『怪談百物語』を聞きたくなかったタクミは、逃げるように適当観の外へ出た。
……しかし、タクミは早速その選択を後悔する事になる。
(ひとりで出るんじゃなかった……!!)
現在夜十時。
夜の澄輝坪は六分街と比べると明るい方だ。故に、『暗くて怖い』と感じることは無い。
しかし、タクミはつい最近聞いた"ある噂"を思い出してしまっていた。
それは夜、街のどこかに出没すると言われている白いワンピース姿の女の幽霊。
夜にひとりで出歩きなどしたら、間違いなくその幽霊と出くわしてしまうだろう。
(どうする……? やっぱり戻るか? いやダメだ、戻ったら柚葉に捕まって怪談聞かせられる……!)
外に出てしばらく経つが誰も追ってきてはいない。つまり、今はタクミ抜きで怪談をしているのかもしれない。
ならば怪談が終わるまで時間を潰すべきだと考えたタクミは、どこで時間を潰すか考える。
すると──
「…………!」
タクミは再び、誰かの視線を背後から感じた。咄嗟に周りを見渡すが……誰もいない。
泅瓏囲に向かう前も、泅瓏囲に着く前も同じような視線を感じていた。
(どういう事だ……? さっきひっ捕らえた奴はアリスの宿泊部屋に閉じ込めてるはず……)
タクミはてっきり、感じていた視線は全て彼からのものだと思っていた。
(他に別の誰かが俺を見てるのか……?)
あくまで感じたのは視線だけであり、気配までは分からない。
杞憂という事も有り得るが……万が一を考え、タクミは適当観へ戻る事にした。
(気が進まねぇけど……皆のところに戻るか。怪談終わってるといいな……)
そんなことを考えながら、皆が集まっているリンの部屋の扉を開ける。
部屋には、誰もいなかった。
「…………えっ」
おかしい。てっきり部屋には皆がいると思い込んでいたが、誰もいない。
「え……柚葉? 姉ちゃん?」
名前を呼んでみるが、返事は無い。思えば部屋に入る前から話し声は聞こえていなかった。
(……別の部屋に行ったのかな)
タクミは部屋を出ようと振り返る──
「がぁああああああ!!」
「ウワーーーーーーーッ!!!」
振り返れば、視界いっぱいに広がるゾンビの顔面。
夜にも関わらず盛大に悲鳴を上げてしまった。
「あっはははははっ! やっぱリアクション最高だねタクミ!」
「ゆ、柚葉……」
ゾンビの被り物を外して大笑いする犯人の柚葉。後ろから真斗達も出てきた。
「な、なんだよ! 皆部屋にいたんじゃねぇのかよ!」
「いや、実はお前が部屋を出てから柚葉がドッキリを仕掛けようって言い出してな……どうしてもって聞かねぇから好きにやらせることにしたんだよ」
なんという事だろう。怪談を嫌って部屋を出たら却って脅かされる羽目になってしまった。
「ほらアリス、柚葉の言った通りだったでしょ?」
「ええ……タクミも私と同じでお化けが苦手だったのね」
「あ、ああ……うん」
結局アリスにもホラー嫌いがバレてしまったが、タクミは嘘が下手なので遅かれ早かれバレる運命だったのかもしれない。
「大丈夫、怖いのが苦手と言うのは人として普通の事。恥ずべきことでは無いのだわ」
「フォローありがとうアリス……ちょっと待ってなんで俺の髪の毛いじってるの」
「あっごめんあそばせ……髪型が乱れてアシンメトリーになっていたから矯正を」
「…………」
何はともあれ、同じホラー嫌いの仲間を得られた事は心強い。
実際は柚葉のイタズラのターゲットが増えただけだが。
「さて、タクミも帰ってきた事だし……『怪談百物語』、再開しよ〜!」
「えっ!? 俺がいない間に終わらせたんじゃないの!?」
「そんなすぐに終わるわけないじゃん! ほら、今度は逃げないでよ〜?」
結局怪談は回避できなかった。
なんなら追加でドッキリを喰らうという酷い目に合ってしまった。
