「はぁ……はぁ……」
クリムゾンスマッシュでサイガを撃破したファイズ。
空中で爆発が起きた後、何かが落下した。
痛む体に鞭を打ち、様子を見に行く。
「…………」
ファイズが拾ったのは、
「あの野郎逃げたか……ゲホッ……」
何はともあれ、一難は去った。もう一難が来てしまわないうちにさっさと脱出すべきだろう。
「いたぞ! あそこだ!!」
「投降しろ、ファイズ!」
「っ!! くそっ、間が悪すぎだろ……!」
あれほど派手にやりあっていたら、当然ポーセルメックスの社員が気づかないはずもなく。
彼らはファイズを見るなり、こちらへと走って向かってきた。
「仕方ねぇ……かまちー、逃げるぞ!」
こうなっては脱出は後回し。
ファイズはかまちーを連れ、座標が変化しにくい建物の中へと逃げ込んだ。
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同時刻、実験棟一階にて。
柚葉達とライオンオルフェノクは、熾烈な戦いを繰り広げていた。
「ふんっ! どりゃあッ!!」
真斗以上の巨大な体を持つライオンオルフェノクは、その体格に似つかわしいサイズの槍を片手に、彼らの攻撃を軽々といなしていく。
『グォォアア!!』
「くっ……!!」
真斗のパワーも、アリスの剣技も、柚葉のサポートも、ライオンオルフェノクの前では歯が立たなかった。
「ゴホッ、ゴホッ……!!」
「真斗くん! 血を吐いて……さっき私を庇ったせいだよね、ごめん……!!」
「大丈夫っす、致命傷ってわけじゃないんで……つっても、このままじゃジリ貧だな。コイツ、ハンパねぇ強さしてやがる……!」
戦況は決して有利とは言えないこの状況。リンは打開の為、必死に考えを巡らせる。
(騒ぎを聞いたフェロクス達は、きっともうすぐこっちに向かってくる……本当は二階の裂け目まで直行したいけど、ちょうどそこまでの道を塞ぐ形でオルフェノクが立ちはだかってる……!)
プロキシとして冷静に状況を分析し、必ず皆を窮地から救い出す。
そう思っていても、追い詰められたこの状況ではさらに焦りを生むばかりだった。
そんな時。
「皆!」
「! 柚葉、どうしたの?」
「部屋の前のエレベーターから地下に降りて、廊下を進んだら、ラマニアン島の地下河川に繋がる大きな下水道があるの! ちょっと危ないけど……確実にホロウを出られるよ!」
「!!」
「急いで、追っ手が来る前に!」
「う、うん……!」
何が何だか分からないが、ひとまず柚葉の言う通りに地下まで突っ走る。
幸運にも、ライオンオルフェノクが追いかけてくる様子はなかった。
しかし、騒ぎを聞きつけた社員達の声は聞こえてくる。
「はぁ、はぁ……!!」
全速力で走り、エレベーターへと向かう。
地下へと着いた後、柚葉は一直線に下水道がある場所まで向かい、リン達もそれに着いていった。
「──着いた! ここだよ!」
「柚葉の言う通りだったのだわ! 通り道も、私達が通れるくらいのサイズね!」
「リンちゃん、真斗を支えてて。アリスは柚葉と一緒に、ここの板を外すのを手伝ってくれる? 川を泳ぐ時の浮き板にするから」
「わ、分かったのだわ!」
まるで元からその脱出方法を知っていたかのような、そんな素振り。
リンだけではなく、真斗も同様の事を思っていた。
「ゲホッ……柚葉お前、なんで下水道から出られるなんて知って……ぐっ、ゴホッゴホッ……」
「傷が開くから喋んないで。川を泳ぐ時の体力を、なるべく温存してて!」
「……柚葉」
「……そうだよ。柚葉は前にも一回、ここに来た事があるの。ていうか、住んでたんだよね。この研究所に、『実験体』として」
「住んでた……? 実験体……って、まさか」
資料に書かれていた『プロジェクトリーフ』の最後の生存者……それは柚葉の事だった。
「柚葉ね……この研究所で、一生を過ごすんだって思ってた。知らないおじさんが、私を命がけでここから逃がしてくれるまでは。またここに戻ってくるなんて、思ってもみなかった」
「……柚葉」
「さ、昔話はこれくらい! リンちゃんと真斗は同じ浮き板ね。この川は流れが早いから、絶対に離さないこと。そうしたら、十分くらいでホロウを出られるはずだから」
「分かった。じゃあ真斗と先に行くね……二人も早く来てね!」
