セキュリティシステムに阻まれ、行き止まりとなってしまったエレベーター。
一応エレベーターの先へと続くルートもあるみたいだが……測定には時間を要する。
ホロウから出たあと、澄輝坪にて。
「今日はもうやる事もないみたいだし、ここで解散にしよっか」
「分かった。ルートが測定できたらまた連絡するね」
そう言って一行がその場で別れようとした、その時だった。
「失礼します。夜分にすみません……アリス・タイムフィールド様でしょうか?」
「へ?」
制服姿の男がアリスへと話しかけてきた。アリスの反応を見るに、知り合いというわけではなさそうだ。
「ええと……そうだけれど、貴方は?」
「私、ポーセルメックスで皆様のお世話係を努めさせて頂いております。先程、貴方様宛の荷物が届きましたので、お知らせに参りました」
「荷物……? 差出人は?」
「実は、荷物に記載がなく……差出人不明となっております」
「……それで、その荷物は? 手ぶらのようだけれど……」
「サイズが大きいため、一時的に倉庫に保管させて頂いております。もしよろしければ、確認のためにご同行頂いてもよろしいでしょうか?」
アリスは振り向いてリン達を見たあと、再び男の方に向き直る。
「……分かったのだわ。それでは皆さん、これで失礼」
「あ、うん……またね〜」
アリスは手を振ったあと、男性へと着いて行く。
「…………」
彼女を見送ったリン達は、それぞれ顔を見合わせ……頷いた。
澄輝坪某所。
人気の無い道を、アリスと男性は歩いていく。
「倉庫までは後どれくらいあるのかしら?」
「ご足労頂きすみません。もうすぐ着きますから」
「そう」
何も知らずに前を歩くアリスを見て、男性は──ひそかにほくそ笑んだ。
「かなり大きなお荷物でしたので──」
縄を握りしめ、アリスの背後へと迫る。
「輸送中に万が一の事があってはならないと、気が気でありませんでしたから」
そして男の魔の手が、アリスへと襲いかかる──
────事はなかった。
「ぐあっ!! なっ……!?」
「てめぇ……痛い目見たくなけりゃあ、大人しくしてろ」
突如不自由となり、地面へ倒れ伏せた己の体。
見上げれば、身長二メートル程はある大男──真斗が彼を抑え込んでいた。
真斗の他に、タクミも物陰から出てくる。
「……っ!」
タクミは男が落とした縄を拾い、それを使って彼をぐるぐる巻きにして動きを封じる。
「思った通りだったね〜やっぱり」
「くそっ……何故だ!?」
「私達が、なんの疑いも備えもなく貴方に着いていくはずがないのだわ」
奇襲をするはずが、完全にしてやられた男性はがっくりと肩を落とした。
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男を捕らえ、適当観へと連れ帰った一行。何故リン達には彼のやる事がお見通しだったのか。
それは、ホロウへ荷物を運び込んでいた人物が彼だと分かっていたからだ。
というのも、アリスが昨夜部屋で目撃した箱、そして先程ホロウで見た空き箱──この二つに付いているラベルが全く同じものだったのだ。
ラマニアンホロウにいた時から先程まで、彼はずっとアリス達を尾行していた。
それに気づいた彼女たちは『男は誰かが一人になったタイミングで奇襲をしかけるだろう』と予想し、逆にそれを利用してやろうと考えた。
箱のラベルを見たアリスが一番奇襲される可能性が高いであろうという事で彼女はおとりとなり、無事作戦は成功したのだった。
そして現在、真斗と潘が適当観の空き部屋で男に尋問をしている。
つい最近刑事ドラマを見たタクミも尋問に加わろうとしたが……やんわりと止められてしまった。
「……なあ、さっき潘さんにも言われたけど……俺の顔ってコワい要素ないの?」
「うん? 全然ないよ、ゼロパーだよ」
「そうなの!?」
「ええ。こう言ってはなんだけど、貴方の顔はどちらかと言うとアキラではなくリンの方に似ているのだわ」
「それに、ハンバーガーの可愛い髪飾りを付けたコワモテの男なんかいないしね〜」