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そして迎えた翌日の早朝。
早速ラマニアンホロウへと向かい、昨日のエレベーターの所までやって来た。
リンは手に入れたIDとパスワードを参照し、セキュリティの突破を試みる。
「えっと、番号はこれで────よしっ、解錠成功!」
「よっしゃ、これでエレベーターに乗れるっすね!」
一行は使用できるようになったエレベーターに乗り、先へと向かう。
そしてエレベーターを降りてすぐに、大きな石製の箱が置いてあるのを目にした。
「この箱って、もしかして……」
「間違いないわ……これはオブスキュラなのだわ!」
『Fairyによれば、この箱と欠片の成分はほぼ一致しているみたいだ。この欠片は、ここが出どころと見て間違いないな』
「だね。しかもこのオブスキュラと例の爆薬、同じ場所を示してたし」
近くに落ちていた日誌によれば、彼らはエーテル爆薬によりここを跡形もなく消し飛ばすつもりのようだった。
何を処分したいのか、見当もつかないが……日誌にはもう一つ、目を引く文が書かれていた。
「重要資料は速やかに処分すべし、ねぇ……なんだろうね、その"資料"って」
「考えても仕方ねぇよ。その日誌の通り、多分とっくに処分されてんだ」
ここにある日誌以外にも、ポーセルメックスが隠した情報があるかもしれない。
一行は調査を進めるべく、先を急いだ。
さらに先へ進んだ先で、一行はとあるものを見つけた。
『! 皆、見てくれ! 向こうの方にエーテルの裂け目がある……! かなり安定しているみたいだ』
「ホントだ……ねぇFairy、裂け目の向こうはどこに繋がってるの?」
『ただいま測定が完了しました。この裂け目は一方通行であり、先は航空宇宙開発区の外周に位置する廃棄された居住区付近となります』
恐らく爆破装置の設置後に、ポーセルメックスの人間達はこの裂け目を使い離脱するつもりなのだろう。
「でも、あそこまでの道は崩れてて直接は行けそうにないな」
「迂回ルートを使えば行けそうだけど……まあ、今はいいかな」
まだ脱出するつもりはないが、いざと言う時にあの裂け目は役に立つだろう。
さらに歩を進めていくと、巨大なゲートがある部屋に辿り着いた。
地面には争った形跡があり、それがゲートの向こうまで続いている。
この先に、隠された真実があるはずだ。
だがその前に、またしても障害が立ちはだかる。
「くぅ……!!このドア、全然開かないんだけど……!」
ゲートは向こう側からしか開けられないうえ、何かしらが原因で扉が大きく歪んでしまっていた。
「下がってろ柚葉。オレに任せとけ──ドリャアアアッ!!」
真斗は大剣を構え、雄叫びと共にゲートに渾身の一撃を放つが……
「ぐ……ダメだ、ビクともしねぇ」
「真斗でもだめかぁ……タクミ、これ開けそう?」
「多分できなくはない」
「ホント!?」
「ああ……でも近くにいたら危険かもしれねぇな」
「大丈夫大丈夫! 柚葉達は離れてるから!」
「……分かった」
ファイズはファイズフォンを取り出して開き、コードを入力する。
[3・8・2・1][Jet Sliger, Come Closer]
「……え?」
システム音声が流れた直後、どこからともなく現れるジェットスライガー。
ファイズはそれに乗り込む。
このゲート、かなり分厚い作りとなっていたので、突破にはこれしかないとファイズは考えた。
「これでミサイルを撃ち込みまくって──」
「ごめん却下却下!!」
「え?」
「ミサイルなんて撃ったら、建物ごと崩れちゃうよ!」
「ダメか……」
「力づくがダメなら、他の方法を考えるしかないのだわ……」
アリスは他に使えそうな移動方法はないかと部屋中を見回す。すると……
「…………あら?」
彼女は部屋の天井に、ちょうど目的地へと繋がるダクトがあることに気がついた。