リンは真斗を支えながら浮き板に捕まり、そのまま出口目掛けて川を流れて行った。
「……よし、行ったね。それじゃアリス、次は貴女の番」
「? "貴女"……? "私達"の間違いでしょう?」
「……ううん、間違ってないよ。次はアリスが一人で行く番だから」
「ど、どういう事……? どうして一緒に行かないの……?」
「柚葉はちょっとやる事があるから。大丈夫、貴女が行ったあと、すぐ行くから」
そう言って、柚葉はその場を去ろうとする。その背中をみて、アリスは胸騒ぎが止まらなかった。
「ま、待って!」
「?」
このまま行かせてはダメだと、アリスは柚葉の手を掴んで引き止める。
「貴女、嘘をついているでしょう……! ダメよ、一緒に行くのだわ!」
「っ……聞いて、アリス。この問題は、柚葉が解決しなきゃいけない事なの」
「な、何を言って──」
「フェロクスは……ポーセルメックスは……実験をやってた時の痕跡を消すためなら妥協なんてしない」
その『痕跡』の中には、実験体であった柚葉も含まれる。
フェロクスは決して自身を逃がすつもりはないと、柚葉は知っていた。
「フェロクスの所に行けば、きっとアイツらは貴方たちに手は出さないはず。こうなったのも全部、柚葉のせいだから……これ以上皆を巻き込みたくはないの」
「ど、どこが貴女のせいという事になるの!? 貴女はただの被害者で……!」
「違う、違う……! 私のせいなの! だって──」
「あなたのパパは、私のせいで死んだんだから……!!」
「え……」
柚葉が放ったその言葉に、アリスは一瞬意味を理解できなかった。
そんな彼女に、柚葉はとあるものを手渡す。
それはアリスが子供の頃に見ていたアニメ、『マジカルボンプ・セイラープー』のヘアピン。
その片割れだった。
「アリス、前に言ってたよね……昔大事にしてた
「…………」
「貴女は、それを自分のせいだって責めてたけど……ホントは違う。貴女のパパは、柚葉と出会ったせいで……」
柚葉の言う事に、アリスはまだ理解が追いついていない。
「……タクミとかまちーにもよろしく言っておいて……ごめんね。せめて……せめて償わせて」
「っ、ま……待って柚葉! まだ話は──!!」
柚葉はアリスの手を離し、そのまま見送る。
アリスは川の流れに逆らえないまま、次第に小さくなっていく柚葉を見つめることしか出来なかった。
「……これで、いいんだよね。私には……やるべき事がある。あの子から貰った『幸運』を、返す時が来た」
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そうして一人となった柚葉は、来た道を引き返し……やがてフェロクスの部下と鉢合わせる。
なんの抵抗もしないまま、捕縛され──フェロクスの元へと連れていかれた。
「ふん、小娘……大人しく捕まったその誠意は認めてやるが……他の奴らはどこに行った? 言わなければ、そいつらも無事では済まさんぞ」
「ええ……フェロクス様なら、きっとそうする事でしょう。ですが考えてもみてください。何の関係もない彼らの行方ばかり追い、本来の目的である『痕跡の隠滅』……それを疎かにしても良いのですか?」
「言うじゃないか小娘……それでお前一人で許してもらおうと? 交渉材料もなしに、よくもぬけぬけと」
「交渉材料ならあります……これを見てください」
そう言って柚葉は、肩にあるマークを見せる。そのマークには、『ES-07』と書かれていた。
「その記号……そうか、お前はあの……!! まさか再び戻ってくるとはな……!!」
「……私の言いたい事は分かりますね? 皆に慈悲を与える代わりに、実験体として再びこの身を引き渡します。それが私の『取引材料』です」
「は、はは……! 良いだろう! おいお前ら、コイツを捕え──」
そう言いかけた直後、突如フェロクスの周りが真っ白な煙に包まれた。
「ゲホッ……なんだ──ぐあっ!?」
「っ!? おいどうし……うわあっ!!」
「……!?」
柚葉の周りで、次々と悲鳴が聞こえる。視界もままならないまま、何者かが彼女の腕を掴んだ。
そして煙の外まで無理やり連れ出される。
彼女を連れ出したのは、フェロクスではなかった。
「た、タクミ!? かまちー!? なんで……!」
「説明は後だ! いいから走れ!」