ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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姉弟?

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

ちょうど正午に差し掛かり、お昼ご飯時となった昼の澄輝坪。

 

この街へと訪れたアンビーは、無表情で何かを見つめていた。

 

 

「ワンッ!」

 

 

アンビーが見つめていたのは、一匹の犬。お行儀よく、尻尾を揺らしながら彼女を見つめ返していた。

 

 

「貴方、迷子なの?」

 

「ワンワンッ!」

 

 

当然だが言葉は伝わらず、依然元気な声で返事をする犬。

 

この犬には首輪とリードが付いており、散歩中に飼い主とはぐれてしまったのだろうと推測できる。

 

 

出来れば飼い主を探してあげたいが……アンビーは衛非地区の事をよく知らない。

 

 

(……そういえば、近くにペットショップがあるって聞いたような)

 

 

ひとまずそこに行けば何か情報が得られるかもしれない。そう考えたアンビーは早速そこへと向かおうとする。

 

すると──

 

 

「ワンッ! ワンワンッ!」

 

「わっ……」

 

 

突然犬がアンビーへと抱きつき、顔をペロペロと舐め始めた。

 

この犬はかなり人懐っこいようだ。

 

さらにその犬をよく見てみると……

 

 

「……貴方、なんだかタクミに似てる気がするわ」

 

「ワフ?」

 

 

具体的にどこが? と聞かれたら言語化するのは難しいが……とにかく色々と似ていた。

 

 

…………アンビーはなぜか、無性に目の前の犬に抱きつきたくなった。

 

 

「…………モフモフね」

 

「ワン!」

 

 

少しくらいなら良いだろう、とアンビーは犬に抱きつき、モフモフを堪能する。

 

抱きつかれた犬の方も、特に逃げることもせず元気よく鳴くだけだった。

 

 

「……? 何やってんだ、アンビー」

 

「あ、本物のタクミ」

 

「なんだその呼び方」

 

 

たまたま通りがかったところに、変な呼び方をされ困惑するタクミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なるほどな。確かにケアンさんとこの店なら、飼い主もすぐに見つかるかもな」

 

 

タクミは犬を撫でながらそう言う。撫でられている犬は、とても心地良さそうにしている。

 

 

「……それよりもさ、アンビー」

 

「?」

 

「お前、俺とコイツが似てるって言うけど……言うほど似てないだろ」

 

「そんな事はないわ、とても似てると思う。他の人に聞いても、きっと同じことを言うはず」

 

「……えぇ、ええ〜?」

 

 

タクミは大人しくお座りしている犬を撮り、リンにノックノックで写真を送る。

 

数秒後、返信が届いた。

 

 

[だれ、その子!]

 

[めっちゃタクミにそっくりじゃん!]

 

[(犬の絵文字)]

 

[(サムズアップの絵文字)]

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「いや、そんなドヤ顔でみんなよ! たまたまだろ、姉ちゃんの感性が──」

 

「すみませーん!」

 

「!」

 

 

声がした方を見ると、飼い主と思しき女性がこちらへ走ってきていた。

 

 

「ワンワンッ! ワン!」

 

 

犬も女性の姿を目にすると、一目散に彼女の元へと駆け出した。

 

 

「すみません! うっかりリードを離してしまって、その隙にこの子が逃げ出しちゃって……! お二人がいなければどうなってた事か……」

 

「気にしないでください。無事で何よりです」

 

 

飼い主は頭を深く下げたあと、犬とともにその場を後にした。

 

……立ち去る前、飼い主はなぜか犬とタクミを交互に見ていたが、きっとタクミが気にする事ではないはずだ。

 

 

「……今、あの人──」

 

「やめろ! 言うな、言わなくていい……きっと気のせいだ───てか聞きそびれてたけど、今日はなんで衛非地区に来たんだ?」

 

「今日は衛非地区限定のハンバーガーを食べに来たの」

 

「ハンバーガー? 澄輝坪にあったっけ、ハンバーガーショップ」

 

「ここから少し離れた場所にあるわ。ここから歩いて十数分くらい」

 

 

そのメニューはどうやら期間限定らしく、邪兎屋の仕事がない日を狙い、衛非地区へと訪れたらしい。

 

 

「なるほど……それで一緒に食べようって?」

 

「勿論それもあるけど……貴方を誘ったのは、協力して欲しい事があるからなの」

 

「協力?」

 

