タクミとアリスが柚葉の知り合いと分かると、メローは警戒心を解いた。
そしてその後、オブスキュラの欠片について話してくれた。
「……ダンテが拾ってきた?」
「うん。ダンテは『これは絶対高く売れるよ』って言ってたけど……僕にはそう見えなくて、『そんな事ないよ』って言い返したんだ。それからヒートアップしてって、喧嘩になったの」
その喧嘩の途中で、メローはダンテのディニーガンを、ダンテはメローのラジコンを壊してしまったらしい。
「それで……その輝磁がどうかしたの? まさかダンテ、変な事に巻き込まれたりしてないよね……?」
「大丈夫よ、坊や。お友達の事なら、心配しなくていいのだわ」
「そうそう。ただ珍しいものだなって思ったから聞いただけだよ」
「ちぇっ……なんだよダンテのやつ……」
ダンテが無事だとわかった途端、素っ気ない態度に戻るメロー。
しかし、柚葉にはお見通しである。
「あれれ〜? 良いのかなぁ? ここで仲直りしないと……柚葉ねぇちゃん、君の事嫌いになっちゃうかも〜」
「えっ……か、からかわないでよ柚葉ねぇちゃん……」
「からかってないよ? だって柚葉、お友達を大事にしない子は好きじゃないもん」
「わ……分かったよ、ダンテと仲直りしてくるよ! あ、でもラジコンどうしよう……」
「直ったよ」
「えっ!?」
メローが振り向くと、タクミがラジコンを彼に差し出していた。
話をしている間に、タクミが直してしまっていた。
「このラジコン……別に壊れてなかったぞ。ちょっと配線がズレてただけ」
「……ほ、ホントだ動いてる……! でも良いの? もう輝磁の事は話したし、わざわざお兄ちゃんが直す意味は無いのに……」
「え? あー……なんか、ラジコン直したらダンテくんと仲直りする、みたいな話だっただろ? 確か」
「……っ! あ、ありがとうお兄ちゃん! あの、さっきは『怪しい』とか言ってごめん!」
元気を取り戻したメローは、そのまま走り去っていった。
「へぇ〜意外だなぁ。タクミってそーゆーのもできたんだ」
「んーまあ……昔遊んでたラジコンが壊れた事があってさ。姉ちゃんが直してるとこを見てたんだよ」
「ああー……あったねぇそんな事」
「見ただけで直し方が分かっちゃうんだ……?」
「そういやお前、アキラくんとリンちゃんの弟だったな……」
やろうと思えば他のものも直せるが、そういうのは大体兄か姉の役回りだったため、それをする機会自体はあまりなかった。
それにボンプが壊れている場面に遭遇することなど、滅多にない。
そんな事を話していると、アリスが気まずそうな顔で柚葉に話しかける。
「あ……あの、浮波さん」
「うん? どしたの?」
「さ……さっきはごめんなさい。不本意とは言え、貴女の家庭事情に踏み入るような真似をしてしまって……決して、プライバシーに探りを入れようとしたつもりではないのだわ」
「あーその事? 別にいいよ、柚葉が養子ってのはほんとだし。それに、優しいパパが引き取ってくれた事は、今でもすっごくラッキーだと思ってるからね〜」
「そう……貴女が良いのなら、それで……」
「それよりも、私が不思議なのは貴女の方だよ? タイムフィールド家の一人娘が調査監督チームだなんて……貴女が未熟だって言うつもりは無いけど、他の人が選ばれても良かったんじゃない?」
「実は……うちの一族は、もうあまり人がいなくて……」
アリスの父親は数年前に他界、以降は彼女と祖父の二人きりとなった。
さらに、現在彼女の祖父は病気にかかり寝たきりの状態になっているらしい。
「ふーん……貴女も大変なんだね。まあとにかく、柚葉の事は気にしないで、もっとしゃんとしなきゃダメだよ? 他人の顔色ばっかり伺ってちゃ、自信なんて持てないんだから、ね?」
「え、ええ……! 分かったのだわ!」
「それよりも、さっきの顔見た? 『見るからに怪しい』って言われた時のタクミの顔! ウケる〜!」
「おいなんで蒸し返すんだ!! つーかさっきの会話聞いてたのかよ!」
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オブスキュラの欠片の事はダンテが知っている……という事で、ダンテがいるという場所へと向かう。
すると……
「あれ……? ダンテくんと一緒にいるの、イゾルデさんじゃない?」
「ホントだ……あの人もここに来てたのか」
本来なら彼女もここには来れない立場のはずだ。
こっそり二人の様子を観察する。イゾルデはダンテから渡されたディニーガンをじっくり見る。
その後、非常に手馴れた様子で銃を分解した後、あっという間にディニーガンを修理した。
「すげーな……分解してから十秒も経ってなかったぞ」
イゾルデは修理したディニーガンの調子を確かめるため、ダンテからディニーの硬貨を一枚受け取る。
そして──
いきなりこちらに銃口を向け、弾を発射した。
「!!」
当たりこそしなかったが、隠れていたところスレスレに発射された硬貨が当たった。
「中々肝が据わっているじゃないか。何故諸君がここに居るんだ?」
「や、やっぱり気づかれてたんだね……でも、それはこっちのセリフだよ、イゾルデさん! 貴女だって、ホントはここに居ちゃいけないんでしょ?」
「そうだな、確かに……バレたらマズいのはお互い様というわけか」
イゾルデはここへ来た経緯を話した。
なんでも彼女はダンテの叔父とは旧知の仲らしく、毎年のように泅瓏囲へと訪れているらしい。
彼女の話を聞いていると、ダンテの母親のアイタナもやって来た。
アイタナは一年ぶりのイゾルデとの再会に喜ぶ……のも束の間、ダンテの持つディニーガンを見るなり、彼に叱りつける。
「こら! 早くその鉄砲を返しなさい! もう遊ばないって約束したでしょ!」
「いやだよ! 僕も叔父さんみたいな立派な防衛軍の兵士になるんだ!」
そう言ってダンテは止める声も聞かずに浜辺の方へと走っていってしまった。
走っていくダンテの背中を見送りながら、イゾルデは旧都陥落の時の事を話した。
十一年前、零号ホロウの暴走により市民の命はおろか、大勢の防衛軍の兵士達も、その命をホロウに散らしていった。
ダンテの叔父も、命を散らした兵士の一人だった。
しかし防衛軍の上層部は犠牲となった彼らの家族にしかるべき補償を与えず、あまつさえその名誉を守ろうとすらしなかった。
前線では無かったとしても、彼らの死は決して無意味ではない。彼らの犠牲の上で成り立っている『今』があると、市民達はそう自分に言い聞かせているが……
それでも、ホントに死ななければならなかったのかと、思う人々もいるだろう。
そう話すイゾルデからは、そんな彼らに対する罪悪感、そして上層部に対する不満が滲み出ていた。
「──長々と、辛辣な話を聞かせてしまってすまなかったな。何か用事があってここに来たのだろう?」
「あ、そうだったね。ごめんね柚葉ちゃん、放ったらかしにして」
「気にしないで。用事って言うのは、この輝磁の事なんだけど……あの子が拾ってきたらしいんだよね。ちょっとあの子に聞いてくるね」
ダンテは恐らく浜辺にいる。
柚葉達はアイタナ達にお礼を言うと、ダンテの元へと向かっていった。
その時、タクミは立ち止まって後ろを振り向く。
「? どうかしたかい、タクミくん」
「あ……いえ、なんでもないです」
タクミは彼女からの視線に何故か違和感を覚えたが、気にせずに柚葉達に続いてダンテの元へ行った。
「…………」