「ゲホッ……ここまで来れば、もう平気だろ」
柚葉を連れて走り続け、なんとかフェロクスを撒いたファイズ。
負傷中である事が勘づかれないよう、平静を装う。
「柚葉、怪我はないか?」
「わ、私は大丈夫……それよりも、なんで柚葉達がいる場所が分かったの?」
「分かったわけじゃない。ポーセルメックスの社員から逃げてる途中で、
「…………そうなんだ」
自身がフェロクス達に捕らえらそうになった所を、ファイズが助けに来た。
柚葉はそんな彼の姿に安心してしまっている自分がいる事に気がついた。
甘えてはいけない。このまま共に行動していたら、彼を危険に巻き込みかねない。
「んで、柚葉。姉ちゃん達はどこに?」
「えっと……リンちゃん達は先にホロウを出たよ。特別な脱出ルートでね」
「そうか。なら、俺達もここを出ようぜ」
「…………」
「……柚葉?」
「……ごめん、タクミ。道なら教えるから、先に行っててくれる? 柚葉はちょっとやらなきゃいけない事があるからさ」
「……やらなきゃいけない事ってのは、お前がフェロクスに話してた事と何か関係があるのか?」
「!」
ファイズの言葉に、柄にもなく狼狽えてしまう柚葉。ふと下を見下ろすと、かまちーが心配そうな顔でこちらを見上げていることに気がついた。
「……もしかして、さっきフェロクスと話してたこと、聞いてたの?」
「途中からだけどな。でも、お前が自分を犠牲にして皆を助けようと考えてたってのは分かった。分かった上で、
「……っ!!」
「なんでお前がそんな事をしてるのか。なんでフェロクスはお前を狙ってるのか。その理由がなんであろうと、納得して見過ごす程俺はお利口じゃない」
柚葉には柚葉の考えがあるという事は、タクミとて重々承知している。
しかしどんな理由であれ柚葉が己が身を犠牲にするという結末は、他の誰も望んでいない。
アキラも、リンも、真斗も……そしてアリスも。
「……だから柚葉。俺は
「…………ぷっ、あははっ。何それ……強引な男の子は嫌われちゃうよ?」
「……別にいいし。意地悪で結構」
「タクミは……聞かないでいいの? 柚葉がなんで狙われてるのか……とか、色々気になってる事あるでしょ」
「あるにはあるけど……俺からは何も聞かねぇよ。お前が話したい時に話せばいいし、ずっと話さないままでもいい」
「…………」
「……まぁとにかく、今は早くここを出ようぜ。こっちだったよな、確か」
そう言いながら部屋の出口へと歩くファイズの背中を見ながら、柚葉は物思いにふける。
(…………良いのかな、アリス。私も、一緒に──)
ドゴォォオン!!
「っ!? なんだ……!?」
突然、思考を吹き飛ばすほどの大きな音が部屋中に鳴り響いた。
部屋の壁が粉々に破壊されている。
「あれ、これなんかデジャヴかも……」
「え?」
壁に空いた大穴から、大きな影が現れる。
舞い上がった砂埃とともに現れたのは──先程も遭遇した、ライオンオルフェノクだった。
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一方その頃。
川の流れに身を任せ、ラマニアンホロウを脱出したリン、真斗、アリスの三人。
海を漂う三人の元に、救助用のモーターボートがやって来た。
彼女らを救助したのは……なんとイゾルデ率いる、新エリー都防衛軍のオボルス小隊だった。
なぜ防衛軍であるオボルス小隊が来たのか。
H.D.Dの通信が途絶え、緊急事態を察したアキラと潘はすぐに救助へと向かおうとした。
ちょうどその時、イゾルデ大佐が適当観を訪れ『そちらにフェロクスが差し向けた追っ手が向かってきている』と彼らに伝えたのだ。
それから急遽泅瓏囲へと移動することになり、オボルス小隊によってリン達の位置を特定した後、急いで救助へと向かったというわけだ。
……ちなみにイゾルデが『大佐』であることと、彼女率いるオボルス小隊が、今回の件の調査のために秘密裏に衛非地区に訪れていたと知ったのはその時だった。
「──それにしても、ここまで事態が大きくなるとはな。こうなる事を知っていれば、ホロウへ入る事は止めていただろうに……」
「ううん。大佐のおかげで、私達はポーセルメックスと讃頌会が隠した真実まで近づけたから……それより大事な事は、柚葉とタクミがまだホロウにいる事だよ……!」
「ああ、フェロクスが何もかも消し去ってしまう前に、二人を助けなければいけない」
「勿論、フェロクスの行いは許してはならないだろう。彼の蛮行を許せば、さらに多くの人々に被害が及んでしまう」
タイムリミットが迫っているとはいえ、オボルス小隊という心強い味方が得られたのは何よりだ。
「ぐぅっ!!」
「!?」
そんな時、急に聞こえてきた野太い悲鳴。
振り返ってみると、ちょうどすぐ近くのベンチでトリガーが真斗の怪我の手当をした直後だった。
「狛野くん、あまり動かないように……怪我が悪化してしまいますよ」
「いや、大丈夫っすよジブンは……んな事より、ダチがまだホロウにいんだ……うかうかしてられっか──っつぅ……!!」
「真斗くん、大丈夫!? 無理しない方が……」
「プロキシさんの仰る通りです。あれほどの負傷で、意識を保っていられることすら奇跡のようなものですから……ですがご安心ください。私達が必ず、彼らをお助けしますので」
「そうだよ! だから今はゆっくり休んでて?」
「…………ッス」
意識は保っているが負傷のせいでずっと顔色が悪い真斗。
真斗も、自分が『立っているのもやっとな状態』だと言うのが理解できないわけではない。
彼女達を信じ、大人しく休むことにした。
相変わらず名前を覚えてくれない顔なじみ、少女の声で喋る謎の巨大ロボットとの挨拶も済ませた後、リンは浜辺にいるアリスの所へとやって来た。
アリスは柚葉から受け取ったヘアピンを見つめながら、考え込んでいる様子だった。
「…………」
「……アリス、大丈夫?」
「! いたのね、リン。私は大丈夫……まだ頭の中では整理がつかない事だらけだけど……気持ちの方は少しずつ落ち着いてきたのだわ」
ホロウから脱出する直前、柚葉から告げられた父の死の真相。
「父は、研究所の秘密を知ってしまって……柚葉を助けるためにその命を落とした……」
「お父さんの件は事故なんかじゃなかったんだよ。ましてやアリスのせいでもない……ホントに悪いのは、あのヒゲオヤ……フェロクスだよ!」
「ええ……けど、それを知っても……私には怒りの気持ちは湧いてこなかった」
己の命を顧みず、一人の少女を勇敢に助けた。タイムフィールド家の人間として、アリスはそんな父を誇り高く思っていた。
「柚葉はあの時最後に『償わせて』と言ったけど……私は絶対に認めない。本当に償うべきは柚葉ではなく、フェロクスに他ならないのだわ」
「アリス……」
「リン、私……柚葉にもう一度会ったら、このヘアピンを返してみせる。さようならなんて、絶対に言わせないのだわ!」
そう言葉にするアリスの眼には、力強い意思が宿っていた。