「皆! 部屋の天井に、二棟を繋ぐダクトの入り口があるのだわ!」
「ん?」
アリスは部屋の天井にゲートの向こう側の建物へと続くダクトの入り口を発見した。
這いつくばれば、あの中を進む事ができる。
「おお……あの大きさなら、オレでも入れそうだな」
『ダクトまで行くのにこれと言った障害物もないみたいだね』
早速ダクトへと向かう。
するとファイズは、柚葉がダクトを見つめたまま微動だにしていない事に気がついた。
「……? 柚葉、どうしたんだ?」
「…………」
「柚葉? 聞こえてんのか?」
「……あっ、いやなんでもないよ? あのダクト見て、こないだ店に入ってきたネズミのことを思い出しただけ」
「え、ネズミ? マジで?」
「うん、あんな風にダクトを通って出てきたのかなぁって。こんな感じにね」
「おわーーーーーーーッ」
柚葉が急に出してきたオモチャのネズミに、何度目かも分からない絶叫を披露するタクミだった。
四つん這いになりながら、ダクトの中を進んでいく。
真斗が入れるだけあり、スペースにはそこそこ余裕があった。
「この辺り……ミアズマの濃度が上がってる気がする」
「やっぱりここを進んだ先に、ポーセルメックスの隠した秘密が……!」
しばらく進んだ先に、ダクトの隙間から漏れ出る怪しい光が見える。
「あの光……もしかして向こうの建物に着いたのか」
「よし、このまま進もう!」
「…………」
時間が経つにに連れ、濃くなっていくミアズマの瘴気。構わず先へと進み、光の元へと到着。
ダクトの隙間から部屋を覗いてみると……
「…………え?」
「こ、これは……」
「どういう事だ……!?」
「なんで部屋に
ダクトの隙間から見えたのはポーセルメックスのロゴなどではなかった。
積まれている箱など、所々に讃頌会のシンボルがあるのが分かった。
「なんだ……? 悪巧みしてたのはポーセルメックスだけじゃなかったって事か?」
「ここから見ただけじゃ分かんないね……ひとまず先に進も!」
ダクトの中を進み、通気口からダクトの外へと出る。そのまま、先程見えた部屋へと入った。
部屋には、讃頌会が残したであろう様々な資料が置かれている。
手分けして資料を確認してみる。
ファイズが見つけたのは『速やかに処分』と書かれたパンフレット。
(……? これってオブスキュラの部屋にあった日誌に書かれてたのと同じ内容だよな……もう処分はとっくに終わったんじゃ……?)
パッと見ただけでは分からない。ひとまずアキラとリンの所へ行ってみる。
「あ、タクミ! この資料見てみて」
「?」
リンは資料のとある所を指さす。そこの文にはこう書かれていた。
────機材工場の第二作業場を聖堂に改築し、讃頌会出身の研究員が礼拝を行える場として提供することを承諾。
「……え、これって……ポーセルメックスが讃頌会に提供したって事だよな」
「うん……今まで讃頌会がサクリファイスの研究をすることが出来たのも、多分ポーセルメックスが後ろ盾になってたからだと思うんだ」
「なんでわざわざ讃頌会に協力する真似を……」
『別の資料には、ポーセルメックスは輝磁の純度の限界を超えるために、密かに精製技術の研究を行った事が記されている。適切な触媒を手に入れるために、人体実験も行っていたみたいだ』
ポーセルメックスと讃頌会が密かに協力関係を結んでから、かれこれ七、八年は経っているようだ。
確かに
「! これは……!」
アリスの方も、何か見つけたようだ。彼女の元へ行ってみると、なにか恐ろしいものをみたような顔をしていた。
「アリス、どうしたんだ?」
「タクミ、この報告書に……恐ろしいことが書かれていたのだわ」
アリスからその資料を渡され、それにざっと目を通してみる。
報告書に書かれていたのは、人体実験の被験者と思しき人物『ES-07』の詳細。
「被検体の血清に含まれる免疫には、輝磁成分の重合反応を効果的に促進できる効果がある……って、この被検体……まさか子供か!?」
「ええ。ポーセルメックスはまだ年端もいかない子供を使って、人体実験をしていたのだわ……!」
被検体『ES-07』にある侵蝕抗体に関する研究、『プロジェクトニューリーフ』。
被検体であった複数人の子供は、ミアズマが充満する環境で繰り返し人体実験を行ったせいで、ほとんどが命を落としてしまっていた。
しかし──
「この『ES-07』の子は、最後まで生き残ってたみたいだな」
「報告書に書かれている事が本当なら、その子は生まれつき強いエーテル適性があって、さらには特殊な抗体まで持っているみたいなのだわ」
この『ES-07』の被検体の子供は、その後脱走。
最後の被検体を失ったポーセルメックスは、プロジェクトニューリーフを中止せざるを得なくなってしまった。
その子供が脱走後どうなったのかは定かではない。何かしらのラッキーで、幸せに暮らしていることを祈るばかりだ。
「……読んでて気分が悪くなるな、この報告書は」
「同感なのだわ……そういえば、そちらの方ではなにか見つけたかしら?」
ファイズはアリスに、自身が見つけた資料とアキラとリンが見つけた資料について話した。
「──なるほど……資料を照らし合わせるに、ポーセルメックスと讃頌会が結託したのは、プロジェクトニューリーフが中止になったその後のようなのだわ」
ポーセルメックス側で、讃頌会に関係しているのは誰なのか。大方上層部の誰かだろうが、現時点では見当もつかない。
それに、先程見つけた『速やかに処分するべきもの』のことも気になる。
考えを巡らせていると、離れたところからガタン、音がした。
音がした方を見てみると、柚葉がしゃがみ込んでいた。そばに居たかまちーが心配そうに彼女を見ている。
「柚葉……! 大丈夫!?」
「アリス、タクミ……ごめんごめん、ちょっとよろけちゃっただけだから」
「気分が悪いのか? 少し休んだ方が──」
そこまで言いかけて、ファイズは凍ったように動きを止めた。
「?」
「どうしたの?」
「…………」
ファイズにのみ聞こえた、
どこから聞こえるのか、ファイズは注意深く耳を凝らす。
「タクミ? 何かあったの?」
「…………ヤバい」
「ヤバい? 何が──」
「兄ちゃん!! 姉ちゃん!! 上だ!!」
「!!」
リンが天井を見上げると同時に、襲いかかる二本の剣。
「どらあっ!!」
近くにいた真斗が大剣を振って豪快に剣を弾き飛ばす。
「アキラくんリンちゃん! 大丈夫ッスか!」
『ぼ、僕達は大丈夫だ……! それよりも──』
「なに、あれ……!」
リン達が目にしたのは、白く長い髪をした女性のような『異形』。
アリスと柚葉も駆けつけ、その姿を目の当たりにする。
『ガァァァアアアアアア!!』
その『異形』は、リン達を見据え……耳をつんざくような咆哮をあげた。
「コイツ……ミアズマを吸収して、パワーアップしてやがんのか……」
見た限り、強さはまるで未知数だ。仮に倒せるとしても、苦戦を強いられることは必至。
しかしあくまで倒す場合であり、今は倒す必要はないので、リンとしてはこのまま全員で逃走した方がいいと考えた。
「────そうだ……!」
リンは脱出の方法……建物の外にある裂け目の事を思い出した。