「…………」
「タクミ……元気を出してくれ」
そろそろ髪飾りを取り外すべきか考えたが、なんとなく気が引けるのでやめた。
そんな会話をしていると、潘と真斗が部屋から出てきた。
「お疲れ様、二人とも。どうだった?」
「おう、洗いざらい白状させてやったぞ! そんじゃ、その事について早速話そう」
男に聞かれないよう、潘は離れた場所で聞き出した情報について話した。
「手短に話すとだな……あの坊主がホロウに運び込んでたのは──なんとエーテル爆薬だ」
「エーテル爆薬……!」
「だからあんなに重かったんだ!」
彼は昨夜、断熱材で偽装した爆薬をタワークレーンで運んでいた。
しかし、ロープの強度が中途半端だったため、運ぶ途中で切れてしまい、アリスが宿泊していた部屋の窓にぶつかってしまった。
アリスの悲鳴を聞いた男性は、エーテル爆薬を見られたと勘違いし、口封じをしようと今日尾行していたらしい。
「なるほど……早とちりで却って墓穴を掘っちゃったってわけだね〜」
「爆薬を運ばせていたのは誰だったの?」
「ポーセルメックスの上司だ。どうやら坊主はただの使いっ走りで、爆薬の使い道までは知らされてなかったんだと」
「しかもアイツら、もう二週間以上は爆薬を運んでたみたいで……そりゃもうハンパねぇ量の爆薬が既にホロウに運び込まれてやがる」
「二週間ね……その大量の爆薬を使って、消し飛ばしたい何かがあるんじゃないかな?」
爆薬の搬入は明日でラスト。つまり明日、エーテル爆薬による爆破が行われる可能性が高いという事。
しかし悪い事ばかりではない。尋問の際に、ホロウで行き止まりとなっていたエレベーターを使用するためのIDとパスワードが手に入った。
「タイムリミットは明日……彼らの企みが何であれ、タイムフィールド家を継ぐ者として、必ず阻止しなければならないのだわ!」
「……」
「……う、浮波さん? 何か?」
「別に? 今までビビりで優柔不断な子だな〜って思ってたけど、案外アツいとこもあるんだなって」
「あ、ありがとう……?」
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ひとまずこれまでのいきさつを儀玄に一通り伝えた。それを聞いた彼女は明日の夜、衛非地区に戻ってくると言った。
そして今夜の事だが……柚葉達は適当観へと泊まることになった。
アリスと柚葉はリンの部屋、真斗はアキラの部屋に泊めて貰うことにした。
しかし、まだ寝るには早いので今は全員リンの部屋に集まっている。
家具や机などを動かし、布団を敷く。その部屋の様子はまるで修学旅行だった。
「……あれ? タクミ、もう部屋に戻るの?」
「え……ああ、もう寝るよ。夜遅いからな」
「まだ九時だよ?」
「いやぁ……師匠が早寝早起きは大事って言ってたし……」
「ふーん……? ホントに聞かなくていいの? 『怪談百物語』」
「いやあマジで大丈夫っす!!」
怪談を聞かされると知っていながら、部屋に残る選択肢はない。
アリスも怪談と聞いて不安そうな表情を浮かべていたが、タクミの様子を見て心配の声をかける。
「タクミ、どうかしたの?」
「え、あ、なんでもねーよ……」
「汗が凄いのだわ……」
「タクミお前、もしかして
「べべべ別にそんな事ないけどね俺は」
「あ! 白い髪の幽霊!!」
「えっ、幽れ──」
ガタン!!
柚葉の声と共に響く大きな音。
それは咄嗟に椅子の下に身を潜めたタクミが出した音だった。
「……タクミ、何してんの?」
「…………いやあの、ニャンニャン大陸の入口が」
「…………」
「…………」
不思議そうな表情でタクミを見るアリス。
ジト目でタクミを見るリンと真斗。
笑いをこらえるのに必死な柚葉。
机の下に身を潜めるアキラ──
「いやお兄ちゃんも何やってんの!?」
「…………いやあの、ワンワン王国の入口が」
「…………」
「…………」
「あーーーー俺ちょっと散歩に行ってくる!!」
「あっ、ちょっと!」
タクミは逃げるように部屋を後にした。