調査監督チームとしては、私はまだ未熟。この体たらくでは、住民の皆さんが安心できないのも当然なのだわ」

 

「…………」

 

「! おいアリス、卑下する必要は──」

 

「けど、浮波さん。何も知らない……ということだけは、撤回していただいても?」

 

「?」

 

「タイムフィールド家は代々、エーテル産業に従事してきた学者の系譜……私も幼い頃から、家庭教育でホロウとエーテルの知識を体系的に学んできたの!」

 

「! 急にどうしちゃったの……? 真斗みたいな不思議ちゃんっぷりだね」

 

「なんでオレが不思議ちゃんになんだよ……!」

 

 

アリスは自分に自身がなさげな様子ではあったが、タイムフィールド家の人間である事には誇りを持っているようだ。

 

 

「まあ……分かった。何も知らないって言った事は撤回するよ。イタズラの事もごめんね」

 

「い、いえ……そう言っていただけて感謝するのだわ」

 

「それにしても貴女……お勉強には随分自信があるみたいだね? それじゃあさ、このへんてこ輝磁の欠片はなんなのか、分かる?」

 

 

そう言って柚葉は、ポケットから輝磁の欠片を取りだし、アリス達に見せる。

 

彼女が見せた欠片は……パッと見た限り、何かの装置が欠けた時の破片のように見える。

 

 

「あら? これは、『オブスキュラ』の一部なのだわ」

 

 

アリスは欠片を一目見て、それが何なのかを言い当てた。

 

 

「オブスキュラ? オブスキュラってなんだ?」

 

「オブスキュラとは、高純度の輝磁を外殻に使った実験用反応器の一種の事なのだわ」

 

 

エーテル物質をオブスキュラに入れると、輝磁特有の性質により徐々に空気と接触させる事ができる。

 

これを使い、研究者たちはエーテルがホロウを離れた後の経過を観察できるのだそうだ。

 

 

「高価な実験機材ではあるけれど……特段変なものではないと思うわ。表層にコーティングがないのを見るに、きっと製造過程で割れてしまったものなのでしょうね」

 

「なるほど……ふふん、どう真斗? 柚葉の勘はやっぱり当たるもんなんだよね〜! これの正体も分かったし、柚葉ってばツイてる〜!」

 

「? なんだ……? そのオブスキュラの欠片が、どうかしたのか」

 

「ああ、実はな……ポーセルメックスの連中がホロウん中で、生産リストにないバカ高い輝磁製品を違法に作ってる可能性があんだ」

 

 

当然その事は秘匿されており、表向きはあくまで安い製品を製造している事となっている。

 

労働者の給料もその分上がる……という訳でもなく、どこかで差額を横領している何者かがいるとの事だ。

 

 

「……この欠片はどこで見つけたんだ?」

 

「泅瓏囲しゅうろういってとこ。そこから店に届いた材料に、この破片が紛れ込んでたの。泅瓏囲の人達は、ホロウで出た輝磁製品の廃材を使って工芸品を作ってるの」

 

「へぇ……」

 

「じゃあ真斗、泅瓏囲に行こ。製造元が分かれば、ポーセルメックスの内なる腐敗ってやつを暴けるはずだよ」

 

「ちょ……ちょっと? これでも私、調査監督チームの一員なのだけれど……!」

 

「大丈夫大丈夫。別にチクッたりとかしないよね?」

 

「それは元よりするつもりはないのだわ!」

 

 

アリスはタクミに耳打ちをする。

 

 

「タクミ……申し訳ないけれど、オブスキュラについては……私の立場から聞ける事はここまでなのだわ。一緒に悩みを解決してくれてありがとう。アキラとリンにも、よろしく言っておいて」

 

「……!」

 

 

そう言ってアリスはタクミの返事も待たず一人、その場を後にした。

 

 

「…………」

 

「えーとそれで……タクミは、まだ聞きたい事はあるの?」

 

「え? ああ……その、オブスキュラについてだけどさ……まだ知りたい事があるから、同行してもいいか?」

 

「タクミもか?」

 

「ああ。兄ちゃんと姉ちゃんがホロウに詳しいから、多分事情を聞いたら力になってくれるはずだ」

 

「ホントに!? ラッキー! プロキシの力があれば百人力じゃん! それじゃよろしくね〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、協力関係を結んだ記念に──はいこれ!」

 

「おいもう騙されねーぞ、また虫が出てくるんだろ」

 

「いやいや、今度は本物のガムだって」

 

「そっか……なら遠慮なく──」

 

バチーン!!

 

 

「痛い……」

 

「お前はもうちょい疑う事を覚えろタクミ……」

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