「うん、今そのハンバーガー店では姉弟専用の割引キャンペーンがあって。二人で来ると、セットメニューが安くなるらしいわ」

 

「なんだそれ……」

 

 

『兄弟』でも『兄妹』でも『姉妹』でもなく『姉弟』。

 

変なキャンペーンだ。

 

 

「……まあ、事情は分かったよ。俺に……弟のフリをしろって言いたいんだな?」

 

「うん」

 

「でも、大丈夫か? 俺ら全然似てないけど」

 

「問題ないわ。『義姉弟』でも割引は適用されるみたいだから」

 

「マジでどういうキャンペーンなんだ……」

 

 

アンビーが大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう。弟のフリをしろと言っても、いつも通りにしておけば問題はないはずだ。

 

時刻を見ればちょうど昼食の時間。二人はそのハンバーガー店へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

 

澄輝坪からしばらく歩いた後、目的のハンバーガー店に着いた二人。

 

いつも行っているルミナスクエアのチェーン店ではなく、個人経営のハンバーガー店だった。

 

 

「ご注文をどうぞ!」

 

「このハンバーガーのセットを二つ。サイドメニューは──」

 

 

いつも通り注文していく。個人経営だからか人は少ないが、店内は中々良さげな雰囲気だった。

 

すると注文を聞いていた店主が尋ねる。

 

 

「お二人はご姉弟でしょうか?」

 

「ええ、義理の姉弟よ。姉弟割があると聞いたのだけど」

 

「了解しました! それでは身分証明のため──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そちらの男性の方、隣の方に『お姉ちゃん』と言って頂けますでしょうか!」

 

 

「!?!?」

 

 

衝撃の要求にタクミは動揺を隠せない。

 

弟のフリをしろとは言われたが、まさかロールプレイまでするとは聞いていない。

 

というか身分証明でなぜそんなことをする必要があるのか。

 

 

(え……やらないとダメな感じ?)

 

「…………」

 

 

アンビーは期待の眼差しでこちらを見つめている。

 

割引のためだ、こうなっては仕方がない。タクミはアンビーの方を向いて、口を開いた。

 

 

「…………姉ちゃん」

 

「…………」

 

「おねえちゃん!!」

 

 

「はいありがとうございました〜! それでは姉弟割、適用させていただきますね!」

 

 

店主は満足そうな顔で奥の厨房へと向かっていった。

 

 

「……マジでなんなんだよこの店は」

 

「ここの店主、『姉弟萌え』らしいの」

 

「だから姉弟割とかやってんの? 自由過ぎるだろこの店……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンバーガーを食べたあと、再び澄輝坪に戻ってきた二人。

 

期間限定のハンバーガーだが……味はかなり良かった。姉弟萌えであることを除けば、かなり良質なハンバーガー店と言えるだろう。

 

 

「美味しかった?」

 

「ああ、美味かった」

 

「…………」

 

「……美味しかったよ、お姉ちゃん」

 

「そう、喜んでくれてよかった。お姉ちゃんも嬉しいわ」

 

「撫でなくていいよ……」

 

 

タクミを撫でようとするアンビーの手をペシッと振り払う。

 

 

「てかそれよりも、ホントに良かったのか? 俺の分まで払って」

 

「大丈夫。お金にはかなり余裕があったから」

 

「余裕があったのに姉弟割とか使おうとしたのか?」

 

「…………」

 

「……なあ、お前俺にあんな事言わせたいから、姉弟割とかいうのを使ったんじゃないだろうな」

 

「……そんな事はないわ」

 

「こっちを見て言えこっちを」

 

 

前持ってホームページの内容を見ておくべきだったと後悔していると、突如聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「あれ? タクミー!」

 

「ん? ……おお、柚葉か」

 

「って、アンビーもいるじゃん! ぐうぜーん!」

 

「柚葉……ここで会えるなんて」

 

「? 二人、知り合いだったのか?」

 

「ええ。映画館で知り合ったの」

 

「もうすっかり映画友達だからね〜柚葉達は! でもまさかタクミとも知り合いだったとはね〜」

 

 

同じ映画で泣いたり、笑ったり、感情を共有できる友達はかけがえのないものだろう。

 

 

「今度三人で映画を観ましょう。タクミも、映画にはかなり詳しいの」

 

「買い被りすぎだよ。お姉ちゃん程じゃないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───えっ、今アンビーの事『お姉ちゃん』って言った?」

 

「あっ」

 

 

向こう一週間は柚葉にからかわれることが確定したタクミだった。

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